小宮山利恵子さんに聞く、AI時代を「生き抜く力」――子どものために親が学び続けることが必要な理由

PR / 日本新聞協会

これからの子どもたちは、チャットGPTなどさまざまな先進テクノロジーの中で生きていく必要があります。変化が目まぐるしい時代を生き抜くための「親の学びの姿勢」について、スタディサプリ教育AI研究所所長・小宮山利恵子さんが日本新聞協会×HugKumの特別セミナーで講演しました。ポイントは「五感を使った学びの場」を作ることと、親自身の「知のアップデート」です。

子どもたちの65%はまだ見ぬ仕事に就く

スタディサプリ教育AI研究所所長・小宮山利恵子さん

目まぐるしく変化するこれからの社会を生き抜くために、「こうすれば大丈夫」というはっきりとした地図はありません。どうすればいいかというと、自ら未来への「コンパス」を持つ必要があります。「社会はこっちに行くことになりそうだ。だから、私はこういう方針で子どもと接しよう」と考えなければいけません。

先進テクノロジーと人間の共存は避けて通れません。2011年に就学した子どもの65%は、今はまだ存在しない職に就くと言われています。

チャットGPT のような生成AIがビジネス現場により浸透すると、事務職、弁護士などホワイトカラーの仕事が影響を受けると言われています。クリエイティビティも共感力も必要としない仕事は、AIにとって代わられてしまいます。

子どもたちの学習環境も私たちの頃とは大きく変わっています。GIGAスクール構想が一気に進み、子どもたちには一人一台、PCやタブレットが配布されています。東京大学はチャットGPTを含めた生成系AIについて、「まず皆さん自身で使ってみるのが良いと思います」と学生向けに通達を出しています。子どもの学ぶ道具が変化する中、親が新しいテクノロジーの良さと課題を知ることはとても重要です。

子どもたちには一人一台、PCやタブレットが配布されている

AI社会を生き抜く上で必要になる力とは

では、このような時代を生き抜くためにどのような能力が求められるのでしょうか。

チャットGPTは、質問を入力すると、AIがインターネット上の膨大な情報を学習して人間のように自然に答えてくれるサービスです。つまり、ユーザーが質問しなければ答えは返ってきません。まず、「問いを立てる力」が必要になります。AIの答えは正しいとは限りません。その答えを評価する能力も求められます。AIが導いた答えを参考に自ら考え、行動に移せるかどうかも重要です。

AIは蓄積された学習データに基づき、人間から与えられた疑問や問題に対する「中央値」を出すことはできます。しかし、現代社会では、AIの回答から漏れた「外れ値」にこそ価値があるんですね。

これから身につけるべき能力について、家庭ではこの「外れ値」の部分を子どもたちにどう身につけさせるかを考えなくてはいけません。

AIが教育に入ってくることで必要になる能力(小宮山利恵子さん作成資料)

「いい失敗をどれだけするか」が学びのカギに

これまでの社会は、一つの正解をいかに速く正確に解くかという「情報処理力」が求められてきました。これからは、複数の正解があったり、正解がそもそもなかったりします。このような時代には自分の好きな物事の情報を得て、自ら分析して発信する能力が重要となります。そこで今、注目されているのが「アントレプレナーシップ(起業家精神)教育」です。

アントレプレナーシップ教育とは?(小宮山利恵子さん作成資料)

現代の日本は

・国際競争力の低下

・雇用形態の変化(終身雇用や年功序列の見直し)

・不確実な時代に対応しなければいけない

という状況にあり、自ら問いを立てて考える力を育てることが必要だと考えられています。アントレプレナーシップ教育には、経団連や文部科学省も今後力を入れていくと表明しています。

これまで日本では起業家がなかなか育ってきませんでした。なぜかというと、日本では失敗に対する恐れが強いことが原因だと思っています。これまでは失敗をできるだけしない学びが学校では行われてきましたが、これからはいい失敗をどれだけするかが学びとして重要になっていきます。

また「動きながら考える」ことも重要です。テクノロジーを使った社会の発展は速く、考えてから動くのでは間に合いません。動いて失敗し、改善しながら考えていくべきです。失敗することを否定的に捉えず、失敗に学ぶことが大切です。私はこれを「知の探索」と呼んでいます。

教育で大切なことは、正しい知識の伝達と、物事に挑戦し失敗した経験から使える知識を獲得させることです。これを親自身も理解し、親が一歩踏み出す姿勢を子どもたちに見せることが重要です。

五感を使った学びで子どもが「好き」を見つける手助けを

われわれ親ができることは、子ども自身が自分の「好き」を見つける機会を増やし、それを育てる環境を準備することです。

具体的には、

・子どもの存在価値/親とは異なる価値観を認める

・コンフォートゾーン(日常)を抜ける体験をさせる

・小さな選択肢を持たせる機会を多く創る

・自分で選択させる

ことです。

私はこれからの学びの「宝庫」は地方にあると思っています。山や川、牧場や博物館に行ってみるなど、親は子どもの好奇心が広がる「五感を使った学び」の提供に手間を惜しんではいけません。日常にはちょっとした選択肢がたくさんあります。小さな選択をさせて、なぜそれを選んだかを考えさせる、ということを繰り返していくとよいと思います。

「うちの子はゲームばっかりやっていて困る」という家庭もあると思います。私の息子もゲームにのめり込んだことがありましたが、中学2年の時、サマースクールに参加したことがきっかけで、一気に勉強に集中するようになりました。この時、息子は「勉強は生産的だけど、ゲームはそうじゃないことに気付いた」と言っていました。若い頃の過集中は、違う物に興味が移るとそちらで力を発揮します。ゲームは健康を害さない程度なら一概に悪いとは言えないな、というのが私の意見です。

新聞を読むこともおすすめです。わが家では、子どもが小学生の頃から新聞を学びに取り入れています。息子には株を持たせているんです。息子は株価を見るために、新聞を毎日読んでいます。まず興味のある株価の面(ページ)から読み、次第に文化面、国際面など他の面も一通り読むようになりました。新聞を読むようになってから息子のアンテナが高くなっていることを感じています。

社会人は1日平均6分しか勉強していない!足を使った学びが差を生む

最後に、私たち大人はこれからどう生きていけばいいのでしょうか。何を学ぶべきなのでしょうか。

人生100年時代といわれています。65歳を過ぎてもまだ約35年あるわけです。子どもには勉強しなさいと言いますが、大人は学んでいるでしょうか? 日本の社会人は1日平均6分しか学習していないというデータがあります。そうすると、130分でも学べば周りと差が出てきます。学び続けることは自分の信用を高めることにつながります。

現在はオンラインの学習サービスが充実し、思い立った時に気軽に学べるようになりました。さらに、新しいアイデアを生むには足を使った情報収集も大切です。行動量+インプット量=思考の解像度の高さにつながります。

Q&Aコーナー

 イベントでは、参加者から熱量の高い質問が多く寄せられました。一部をご紹介します。

質問①:AIによる翻訳技術が上がっている現代でも、英語学習は必要でしょうか?

そもそも語学を学ぶことは異文化を理解することも含みます。やはり対面で話す場合、翻訳アプリを使うとタイムラグが生じるので、これからも学習は必要だと考えます。

質問②:デジタル教育が主流になると、考える力やコミュニケーション力が育つのか心配です。

 いかに自分たちの日常から飛び出す機会を作るかがカギになると思うんですよね。私は息子をルワンダやインドなどに連れて行きました。すると、子どもの頭にはてなマークが生まれ、疑問がどんどん生まれてくるんですね。子どもの「どうして?」を生むことは親の腕の見せ所です。

息子が小学1年~3年の間は、「きょう見つけた新しいことを3つ教えて!」と毎日尋ねていました。学校の行き帰りに、目線を上げたり振り返ったりするだけでも見えるものが変わってきます。身近な変化を意識すると、視点が広がり考える力がついてくると思います。

質問③:親がよく知らないことを子どもがやりたがった時、「いいよ」と言える自信がありません。

まずは親が、それに触ってみるべきです。一番残念なのは、親がダメということで子どもの好奇心や可能性をつぶすことです。そのためにも親が生成系AIも使って学んでいきましょう。

登壇者プロフィール

小宮山利恵子|スタディサプリ教育AI研究所所長、東京学芸大学大学院准教授

国会議員秘書を務めた後、()ベネッセコーポレーションの会長秘書に。その後、テクノロジーと教育の関係に関心を持ち、グリー()に入社。オンライン教育アプリ「スタディサプリ」を立ち上げた山口文洋氏に取材で出会い、「スタディサプリ」のビジョンに共感。2015年株式会社リクルート入社、現在に至る。2019年度より東京学芸大学大学院准教授を兼務。超党派国会議員連盟「教育におけるICT利活用をめざす議員連盟」有識者アドバイザー。経団連EdTech戦略検討委員会座長。著書に『新時代の学び戦略』(共著、産経新聞出版)。『レア力で生きる 「競争のない世界」を楽しむための学びの習慣』(KADOKAWA)などがある。

文・構成/徳永真紀