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鉛筆で書く動作が苦手な学習障害のお子さんが楽しく学ぶには?
紙の表面に凹凸をつける「バーコ印刷」という印刷技術を持つ株式会社オフィスサニー。日本ではあまり使われてこなかった、この技術を生かす方法として始めたのが、子どもの発達支援教材の製造でした。その事業のブランド名が「できるびより」です。
以前、HugKumでご紹介した「手指で感じる凹凸おなまえドリル」もこのブランドの製品です。児童発達支援の専門作業療法士・鴨下賢一先生監修のもと、今までにない新しい教材を生み出しています。
学習障害(限局性学習症、LD)の学会に参加した際にできるびよりの方々が耳にしたのは「鉛筆を持って書く動作が苦手で、繰り返し書かねばならない漢字ドリルに拒否反応を示す子どもが多い」という話でした。それは特別支援や療育に関わる先生からの生の声です。ここから「凹凸かんじドリル」の制作がスタートしました。
鉛筆を持たず、書かずに学ぶ方法を模索
鉛筆を持って書くことが苦手なお子さんに無理をさせないこと。つまり、鉛筆を使わずに漢字を覚える方法はないのか?そう考えた時に、できるびよりが今までに作ってきた商品で用いた凹凸ができる印刷方法を活用できることに気づきました。
「指で触れた時の感触で漢字を学習するドリル」を作ってはどうか?とコンセプトが固まりました。
子どもは大人と比べて「ものに触った時の感覚に敏感」であることも1つの理由でした。
書き順をしっかり覚えられる工夫がいっぱい
「鉛筆では最低限の回数だけ書けばよい」。ただし「書き順は、とめ・はね・はらいがスムーズに進み、整った文字を書く助けになるものなのでしっかり覚えてほしい」。そこで出来上がったドリルはこのような形になりました。
step1
文字の輪郭が盛り上がっているのと同時に、輪郭の内側がたくさんの盛り上がった丸いドットで埋めつくされている漢字が印字されています。指でなぞることで、文字の形をしっかりと感じることができるようになっています。
このドットの並び方にもこだわりがあり、小学校の特別支援クラスで教えていらっしゃる先生にアドバイスをいただき、一番ドットを感じられるこちらのデザインが採用されたそうです。
step2
輪郭線が盛り上がっていますが、輪郭の中にあるドットがなくなり、代わりに書き順がわかるように色と番号がついています。ここで書き順をしっかりと頭に入れていきます。
step3
輪郭線が盛り上がっているのは変わりませんが、色の印刷がなくなり、書き順の方向と番号が印字されているだけのものです。ここまでの3ステップは6cm四方の枠の中に大きく印刷されています。
step4
「かきじゅん」と「よみかた」確認してから
3cm四方の小さな枠内に文字を書くのは3回だけ。1度目は濃いグレーをなぞり、2度目は薄いグレーをなぞる。最後に自分の力で書いて完了です。
指の感覚で覚えることを中心とし、鉛筆を用いる回数を最低限にしたのです。
「触るのが楽しい!」でOK
勉強に対して「楽しい」と思うことが一番大切なことですよね。
その楽しさは、例えばお気に入りの鉛筆や消しゴムであったり、好きな教科だからという理由だったり、十人十色お子さんによって違うと思います。
「手指で感じる凹凸かんじドリル」の効果を裏付ける学術的根拠はまだありませんが、このドリルには「書くことが苦手」なお子さんが、気負いすることなく取り組めることを一番に、「この凸凹を触るのが楽しい!」「ついつい触りたくなってしまう」と、気軽に漢字ドリルをやってもらいたいという気持ちが込められています。また、障がいの有無に関わらず楽しんで勉強できる教材であるとも言えます。
筆者も小学2年生の娘と実際にこのドリルを試してみました。
各ページのstep1、盛り上がったドットで埋め尽くされている文字を触っていると少しくすぐったい適度な刺激が感じられます。娘は「どんどん触りたくなっていく」と、しばらく指でなぞっていました。
また「もっと画数の多い文字がやりたい」と自らページをめくり、「雨」をさわり、色がついた書き順を確認しながらなぞり書きをし、最後に書き順のみで色のないところで何度も輪郭線を触りながら練習をしていました。その後、もっと難しい感じはないのかな?と自らどんどんステップアップをしていきました。
小学一年生で学ぶ漢字は身の回りでよく見るものばかり
現在の教育指導要領で小学1年生が学ぶ漢字は80文字です。漢数字の一から十や月・火・水と曜日の漢字、大・中・小、先生など、日常生活で本当に基礎となる漢字ばかりです。
このドリルは、A4を横にした状態で1枚の紙に左右に1文字ずつ配置されています。掲載順にも法則があって、横に並ぶ二つの漢字はなるべく関連のある字を選んでいます。一文字一文字に書き順や読み方がしっかりと書かれていて、例文は小学生にとって身近な言葉をチョイスしています。
誰かに優しい製品はみんなに優しい
「苦手ならばその苦手を別の方法でカバーすればよい」このドリルと開発時のストーリーから感じ取った素直な感想です。他にも、真っ白な紙を見るとまぶしく感じてしまう方への配慮をした紙選びをしています。
このドリルはどんな方にも使っていただける漢字ドリルです。お子さんが漢字を苦手、嫌いになる前にぜひ使ってみてください。
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文・構成/ふじいなおみ