クリームに配合されてる「尿素」って何? 人体での役割と不思議な働き【親子で人体を学ぶ】

どうやって体内で作られるの?

尿素とは、尿に含まれる成分で、アンモニアと二酸化炭素からできています。そんな尿素は、からだの中でどうやって作られ、人のからだにとってどんな重要な意味があるのでしょうか? また、尿素が配合されたクリームなどでは、尿素はどんな働きをしているのか見てみましょう。

尿素の基本知識

まず尿素とは何なのか、基本から見てみましょう。

尿素とは?

尿素とは、アンモニアと二酸化炭素でできたたんぱく質。化学式は「CO(NH2)2」、英語では「urea」です。尿素は、1773年にフランスの化学者ルエルが発見しました。尿素自体は無色無臭で、よく水に溶ける性質があります。

以前は、尿素のような有機物は生物のみが合成できるものと思われていましたが、1824年にドイツの学者が実験で尿素の合成に成功。生物以外にも、化学的に合成できることが証明され、現在では尿素を化学的に合成する方法が複数開発されています。

なぜ「尿」という名前がついているの?

尿素には「尿」という名前がついています。このことに疑問を感じる方もいるかもしれませんが、それは最初に尿素が発見されたとき、尿の中から分離して見つけられたから。

尿は90%以上が水分でできていますが、そのほかに含まれている主成分が尿素なのです。また、人間の尿だけでなく、尿素は哺乳類、両生類、魚類の排泄物にも含まれている成分です。

尿素は動物の体内に存在する

尿素は生物の尿に含まれていることが多いですが、生物の体内にも幅広く存在していることがわかっています。

例えば、サメ、エイなどの軟骨魚類には筋肉の中に多くの尿素が含まれ、キノコやカビなどの菌類の中にも少量ですが尿素が含まれています。つまり、尿素は人間も含めて、多くの動物たちにとってとても身近な存在なのです。

どうやって体内で作られるの?

どうやって体内で作られるの?
どうやって体内で作られるの?

尿素は、アンモニアと二酸化炭素からできるとご紹介しました。では、その尿素はからだの中でどうやって作られているのでしょうか?  人間のからだで起きている変化について見てみましょう。

アンモニアから尿素への化学的変換

人や細菌など、さまざまな生き物はたんぱく質でできています。たんぱく質はアミノ酸が多数集まってできた物質で、アミノ酸を分解するとアンモニアが生まれます。

例えば、腸内にいる細菌が産出するなど、からだのあちこちでアンモニアが発生しているのです。ただ、アンモニアは私たちにとって有毒な物質。そこで、体内で生まれたアンモニアを使って尿素に変えられるのです。

肝臓の役割

体内で生まれたアンモニアが尿素に変えられる場所は、肝臓です。グルタミンまたはアラニンの形で血液にのって運ばれたアンモニアは、肝臓に届けられると、肝臓で尿素に変換されるのです。

このとき活躍するのが、「オルニチン」というアミノ酸。アンモニアがオルニチンと反応して尿素に変えられており、このサイクルを「オルニチン回路」と呼びます。

つまり、肝臓の大切な役割のひとつが、アンモニアという有毒な成分を尿素に変えて無毒化すること。私たちのからだの中では毎日、そんな解毒するサイクルが行われているのです。また、肝臓では「オルニチン回路」の他に、「TCAサイクル」と呼ばれるサイクルも行われていて、これは私たちが活動するときに必要なエネルギーを産生しています。

腎臓から尿となって排出される

肝臓でアンモニアから合成された尿素は、血液にのって腎臓に運ばれます。腎臓には「糸球体」という場所があり、ここは老廃物や有害物質、塩分などをろ過する働きがあり、こうしてろ過されたものが、尿となって体外に排出されることになるのです。

腎臓がろ過する血液の量は、1日におよそ150リットルにもなり、1日に1~1.5リットルほどの尿を排出しています。

人体にとっての尿素の重要性

尿素
人のからだに大切な「尿素」の存在とは(画像は顆粒状の尿素。肥料などに転用される)

尿素というと「尿」という字がついているせいか、なんだか汚いもの、良くないものと思われてしまうかもしれません。でも尿素は私たちにとって、とても身近な物質で重要な意味を持っています。

体内の毒素を排除

私たちのからだにとっていいものばかりを取り入れることができればいいですが、からだの中では不要なもの、有害なものも生まれてしまいます。そのうちのひとつがアンモニアです。

血液中に含まれるアンモニアの濃度が増えると、皮膚から出るアンモニアの量も増えていきます。これが、いわゆる“加齢臭”や“疲労臭”のもと。そして、アンモニア濃度が増えると、脳に障害をもたらす可能性もあるのです。

だから、体内で生まれたアンモニアは排除しなければなりません。そのときに生まれるのが、尿素というわけです。

水分のバランスを保つ

尿素には、水分のバランスを保つという役割もあります。

私たちのからだは数多くの細胞でできていて、角質細胞の中には天然保湿因子というものがあります。天然保湿因子とは、その名前の通り、うるおいのもと。そして、天然保湿因子にはセラミド、尿素、乳酸などがあるのです。

これらは、細胞の中で水分を抱え込んで長時間キープする働きがあります。それによって、皮膚がしっとりみずみずしい質感になるのです。

尿素の面白い事実

尿素は、スキンケア製品や肥料に使われるなど、意外な活用方法もたくさんあります。

尿素を使ったスキンケア製品?

尿素はボディクリーム、フェイスクリームなどのスキンケア製品にもよく使われています。これは、先に紹介したように、尿素が天然保湿因子のひとつだから。水分をキープする力があるため、とくに保湿力やうるおいを重視したクリームに配合されます。

保湿力というと、コラーゲン、ヒアルロン酸などの成分が有名ですが、尿素入りのものを使ってもいいでしょう。

保湿力のある尿素を配合したハンドクリームもある

動物の冬眠と尿素

クマなど、冬眠する動物にも尿素が関わっています。冬眠中の動物は、糞や尿を排出することなく、何か月も眠り続けています。そこで「おしっこで排出される尿素はどうなっているのか」と気になりませんか?

驚くことに、冬眠している動物の体内では、排出されるべき尿素が膀胱で再び再吸収されて、それを分解して窒素やたんぱく質に変えているのです。

長いこと冬眠していても、元気な状態を維持できる動物たち。冬眠にはまだまだ解明されていない謎も多いそうですが、尿素を再吸収するという仕組みは、そんな冬眠の不思議のひとつにつながっているかもしれません。

肥料に使われる

尿素は、園芸やガーデニングの肥料にも使われています。これは尿素には窒素が含まれているから。窒素はたんぱく質のもとになるものなので、植物の成長には欠かせない存在。特に、葉や茎を大きくすることが知られています。

家庭菜園の野菜や観葉植物の葉が黄色く変色してしまったら、それは窒素が不足しているサインかもしれません。そんな場面を防ぐために、窒素は肥料に使われているのです。

また、尿素は水に溶けやすい性質があるため、尿素肥料もさっと水に溶けて素早く植物に吸収されやすいという特徴があります。

尿素は大切な存在

尿素と聞くと「汚いもの?」「ニオイがする?」と思われるかもしれませんが、尿素自体は無色無臭の物質。尿に含まれていることでよく知られていますが、人間にとっても、それ以外の多くの生物にとっても、体内に幅広く存在している物質なのです。

そして、優れた保水能力があることからスキンケア製品に使われていたり、植物の成長を促す肥料に使われていたり、さまざまな場面で活用されているのです。

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