二百十日(にひゃくとおか)の意味は?
二百十日とは、どのような意味なのでしょうか。まずは暦における二百十日の意味を解説します。
立春から数えて210日目を指す雑節
二百十日の基準となる立春は、夏至・秋分・冬至などと同じ二十四節気の一つです。二十四節気は春・夏・秋・冬をそれぞれ六つに分けたもので、古代中国で考えられたとされる暦です。
雑節とは、季節の変化を把握するために設けられた二十四節気以外の日を指しています。二百十日のほか、節分・八十八夜・彼岸といった聞いたことのある雑節も多いでしょう。
なお、2023年の二百十日は9月1日(金)です。
自然災害が起きやすい厄日とされる
現在使われている太陽暦(グレゴリオ暦)では、稲が開花を迎える9月1日ごろが二百十日にあたります。一方で二百十日から10月にかけては、台風が日本列島に接近・上陸する時期です。
台風による雨風は、農作物を育てている田畑やビニールハウスを破壊してしまう可能性も考えられます。このような自然災害に備える意味合いから、厄日として二百十日が設けられたという説もあります。
また1923年9月1日は、首都圏を直撃した「関東大震災」が起きた日です。約35年後の1959年9月には「伊勢湾台風」が起こり、多くの死傷者が出ました。
日本では1960年から9月1日を「防災の日」としており、災害に備えた避難訓練を行う学校も少なくありません。
二百十日に関連するあいさつ・俳句・小説
普段は聞き慣れない二百十日ですが、実はさまざまなシーンで利用されている言葉です。二百十日を使った時候のあいさつや俳句・小説を紹介します。
時候のあいさつ「二百十日も穏やかに過ぎ」
時候のあいさつとは季節を取り入れた表現で、手紙の冒頭・結びに用いられます。「二百十日も穏やかに過ぎ」は、二百十日を過ぎた9月ごろの時候のあいさつに使われる表現です。
例えば「二百十日も穏やかに過ぎ、心地よい秋の季節を迎えました」と書くと、「こんにちは」よりも季節感のある手紙に仕上がります。その上で「皆さま、いかがお過ごしでしょうか」のように、相手の案否を気遣う文章を入れるのがポイントです。
二百十日を季語にした俳句
俳句における二百十日は、1872年まで使われていた太陰暦(旧暦)の8月を表した仲秋の季語です。高浜虚子の「荒れもせで二百十日のお百姓」という句は、無事に過ぎた二百十日に安堵する農家の様子を表しています。
また、尾崎紅葉が詠んだ「風少し鳴らして二百十日かな」からは、風が少し吹いた程度で台風や大雨に遭わずに済んだという安心感が伝わってきます。わずか4文字で自然災害を連想させる「二百十日」は、時代を超えて受け継がれている言葉といえるでしょう。
夏目漱石の短編小説「二百十日」
「坊ちゃん」「吾輩は猫である」などで知られる夏目漱石も、『二百十日』という短編小説を発表しています。夏目漱石が熊本県の阿蘇山に登った体験を基にした物語で、2人の青年の会話文を中心に構成されているのが特徴です。
前半部分は圭(けい)さんと碌(ろく)さんが宿に泊まり、阿蘇山に登ることを決意する様子が描かれています。後半部分で2人は阿蘇山に登り始めるものの、途中で嵐に遭遇して断念します。宿で朝を迎えた2人が話し合いを重ね、阿蘇山への再挑戦を誓い合うという結末です。
圭さんは漱石自身をモデルにしているという説もあり、記録から漱石が阿蘇山に登ったのは9月1日だったと考えられています。
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二百十日前後に行われる風祭り
農家にとって二百十日は、心を込めて育てた作物が被害を受ける可能性のある厄日です。そのため二百十日前後の8〜9月には、全国各地で風を鎮めるための祭りが開催されています。山形県・富山県の風祭りの詳細を見てみましょう。
【8月】山形県「大谷風神祭」
「大谷風神祭」は、山形県西村山郡朝日町で毎年8月31日に実施されている行事です。2023年は8月31日(木)の開催が予定されています。1755年ごろから250年以上続いているといわれる伝統的な行事で、地区ごとに作製した山車が地域内を練り歩きます。
町内では家の門口に田楽提灯を立て、神輿が通る予定の道筋に盛り砂をするのが風習です。祭りのフィナーレには花火が打ち上げられ、地域をあげて天災が起こらないように願います。
【9月】富山県「おわら風の盆」
富山県富山市八尾町の「おわら風の盆」は、二百十日の前後にあたる9月1〜3日に開催されます。風を鎮めて豊作を祈る行事に由来した祭りで、哀愁ただよう「越中おわら節」が特徴的です。11の町内会が参加し、「町流し」と称して踊り手たちが歌と演奏に合わせて町内を踊り歩きます。
2023年も9月1日(金)〜3日(日)の開催が予定されていますが、8月20日(日)〜30日(水)の前夜祭は開催されません。行事の詳しい内容は公式サイトで随時公開されるので、気になる人はチェックしてみましょう。
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二百十日を機に防災について考えてみよう
立春から210日目を指す二百十日は、季節の変化を把握するために設けられた雑節の一つです。現在は、稲が開花を迎える9月1日ごろが二百十日に該当し、台風や集中豪雨といった自然災害が起こりやすい厄日とされています。
歴史的な被害を受けた関東大震災や伊勢湾台風も、二百十日の時期に起きた自然災害です。国は9月1日を「防災の日」と定めているため、家族で防災を考えるよい機会かもしれません。地震・台風などが起きた際の待ち合わせ場所を決めたり、防災グッズを点検したりと、予測が難しい自然災害に備えましょう。
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構成・文/HugKum編集部