不登校が長期化すると青春が丸ごとなくなる
わが子に不登校の気配が見えてきたら、親は何をしたらいいのでしょう。「何が嫌なの?」「学校の何かが不安なの?」と親子で対話を持ったり、医療機関や学校の側に相談したりといった行動が一般に考えられると思います。
この夏からはプラスして『不登校生 動画選手権』を親自身が見て、不登校とは何なのかを肌で感じてみてもいいかもしれません。
『不登校生 動画選手権』とは、ショートムービーのプラットフォーム『TikTok(ティックトック)』とNPO法人全国不登校新聞社(東京都)がこの夏、世界で初めて共催した青春の舞台で、自分の不登校の経験を応募希望者が動画にして表現し合う大会です。
エントリー資格は、不登校の(になった)経験を持つ人たち。不登校の経験者が、他の不登校の人たちに向けて、自分の不登校の体験を動画で伝える選手権ですね。
「勉強は、いくらでも後からやり直せます。しかし、不登校が長期化すると、青春が丸ごとなくなるケースも出てきます。道徳未履修という言葉がありますが、不登校の子どもたちは『青春未履修』になりがちです。
そんな不登校の子どもたちが青春できる舞台、自分たちの経験を社会に役立てられる晴れの舞台を用意したくて企画しました」(石井志昂さん)
イメージは野球の「甲子園」。石井さんは別に、動画制作や投稿を通じて、親たちを感動させたいわけでは全くないと言います。大人など正直、蚊帳の外だとすら言い切ります。
「不登校の子どもたちは、他の不登校の人に出会う機会がなかなかありません。しかし『不登校生 動画選手権』では、自分以外の不登校の人たちに出会えます。不登校の子どもたちが『自分だけじゃない』と感じられるようなコミュニティをつくりたいと思いました」(石井さん)
不登校の当事者たちの心境
しかし、この『不登校生 動画選手権』は結果として、蚊帳の外だったはずの大人たちにも大きな価値を持つようになったと石井さんは語ります。
2023年(令和5年)8月18日には東京都現代美術館で表彰式が行われ、審査委員長の中川翔子さんを始めとする審査員の下で、入賞作品も決まりました。
表向きに言えば、ひと夏の青春の舞台は終わってしまったわけですが、今もなお公開され続ける応募動画には、不登校に直面する子どもたちの心の様子を大人たちが理解するためのヒントがたくさんあるのだとか。
「一般的に、不登校の子どもたちが、自分の中で起きた出来事を言語化するまでには10年を要すると言われています。その理由は、不登校の要因があまりにも複雑に重なり合っているため、容易に言葉にできないからです。子どもたちは結局『分からない』としか口にできません。
しかし『不登校生 動画選手権』では、世界でも類を見ないくらい豊富なバリエーションで、不登校の当事者たちの心境が語られています。
『しんどいなら学校に行かなくてもいいんだよ』とわが子に本心で言うためには、親の側も納得する必要があります。わが子がなぜ行き渋るのか納得できるまで、選手権の応募作品を見て、当事者の声を聞いてみてもいいのかもしれません」(石井さん)
何も言わずに寄り添い続ける
『不登校生 動画選手権』で最優秀賞に選ばれた「ハリケモノ」さんの作品を石井さんは取材中に解説してくれました。
14歳の女子がつくった作品を見た時「専門家の監修が入っているのではないか?」と衝撃を受けたくらい見事に、不登校の子どもたちの心境が描かれていると言います。
「ハリケモノ」さんのアニメーション作品には一切の説明が出てきません。作者自身の投影と思われる小動物のハリネズミは何の前触れもなく、自分の殻に閉じこもります。
身の回りの人たちの優しさに対しても全身を針にして抵抗します。しかし、何も言わずに寄り添い続けてくれた人の存在によってある日、視野が開け、世界に色彩がよみがえり、自分の人生を再び歩み始める様子が描かれています。
「寄り添う」とは
「『寄り添う』とは、学校に戻るだとか就職するだとか、何かのゴールから逆算して支援する姿勢とはちょっと違うのかなと思います。
不登校であっても、どうやって毎日を楽しくすごすか、物理的に近い場所で一緒に考えてあげる、それが『寄り添う』なのかなと思います。
何も変化が見えないと、親御さんとしてはあれこれ言ってしまうと思います。ただ、子どもたちにはしんどいです。
ちょっと例が違うのかもしれませんが、独身時代に親から『結婚しろ』と繰り返し言わるとうるさいですよね。黙っていてくれと。
子どもたちも一緒です。不登校の子どもたちも、外からは見えにくいですが、チョウのさなぎが殻の中で日々、劇的に変化しているように、内側では変化しています。」(石井さん)
親としては、分かりにくさや焦りもあって、余計な言葉を言ってしまいがち。だからこそ『不登校生 動画選手権』の応募作品を鑑賞して、わが子の内面に起きている変化を少しでも理解してあげられるといいのですね。
不登校の子どもたちの心境に一部でも納得ができれば、親の側も余計な一言で状況を悪化させずに済むかもしれません。ぜひ、チェックしてみてくださいね。
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取材・文/坂本正敬