「半夏生(はんげしょう)」の意味や由来を解説。やってはいけないことや「命を落とす」「妖怪」の言い伝えも?

「半夏生」は、夏至から11日目の7月2日頃から七夕までの5日間のことです。暦の七十二候の一つで、田植えを終わらせる目安にもなっています。また、過ごし方や食べ物に関する言い伝えも多いため、言葉の由来とあわせて解説します。

「半夏生」の意味と由来とは

「半夏生」は「はんげしょう」または「はんげしょうず」と読む言葉です。どの期間を指すのか、また言葉の由来についても見ていきましょう。

「半夏生」は夏至から11日目の末候

半夏生は、夏至から11日目の7月2日頃から七夕までの5日間のことをいい、その初日を指すこともあります。

江戸時代までの日本では、太陰太陽暦(旧暦)を使っていました。現在使われている太陽暦と違って、太陰太陽暦は太陽の動きとずれてしまうことが多く、農作業などの目安としてはあまり役に立たなかったそうです。

そこで、1年を二十四節気(にじゅうしせっき)に分けて把握するようになりました。二十四節気をさらに三つに分けたものが七十二候(しちじゅうにこう)です

 

半夏生は、二十四節気の一つである夏至を、さらに三つに分けた初候・次候・末候のうちの末候にあたります。また、季節の目安となる日なので雑節(ざっせつ)ともいいます。

なお、2023年は夏至が6月21日(水)、半夏生が7月2日(日)~6日(木)です。

ちなみに夏至の初候は乃東枯(なつかれくさかるる)、次候は菖蒲華(あやめはなさく) という

植物の名前が由来

半夏生の名前の由来は、半夏(はんげ)とも呼ばれる烏柄杓(からすびしゃく)という植物が生え始める時季だからといわれています。半夏は烏柄杓の球根の皮を取って乾燥させて作る、漢方の生薬(しょうやく)です。

また半夏生という名前を持つ、烏柄杓とは別物の植物も存在します。こちらの植物は、七十二候の半夏生の時季に咲くために半夏生という名前が付いたといわれています。

半夏とも呼ばれるカラスビシャク(左)、半夏生の時季に咲くことから名づけられたハンゲショウ(右)

植物の半夏生(上画像・右)は、葉の一部が白く変化し「まるで半分だけ化粧をしたように見える」ことから「半化粧」と呼ばれるようになり、転じて「半夏生」になったという説もあります。

田植えを終える目安でもあった

二十四節気や七十二候は、農作業の目安として利用されていました。そのなかで、半夏生は田植えを終える目安でした。

田植えは、夏至が過ぎてから始めて、半夏生の前に終えるのがよいとされています。半夏生を過ぎてもまだ田植えをしているようなら、秋の収穫が減るとさえいわれていました。

田植えをするのに適した時季を表した言葉として、熊本県の辺りでは「チュウ(夏至)は外せ、ハンゲ(半夏生)は待つな」という言い伝えがあるほどです。

米と麦の二毛作を行っている地域では、半夏生は、麦の刈り取りと田植えを終わらせなければならないハードな時節でした。農作業が大変な時季であるだけに、タイムスケジュールを示す半夏生は大事な指針だったのでしょう。

そうした苦労から、無事に田植えを終えた半夏生の日には、神に感謝する行事を行う地域が多かったようです。

「半夏生」にまつわる言い伝え

湿度の高い時季であるためか、半夏生には物忌み(ものいみ)や妖怪伝説など、さまざまな言い伝えが残っています。

物忌みの日として飲食や行動を控える

半夏生の5日間は物忌みにあたり、働いてはいけない、身体を休める日といわれていました。物忌みとは、大事な儀式や神事を行う前に、飲食や行動を謹んで身を清めることです。

具体的には、天から降ってくる毒を防ぐために井戸にふたをしたり、毒が含まれている地で育ったからと、半夏生に採った野菜・山菜を口にしなかったり、という過ごし方をしていたといいます。

湿気が多くカビが生えやすい時季であったため、食中毒や疫病を警戒した先人の知恵だったのでしょう。

各地の言い伝え

半夏生にまつわる言い伝えは各地に残っています。いくつかあげてみましょう。

●佐賀県 畠の地の神(地荒神・ちこうじん)を祭る日
●青森県 半夏生後に田植えをしてしまうと、1日あたり1粒ずつ収穫が減る
●埼玉県 竹の花が咲いたり消えたりしているのを見ると命を落とすので、竹林に入ってはいけない
●三重県 ハンゲという名の妖怪が徘徊する

「命を落とす」や「妖怪」といった、不気味な言い伝えが多いのが特徴のようです。

「半夏生」に食べられるものは?

よくいわれるのは、半夏生にはタコを食べるという習慣です。タコ以外にも、小麦餅やうどん、焼き鯖などを食べる地方もあります。

豊作を願ってタコを食べる

半夏生にタコを食べるのは、稲の根がタコの吸盤のように強く土地に根付いてほしいという願いからといわれています。主に関西地方で言い伝えられたようです。

タコには、肝臓の働きを助けるタウリンという栄養素が豊富に含まれているからという説も有力です。重労働の田植えを終えた後なので、体力をつけるためという目的もあったのかもしれません。

なお、タコを食べるという風習が全国的に普及したのは、昭和に入ってからです。

参考:タウリンとはどのような栄養素ですか:農林水産省

小麦餅やうどん、焼き鯖なども

二毛作を行っている地域では、半夏生は麦を収穫する時季でもあることから、半夏生に小麦餅を食べる習慣も伝わっています。麦の刈り入れと田植えを終えたタイミングで、収穫した小麦で餅を作って食べるのです。関西では半夏生餅ともいわれて親しまれています。

同様に、香川県では、半夏生に小麦から作るうどんを食べる習慣があります。本場さぬきうどん協同組合は7月2日を「うどんの日」と決めて、さぬきうどんの普及に努めてきました。

半夏生に焼き鯖を食べる習慣があるのは、福井県大野市です。江戸時代、大野藩主が疲労回復のため、焼き鯖を食べることを推奨したのが始まりのようです。その他、愛知県では、不老長寿の果物とされていたイチジクを味噌田楽にして食べる地域があります。

夏の季語「半夏生」

半夏生は季節の変わり目を表す言葉なので、古くから俳句の季語にも採用されています。

「半夏生」を使った俳句を紹介

半夏生は夏の時候を表現する季語です。「半夏」の付く季語は他にも「半夏(はんげ)」「半夏水(はんげみず)」「半夏雨(はんげあめ)」などがあり、いずれも夏の季語です。

半夏生を詠んだ俳句には次のような作品があります。

風鈴の 夜陰に鳴りて 半夏かな
ふうりんの やいんになりて はんげかな
飯田蛇笏(いいだだこつ)

 

病室に 降る煤のあり 半夏生
びょうしつに ふるすすのあり はんげしょう
石田波郷(いしだはきょう)

 

口開けて 息する鶏や 半夏生
くちあけて いきするとりや はんげしょう
贄川いずみ(にえがわいずみ)

参考:新版 いちばんわかりやすい俳句歳時記 春夏

「半夏生」は身体を労わる時節

半夏生は、夏至から11日目の7月2日頃から七夕の前までの5日間のことです。また、その期間の初日を指していうこともあります。半夏生までに田植えを終わらせようという、農作業の目安にもなっていました。

重労働の田植えが終わったら、半夏生にタコや小麦餅などを食べる習慣がある地域が多いようです。地域によっては、焼き鯖やうどん、イチジクの味噌田楽を食べるところもあります。

このような習慣は、半夏生がじめじめして体調を崩しやすい時季であることから、「身体を労わりましょう」という先人の教えだといえます。

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構成・文/HugKum編集部

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