「アントレプレナーシップ」とは。学校教育での必要性や現状、家庭での取り組みについて考える

近年、教育やビジネス現場で「アントレプレナーシップ」が注目されていますが、詳しい内容はよく知らない人もいるでしょう。アントレプレナーシップの意味や求められている背景、学校教育における取り組みを解説します。

アントレプレナーシップとは

アントレプレナーシップ」とは、具体的にどのようなことを指すのでしょうか?  正しい意味と、混同しがちな「イントレプレナー」との違いを紹介します。

新しい事業を創造、追及する精神のこと

「アントレプレナー」は、フランス語の「entreprendre(引き受ける・始める・企てる)」から派生した「entrepreneur」が語源で、ゼロから会社や事業を創り出す人物の意味です。

「アントレプレナーシップ」は、創造意欲に燃え、リスクに果敢に挑む姿勢を指します。つまり、事業を創造したりチャンスを追求したりする精神のことで、「起業家精神」と表現されることもあります。

近年、「アントレプレナーシップ教育」は起業家の育成のみならず、起業家に求められる姿勢や精神を育成する教育も指すようになりました。

似ている「イントレプレナー」

「イントレプレナー」は、「社内起業家」を意味します。企業に属し、社内でアイデアの創造や新サービスの事業化などを担う人物のことです。

新しいアイデアや事業を創造するという点でアントレプレナーと共通していますが、イントレプレナーは企業内で行う点が異なります。

最近は、イントレプレナーの支援や育成をする企業も増えました。例えば、社内で新規事業のアイデアやプランを募集し、採用されればイントレプレナーとして働ける会社もあります。

注目されるアントレプレナーシップ教育

アントレプレナーシップ教育は、なぜ注目されているのでしょうか?  求められている背景や、期待されている成果を見ていきましょう。

アントレプレナーシップ教育が求められる背景

アントレプレナーシップ教育の目的は、変化の速い現代社会を生き抜くために必要な能力の育成です。教育現場でも注目を集め、取り入れようとする動きがあります。

近年のテクノロジーの進化は目覚ましく、労働力を含めさまざまなAI化が進んでいます。急速な社会環境の変化に順応し、より良い社会を築くために、新たなアイデアや価値を創り出していく能力が求められているのです。

アントレプレナーシップを持った人材を育てることは、日本の未来にとっても重要な課題です。

出典:アントレプレナーシップ教育の現状について|pdf p4|文部科学省

起業家マインドの育成へ

アントレプレナーシップ教育によって、起業家に求められるマインドが身に付くと期待されています。例えば、現在ある社会問題を解決するために必要な、課題発見力・想像力・共感力などです。課題を解決するのに必要な、論理的思考も鍛えられます。

また、新たなアイデアや価値観を試すのは、不確実性の高い状況といえるでしょう。そのような状況下でも挑んでいけるチャレンジ精神や、リスクを恐れない勇敢さも身に付きます。最後まで諦めない志の高さや、情熱を持った人材を育成することにもつながります。

新しい道を切り開く実行力も身に付く

起業家マインドを持っていても、考えたことを実現していく能力に欠けていると、社会を変えることは難しいでしょう。アントレプレナーシップ教育では、新しい道を切り開くために欠かせない実行力も身に付きます。

例えば、コミュニケーション力・プレゼンテーション能力・情報収集力・企画力などの行動スキルです。他に、組織を引っ張っていくマネジメント力リーダーシップ・ビジネスノウハウ・責任能力などもアントレプレナーシップ教育の成果として期待されています。

学校でのアントレプレナーシップ教育

日本の教育現場におけるアントレプレナーシップ教育が、どのような状況なのか気になる保護者は多いでしょう。学校の種別ごとに、現状を紹介します。

小・中学校での取り組み

文部科学省は、児童一人ずつの能力を高めるため、2016年度にキャリア教育の一環として「起業体験推進事業」の取り組みを開始しました。

具体的には、学校を会社と見立てた起業や運営の体験授業です。地元企業と連携した、農業や木工製品の製造・販売などの体験学習も行われています。

加えて、地元企業や大学から人を招き、産業の仕組や地域の課題などについて基本を学ぶ講座を行っている学校もあります。

高校での取り組み

高校では2022年度より、探究活動(総合的な探究の時間)が必修になりました。生徒が自身のあり方や生き方を考えつつ、社会や実生活の課題を発見し、解決する能力の育成が目標です。

企業と連携した商品開発体験を実施している学校や、生徒たちが主体となって疑似的に株式会社を設立・経営を体験する機会を設けている学校もあります。

授業を通じて、社会への貢献意識や他の生徒との協調、新しい自分の可能性を発見し自己肯定感を育てるといった効果が期待されています。

大学での取り組み

大学でも学生向けのビジネスコンテストや、起業家向けの育成教育が行われています。しかし諸外国と比較して、日本のアントレプレナーシップに関する各指標は、相対的に低いのが現状です。

全国の大学・大学院におけるアントレプレナーシップ教育受講者は、約1%だという調査結果があります。実施している大学が少ないことや、指導者・リソースの不足が大きな要因です。

学生自体の関心も低い傾向にあり、より多くの受講者を獲得することや指導者の育成が課題といえるでしょう。

出典:
小・中・高等学校等における起業体験推進事業:文部科学省
アントレプレナーシップ教育の現状について|pdf p2、p22|文部科学省

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小学生から始められるアントレプレナーシップ教育

子どもにアントレプレナーシップ教育を受けさせたいと思っても、通っている学校では熱心に取り組んでいないケースもあるでしょう。学校以外の場所でアントレプレナーシップ教育を取り入れる方法を紹介します。

家庭での子育てに生かす方法

家庭での子育てを通して、アントレプレナーシップ教育をすることも可能です。まずは親と子どもの人生は別であると認識し、子どもの選択を尊重します。

幼いころから、親が選んだものを与えるのではなく、子どもに選択させる習慣をつけましょう。自分で考え選ぶことで、主体的に選択する力や責任感を学べます。

子どもと対話することも大切です。子どもの意見だからといって軽率に扱わず、良い意見は柔軟に取り入れると、子どもの自己肯定感が高まります。

物語やニュースをもとに未来を想像させたり、仮説を立てさせたりするのもおすすめです。正しいか正しくないかではなく、考えさせること自体がアントレプレナーシップ教育になります。

アントレプレナーシップ教育を行う私塾も

小中高生向けにプログラムを提供している私塾もあるため、そのような場所を利用して学ぶのも選択肢の一つです。

例えば「ちばアントレプレナーシップ教育コンソーシアム Seedlings of Chiba」では、学校・自治体との連携や大手企業の協力のもと、多彩な活動を行っています。

「類塾」の開講した「こども起業塾 with BizWorld」では、会社作りの過程を一通り体験できます。

「アントレプレナーシップ開発センター」では、小学生から大学生までを対象とした、さまざまなプログラムを実施中です。小中学生向けの「起業のアイデアコンテスト」もあり、採用された人にはアイデアの実現をサポートする取り組みを行っています。

出典:
ちばアントレプレナーシップ教育コンソーシアム Seedlings of Chiba
こどもの起業塾 類の仕事学舎
アントレプレナーシップ開発センター

現代社会に必要なアントレプレナーシップ

アントレプレナーシップは、起業家精神と表現されることもある、ゼロから事業を創造したりチャンスを追求したりする精神のことです。急速に変化する現代社会を生き抜くために、起業家マインドと新たな価値を創造していく力が求められています。

ただし現状では、学校でのアントレプレナーシップ教育への取り組みは、充実しているとはいえません。子どもの自立心や創造力を育むためには、家庭での接し方を意識したり、私塾の利用を検討したりなど、保護者の積極的な働きかけも大切といえるでしょう。

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構成・文/HugKum編集部

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