小学生から視覚障害の80歳のおじいちゃんも!“誰でも参加できる”が画期的な「高知市民ミュージカル」に初挑戦した親子に直撃

12月16日(土)、17日(日)に公演される高知県内在住者であれば“誰でも参加できる”高知市民ミュージカル「Gift of Life 〜にぎやかな植物園〜」で、演技に初挑戦した2組の親子を直撃!現在、初舞台に向けて猛稽古中ですが「すでにとても豊かな経験ができています」と話してくれました。

小学生から80歳のおじいちゃんまで!“誰でも参加できるミュージカル”のやりがいとは?

左から・花牟禮杏ちゃん、花牟禮華倫ちゃん、花牟禮健司さん親子 撮影/山崎伸子

地域の文化活動を推進を目指す市民参加型のミュージカルを“市民ミュージカル”といいますが、最近ではいろいろな規模の舞台が全国のあちこちで開催されています。

今回高知県では、高知市文化プラザかるぽーとにて11年ぶりに高知市民ミュージカル「Gift of Life 〜にぎやかな植物園〜」を12月16日(土)、17日(日)の2日間で開催しますが、年齢や社会的立場、障がいや舞台経験の有無に関係なく、“誰でも参加できる”というこれまでにない新しい形で参加者を募りました。

本作の舞台は、神木隆之介主演のNHK連続テレビ小説「らんまん」で話題を呼んだ植物学者・牧野富太郎博士の業績を記念した「牧野植物園」。主人公は、植物園の新人職員である舞(上村彩華さん)で、彼女が植物好きのお客さんや個性豊かなボランティア、スタッフ、そして様々な植物たちとふれあう中、あるクリスマスの夜に小さな奇跡に遭遇します。

花牟禮華倫ちゃん 撮影/門田幹也

原案は劇作家・山内一昭氏で、「雑草という草はない」という牧野博士の名言も登場しますが、「Gift of Life(命の贈り物)」、すなわち人間だけではなく、植物も含め、生きとし生けるものすべての命を称える物語を体現すべく、参加者は応募資格を問わずに大募集。
脚色・演出担当の濱田善久氏率いる高知の精鋭スタッフ陣のもと、下は小学生から、上は80歳の視覚障がい者であるおじいちゃんまで、90名の参加者、20名を超えるサポーターが集結しました。中には聴覚障がい者の演者もいますが、聴覚に障害などがある方に向けても、高知市民ミュージカルとしては初めて、字幕が表示されるタブレット端末を貸し出す観劇サポートも実施します。

最高齢である西本陸空海さん、御年80歳 撮影/門田幹也

そんな心温まる市民ミュージカルに、親子で参加された方はたくさんいましたが、その中からHugkumでは2組の親子に「初めてミュージカルに参加した感想」を伺いました。

1組目は狩野直美さん(52歳)、真愛美さん(10歳)親子、
2組目は花牟禮(はなむれ)健司さん(43歳)、華倫(かりん)さん(21歳)、杏(あんず)さん(13歳)です。

―まずは、今回、市民ミュージカルに初参加された動機から聞かせてください。

狩野直美さん 撮影/門田幹也

直美さん:以前大阪に住んでいたころ、歌を歌う仕事をしていました。高知へ来てからは子育てをしながらずっと他の仕事をしていて歌からは遠ざかっていましたが、市民ミュージカルが開催されると聞いて昔の記憶が蘇り、ぜひやってみたいと思いました。
今回一番、魅力的に感じたのは「誰でも参加できるミュージカル」というコンセプトです。娘は軽度の知的障がいがありますが、親子で一緒に舞台に立てるチャンスなんてなかなかないと思い、娘と一緒に参加することにしました。

―参加動機についても、そこが大きかったとうかがっています。

直美さん:知的障がいといっても、個々でそれぞれ障がいの程度が異なります。でも、学校での制度でいくと、特別支援学級は「知的障害特別支援学級」「自閉症・情緒障害特別支援学級」とざっくり2つに分けられ、やはりいろんなことが制限されてしまいます。

真愛美はこれまでずっと「普通級」で頑張ってきたのですが、小学校の高学年になるとなかなか難しく、5年生の2学期から「知的障害特別支援学級」に移りました。このミュージカルに参加することで、障がいがあるから、何かを諦めてしまうのではなく、やりたいと思ったことなら頑張ればできる!ということを娘に体験してほしかったので応募しました。

―真愛美さんが、ダンスをしている姿を拝見しましたが、とても楽しそうに頑張っていらっしゃいますね。

狩野真愛美さん 撮影/門田幹也

直美さん:真愛美は幼稚園の頃から、ずっとキッズダンスのチームに入っていて、5年生に上がる時、その上のクラスに入れたんです。最初は右左もよく間違えていたのですが、どんどんマスターするのが早くなっていきました。今ではダンスに関しては私よりも記憶力がよくて、 一度、頭に入ると忘れないんです。

―本当に子どもの記憶力はすごいですよね。花牟禮ファミリーは、パパと娘さんたちと3人でミュージカルに参加されました。それぞれ応募動機を聞かせてください。

華倫さん:私と妹が、本作のダンス指導をされている山本沙希先生(Saki Dance academy)のダンススクールに通っていて、ミュージカルのオーディションワークショップがあると聞いてそこに参加しました。私は将来、テーマパークのキャストやショーのMCといったお仕事をしたいと思っていて、妹の杏もミュージカルの道に進みたいと言っているので、今回2人で挑戦してみようと思いました。でも、私たちは父が応募することをまったく知らなかったんです。

―え!?健司さんは、娘さん2人に内緒でエントリーされたのですか?

花牟禮健司さん 撮影/門田幹也

健司さん:はい(笑)。子どもたちには言ってなくて、ちょっとサプライズ的に参加しようかなと思ったのですが、オーディション前に、参加者の名簿が回ってきたので、そこでバレてしまいました(苦笑)。

華倫さん&杏さん:かなりびっくりしました!

―健司さんは、お芝居やダンスなどの経験はあったのですか?

健司さん:もともと子どもたちが小さい頃から、一家でよさこい踊りに参加していたし、人前で踊ったりすることは嫌いじゃなかったんです。また、杏は将来、劇団四季のようなミュージカルに出てみたいという夢を持っていたので、今回、3人で参加できてよかったなと思いました。

親子で参加し日々感動!いろいろな発見があった

狩野直美さん、真愛美さん親子 撮影/山崎伸子

―実際に参加してみて、いかがでしたか?

直美さん:過去にやっていた歌の仕事とは全然違うなと思いました。以前は、すべてお膳立てをしていただいた上で、出演者としてポンと乗っかるような立場でしたが、今回は市民ミュージカルということで、0からみんなで作り上げていく感じで、そこがとても大変だけど、すごく楽しいなと感じています。また、スタッフさんたちが私たちの見えないところで、いろんなことをしてくださっていることもわかりましたし。

華倫さん:誰でも参加できるミュージカルということで、本当にいろんな世代のいろんな方がいらっしゃって、自分が今までの人生で出会えなかったような方々ともたくさんお話をする機会をいただけて、稽古はとても楽しいです。良い人生経験になっていると思っていて、これまでよりも少しだけ視野が広がった気がしています。

花牟禮杏さん 撮影/門田幹也

健司さん:最初は自分の台詞を覚えることで手一杯で、芝居相手のことなんて考える余裕がなく、自分の台詞を言い終わったらもう終わり、といった感覚でした。でも、徐々にそこは変わっていった気がします。お芝居は相手の台詞を受けて、自分がリアクションしなければいけないってことが、今回初めてわかり、だからこそ難しいなと思いました。

杏さん:よさこいなどで父が踊る姿は見たことがありましたが、舞台に立つ父を見て、すごいなあ、こんなこともできるんだって思いました。

また、私は将来ミュージカルの舞台で活躍できる人を目指していてるので、今回参加してみてみんなで実際に本読みをした時に、こういった人と人との関わりってすごく大切だなと感じました。また、同じ中学生役の子が、台本にいろんな書き込みをしているのを見て、見習いたいと思いました。

―お父さんは、娘さん2人の練習を見てみて、どんなお気持ちですか?

小学生たちのパフォーマンスも見応えたっぷり 撮影/門田幹也

健司さん:ダンスは見たことがあったけど、演技をしている姿は初めて見ました。華倫はもともと人前に出ることが好きだったけど、杏はちょっと恥ずかしさを感じているのかなと思っていましたが、今ではだんだん良くなってきて、すごく成長が感じられます。

―直美さんは、真愛美さんの練習を見ていかがですか?

直美さん:最初に親子で一緒に参加しようと思ったのは、やっぱり1人で参加させて大丈夫かなという不安があったからです。理解力などで、周りにご迷惑をかけないかなといった心配もあったのですが、参加してみたら、真愛美より小さいお子さんから、上はすごく年配の方もいらして、みなさんがまるで真愛美を本当の家族みたいに見てくださいます。そういう温かい場所なので、真愛美にお友達もできましたし、何も心配することはなかったなと思いました。また、私も練習のたびに成長が見られ、やっぱり一緒に参加できてよかったなと思います。

真愛美さん:ミュージカルって、歌もダンスもお芝居も、いろんなことができて、すごく楽しい!もっと続けたい!って思う。

「雑草という名の草はない」というテーマを幅広い世代で体現

左から・花牟禮杏さん、花牟禮華倫さん、花牟禮健司さん親子 撮影/山崎伸子

―やんちゃな小学生から、年配の方々、障がいのある方々まで、いろいろな方が参加されていますが、誰かが誰かをサポートするというよりは、“ミュージカル仲間”として同じ目線で、1つの目標を見据えて頑張っていらっしゃるという印象を受けます。手話を使うシーンもありますが、そこでは聴覚障がい者の役者さんが、手話の手本を示していらっしゃいました。

杏さん:私自身これまで手話をやったことがなかったけど、手話を使って人と人がつながりを持てることが、今回身をもって知りました。舞台を観にきてくれた方も、きっとそういうことを一緒に感じられる部分があると思うから、手話のシーンがあることは、めちゃくちゃいいことだなと思っています。

健司さん:私は福祉関係の仕事をしているので、手話に馴染みはありましたが、自分ではそこまでできないんです。ただ、今回ハイライトで手話を使うシーンでは、メッセージが伝わる度合いがより増すような気がしています。

―朝ドラ「らんまん」でも話題となった、牧野富太郎博士が唱えた価値観は、時代を超えて現代を生きる私たちにもすごく響きますね。舞台のチラシにある「すべての草には名前がある。みんな、なんかの役割や意味があるんだよ」というコピーも心に染み入ります。

約90名以上が参加した市民ミュージカル 撮影/門田幹也

直美さん:これからの世の中は、もっとインクルーシブな世の中になっていかなくちゃいけないと思います。だんだん周りの環境も変わりつつあり、今ようやくスタート地点からの1歩を踏み出したという印象を受けます。できれば支援が必要な人たちについて、まずはどんな障がいがあり、どういう助けがあれば生きやすくなるのかを多くの人に知っていただきたいし、それを知っていただいた上で、共に生きていくためにはどうすればいいのかを考えてもらえるとうれしいです。学校も含め、“分ける”のではなく“入り込む”形の教育を望みますし、このミュージカルでもそういうことが、大きなテーマになっている気がします。

―まさにそうなんだと思います。ずばり「Gift of Life」、“命の贈り物”ですね。

直美さん:誰もが役割を持っていて「みんな必要な命なんだよ」と、どんな子どもたちも言ってあげたいし、子どもが自信を持ってのびのびと生きていける世界になってほしいです。本作みたいに「誰でも参加できる」という作品はなかなかないかと思うので、そうした輪を少しずつずつ広げていけたらいいですね。

主人公・舞役を演じる上村彩華さん 撮影/門田幹也

華倫さん:私も本当にそう思います。「Gift of Life」ということで、感じられるものが人それぞれにきっとあると思いますが、大前提には、本当にいろんな方たちが集まって、みんなで作り上げているという取り組み自体を、お客さんに観ていただきたいです。
大勢が集まって一生懸命練習し、こんなに素敵な作品が完成したんだということを伝えたい。もちろん、そう感じていただけるように、私たちももっともっと良い作品を作り上げられるように、稽古を頑張らなくちゃいけないとも思っています!

牧野富太郎博士からのメッセージを受け取って! 撮影/門田幹也

杏さん:植物も人間も含めてそれぞれに生きている役割があるというメッセージを感じてほしいです。また、みんなが笑顔で練習をしてきたので、ぜひ本番でも、そういう表情を見てほしいなと思います。

健司さん:牧野先生の「雑草という名の草はない」という言葉には、いろんな意味が含まれているかと。劇中で擬人化された植物たちの関係性はもちろん、私たちの日常生活にもつながっていて、非常に考えさせられる内容です。今回、市民ミュージカルに初参加させてもらって感じたことは、プロの人たちの演劇とは違い、演出の濱田さんが言われていたように、素人が集まり、一生懸命、自分自身の役割を全うしようというプロセスがあるからこそ、プロでは出せない味が出るのかなとも思っています。それこそ「みんな、なんかの役割や意味があるんだよ」という言葉どおりですが、みんなが一丸となって、一緒に頑張ってやっている姿を見てもらえたら、そのメッセージはきっと伝わるんじゃないかなと、僕は信じています。

“誰でも参加できる市民ミュージカル” 「Gift of Life 〜にぎやかな植物園〜」。老若男女、様々な参加者やサポーターの方々、スタッフ陣たち全員が「自分たちの舞台を1人でも多くの方に届けたい」と、この半年間同じ方向を見て頑張ってきました。経験者が未経験者にアドバイスをしたり、様々な問題点を話し合ったり、自主練をしたり、稽古以外ではスタッフ陣だけではなく、小学生から年配の方々まで、参加者自身が自発的にビラ配りをしたり、PR動画を作ったりと、すべてにおいて“全員参加型”で動いてきました。本番の舞台だけではなく、そのプロセス自体も「みんな、なんかの役割や意味があるんだよ」という舞台のテーマを体現している気がしていて実に感慨深いです。私自身もこの舞台を、数多くの方々に見ていただきたいと心から思いました。

こちらの記事もおすすめ

ミュージカルを学ぶことで身につく力とは? 30年間子どもたちの可能性を引き出し続ける児童劇団「大きな夢」に、その魅力を聞いた!
子どもの可能性を引き出すミュージカル教育 大人も子どももワクワクするミュージカル。劇場に観に行くのが好き! というご家庭は多いと思いますが...

 

高知市民ミュージカル「Gift of Life 〜にぎやかな植物園〜」

舞台は現代の牧野植物園。植物好きのお客さんや個性豊かなボランティア、スタッフたちの活気があふれる中で、新人職員の舞はあまりみんなとなじめずにいます。そんな植物園では、夜になると…!?
本作で描かれるのは、昼も夜もにぎやかなクリスマスの植物園で起こる、ちょっと不思議な出来事です。大人たちはきっと、人生で少し立ち止まっている舞に共感し、子どもたちはきっと『トイ・ストーリー』のように、人間たちは知らない植物たちの世界観に心が躍りそう。また、主演に抜擢された上村彩華さんをはじめとする参加者たちの美しい歌声や力強いダンスはもちろん、ファッションデザイナー、コマツキミカ(Juno)さんによる古い着物をアレンジした植物たちの衣装にもご注目。ぜひご家族でご覧ください。

 

場所:高知市文化プラザかるぽーと 大ホール
日時:12月16日(土)12:00開場 13:00開演(追加公演決定!)
12月16日(土)17:30開場 18:30開演(残席わずか)
12月17日(日)13:00開場 14:00開演(完売しました)

料金:全席自由 一般前売り3,000円(当日3,500円)学生前売り2,000円(当日2,500円)
※身体障害者手帳(1、2級)、療育手帳及び精神障害者保健福祉手帳所持者は前売り料金の半額でご覧いただけます。お申し込みは高知市文化振興事業団(電話:088-883-5071 Fax:088-883-5069 メール:kikaku@kfca.jp)まで
※未就学児無料

公式サイト:https://www.kfca.jp/kikaku/gift_of_life/ 公式X:https://twitter.com/K_SMusical
コマツキミカさんの衣装メイキング映像:https://www.youtube.com/watch?v=Rqba1ghx2a0&t=1s

取材・文/山崎伸子

編集部おすすめ

関連記事