「冬将軍」って具体的には何? 夏将軍も存在する? 気象上の意味やナポレオンとの関係も解説

天気予報などで耳にする「冬将軍の到来」という言葉は、どのような状態を意味するのでしょうか? 天気予報における冬将軍の意味はもちろん、言葉の由来についても解説します。日常シーンでの使い方も確認し、知識を深めましょう。

冬将軍の意味・由来

「冬将軍」は、実在する人間を指す言葉ではありません。冬将軍の正確な意味を、由来とあわせて解説します。

冬の厳しい寒さを例える言葉

冬将軍とは、厳しい冬もしくはそれに伴う寒さを、多くの兵を率いて攻めてくる将軍に例えた言葉です。特に積雪量の多い地域では、冬になると大雪が原因で新幹線が止まったり、車が立ち往生したりといったニュースも少なくありません。

たとえ科学技術が進歩した現代でも、人間が雪を降らないようにコントロールすることは不可能です。人間にとって冬の寒さは、生活に大きな影響を及ぼす存在ともいえるでしょう。

冬将軍という表現には、「人間は自然の力にかなわない」というニュアンスも含まれているのです。

ナポレオン軍の敗北に由来

冬将軍という言葉は、ナポレオン軍がロシア遠征に失敗したことを機に誕生したとされています。

1812年、当時のフランス皇帝・ナポレオンは、数十万人の兵を率いてロシアに攻め入ります。同年9月にはモスクワを占領するものの、物資不足やロシア側の抵抗に悩まされ、10月には撤退を決断しました。

ナポレオン軍にとって不運だったのは、例年よりも早く、ロシアに冬が訪れたことです。厳しい寒さや飢え、ロシア軍と農民のゲリラ攻撃によって、ナポレオン軍は大敗してしまいます。

「厳しい寒さ」が敗因の一つとなったロシア遠征の失敗を、イギリスの新聞は「霜将軍(General Frost)に敗れた」と報じます。その言葉が日本で「冬将軍」と訳され、冬の季節に使われるようになったのです。

上はロシアの「冬将軍」を描いたLe Petit Journalの表紙(1916年)。ナポレオンによるロシア遠征から約100年後の、第一次世界大戦におけるヴェルダンの闘いの頃。 Louis Bombled  – online archive of the Bibliothèque nationale de France(PD)

天気予報における「冬将軍」は?

季節が冬だからといって、必ずしも「冬将軍」という言葉が使われるわけではありません。天気予報における「冬将軍」の定義を確認しましょう。

「シベリアから吹く冷たい空気」を表す

天気予報で使われる「冬将軍」は基本的に、シベリア気団による厳しい寒さを表します。シベリアなどの上空で空気が冷やされると、シベリア気団をもたらす「シベリア高気圧」ができます。

このとき、北海道の東の海上に低気圧があると、気圧の高い方から低い方へと風が吹くことになり、シベリア気団から日本に向けて冷たい空気がやってくるのです。このような気圧配置は「西高東低」「冬型の気圧配置」などと呼ばれ、12〜2月に多く見られる傾向にあります。

出典:気象庁 | 日本の天候の概説

主に荒天前の注意喚起で使われる

天気予報では気温の低さではなく、天気図の等圧線を一つの目安として冬将軍の到来を予想します。

例えば、同じ気圧の地点を結んだ等圧線が縦じま状に伸びるのは、冬の冷たい空気が流れ込んでくる合図とされています。等圧線が縦じま状に伸びているとき、気象予報士が注意喚起の意味合いで「冬将軍が到来します」と言うケースが一般的です。

冬将軍襲来時の天気図。西高東低で等圧線が日本列島のあたりでたて縞じま状に長く伸びている。(気象庁ホームページ)Wikimedia Commons

地域によっては、冬将軍が冷たい風と同時に、強風・大雪といった荒天をもたらす可能性もあります。防寒対策に力を入れるのはもちろん、外出を控えるなどの工夫も大切です。

出典:気象庁|日本周辺域 実況天気図の説明

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冬将軍に関する豆知識

冬将軍という言葉は、天気予報以外にもさまざまなシーンで使われています。冬将軍にまつわる豆知識を確認し、生活に役立てましょう。

俳句では冬の季語にされている

俳句における冬将軍は、冬そのものを意味します。冬の季語とされているので、親子で冬将軍を使った俳句を考えるのもおすすめです。

「冬将軍」という季語を使うと、5・7・5の合計17文字が基本の俳句でも、手短に冬の厳しい寒さを表せます。

その他、「冬帝(とうてい)」「玄帝(げんてい)」も、冬将軍と似た意味を持つ言葉です。冬の寒さを神に例えており、いずれも俳句の季語として使えます。

「夏将軍」という言葉はない

冬の寒さを「冬将軍」と表すからといって、夏の猛暑を「夏将軍が到来した」と説明するのは誤りです。冬将軍は、ナポレオン軍によるロシア遠征の大敗を機に使われるようになった言葉と考えられています。使い方に明確な基準がない上に、正式な気象用語でもありません。

なお、俳句においては冬の「冬帝」と同じく、夏の季語として「炎帝(えんてい)」という言葉が使われます。炎帝は夏をつかさどる神で、太陽そのものを表すケースもあります。

日常シーンにおける使い方もチェック

冬将軍は、以下のように日常会話の中でも使える言葉です。

●冬将軍の到来に備えて、厚手のコートを購入した
●週末も、冬将軍が居座って寒いらしい
●寒いのが苦手なので、冬将軍の到来が心配だ

主に、冬の厳しい寒さを伝えたいときに「冬将軍」を使うケースが一般的です。一方で「来週には冬将軍が到来するらしい。スキーを予定しているので、雪がたくさん降るといいな」のように、プラスの意味合いでも使えます。

念入りな防寒対策で冬将軍に備えよう

冬将軍は、天気予報で冬の寒さを説明するときはもちろん、俳句の季語としても使われる表現です。ナポレオンのロシア遠征によって誕生した言葉で、多くの兵が命を落とし、ナポレオンの失脚にもつながった冬の寒さを意味します。

気象予報士が「冬将軍が到来します」と言う場合は、シベリア気団の寒気が流れ込むことに対する注意喚起がほとんどです。家族にも防寒対策を呼びかけ、寒い冬を乗り切りましょう。

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構成・文/HugKum編集部

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