5歳の娘とともに世界一周を決意したきっかけは番組の降板…。32カ国を旅し、帰国直後のキャスター・榎戸教子さんが語る「子どもと向き合う旅で感じたこと、変化した価値観」

榎戸教子さん

5歳の娘とふたりで世界一周旅行に出かけていた、経済キャスターの榎戸教子さん。1年間の旅を終え、2024年3月に帰国しました。なぜ世界一周をしようと思ったのか、子連れの世界旅行はどんな風に過ごしていたのか。気になるお話をご紹介します!

「何でもできる」ことを教えてくれた世界一周の旅

2023年3月31日~2024年3月11日の1年間、5歳の娘とともに、6大陸に渡る32カ国の100を超える都市を巡りました。昔からの夢だった世界一周。日本を離れて子どもとふたりで過ごした時間は、「何でもできる」ということを教えてくれました。娘とたっぷり時間を過ごして、娘の大きな成長も感じられた旅。そんな旅の様子をお伝えします。

1年で回った国(32カ国を周遊)

榎戸教子さん
デンマーク、ポーランド、フランス、スペイン、イギリス、トルコ、イスラエル、パレスチナ、エジプト、ケニア、夕ンザニア、ウガンダ、ルワンダ、南アフリカ、ナミビア、エチオピア、カナダ、アメリカ、メキシコ、キューバ、ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイ、チリ、南極、コロンビア、ハワイ、ニュージーランド、オーストラリア、シンガポール、マレーシア、バングラデシュ、ブータン、ネパール、日本

きっかけはキャスターを務めていた番組の降板

経済番組のキャスターを長年務めていました。仕事が大好きでしたが、娘が生まれてからは思い通りにいかないことがたくさんあり、仕事も子育ても、自分の中での合格点がとれない状況にずっとモヤモヤしていました。

そんな中、去年の3月でキャスターを担当していた番組から外れることに。正直とてもショックでした。降板を知らされた翌日、暗い気持ちのまま、夫に「番組外れるんだよね。時間ができるし旅行でも行ってみようかな」と伝えたところ、「いいね! そういえば、前に世界一周が夢って言ってたよね」と言われました。

その言葉に「確かにそうだった。世界一周旅行に行こう!」とスイッチが入ったのです。そこから気持ちが前向きになり、残りの番組出演を務めるとともに、世界一周の計画をスタート。5歳の娘と2人旅ということで、夫はもちろん心配していましたが、ありがたいことに応援してくれました。

「世界の公園に行く」という約束

航空会社の世界周遊チケットを購入し、大陸間の大まかな移動については決めていましたが、残りのフライトは現地でLCCを使って直前に取ることも多く、自分の心のままに進む自由度の高い旅でした。旅行先では、娘とそれぞれが行きたい場所を話し合い、何をするか決めていました。時間に縛られることなく、ゆったり過ごすことも多く、公園を3つはしごした日もあります。

旅に出る前に娘と約束したのが「世界の公園に行く」ということ。事前に調べてさまざまな公園を巡りました。

フランスのニースには、地元の彫刻家が木材で作った一点ものの遊具が並ぶ公園があり、印象的でした。

あたたかみのある遊具。娘は気に入って何度も通いました

南アフリカのケープタウンもとてもよかったです。広々とした大きな公園には、3歳ぐらいまでの子が安全に遊べるところ、もう少し大きい子どもが身体を動かせるところ、大人がのんびりできるカフェ、ピクニックエリアなど、誰もが満足できるよう工夫されていました。

ケープペンギンも間近に見られました

カナダのトロントには町中いたるところに公園や噴水の遊び場がありました。子育て政策に力を入れているからこそ、安心して過ごせる公園が充実していて楽しい街でした。

綺麗に整備されているセントジェームス・パーク

住みたいなと思ったのはオーストラリアのパース。パースから30分ほど離れたフリマントルという街もすごく好きでした。海沿いの街なのでビーチがたくさんあるのですが、遠浅の海が広がって子どもも遊ばせやすくて。ビーチにも遊具があったり、DJをする人がいたり、スケボーをする人がいたり。夕日を眺めながら、みんながのんびりしていて、とても居心地がよかったです。

ビーチにも遊具がありました

子連れでの食事問題

子連れの旅で大変だったことは食べ物です。娘は初めての食べ物に慎重になるタイプなので、なかなかチャレンジできなかったり、アジアは辛い物しかない国もあったり、子どもの健康も気になったり…ということで滞在先はキッチン付きの宿泊施設を選んで自炊し、おにぎりは常に持ち歩いていました。

持ち歩いていたおにぎり

日本からは、そば、うどん、お米、ふりかけ、顆粒のカレー、顆粒のだしを持ってきていたので、お肉と野菜を現地で購入し、カレーやパスタを作って自炊していました。現地のお米は日本のようなおいしいお米ではないですし、簡単な料理でしたが、時間がたっぷりある中で子どもと食卓を囲むと、日本にいるときとは違う格別なおいしさがありました。

娘と食卓を囲む幸せな時間

水が止まってしまったことも

世界一危険と言われている南アフリカのヨハネスブルグ、マフィアのイメージがあるコロンビア、戦争の前のイスラエルやパレスチナなど、「危険」なイメージのある国にも訪れました。外務省の情報をチェックし、出歩く時間帯に気をつけていたこともあったため、怖い思いをしたことはありませんでした。
ただ、アフリカのケニアやタンザニアでは水が出なかったり、出てもすぐ止まってしまったりすることがありました。お湯が2分くらいしか出なくてシャワーを浴びられないこともありましたが、娘は不便さを受け入れて楽しんでくれていたように感じます。
「日本では当たり前でも、世界では当たり前ではないんだよ」と説明すると、5歳ながら分かったようで、文句を言うことはありませんでした。

私自身、今までが特別だったと見直すきっかけになりましたが、固定観念のない娘にとっては、すんなり受け入れられたのかもしれません。

エジプトの路地で。赤ちゃんが大好きな娘が家族を見つめていたら、手招きしてくれたので娘は駆け寄っていきました

子どもと一緒だからこそ分かったことは、ないならないで何とかなるということ。お米を炊くお鍋がなければフライパンでも炊けるし、あるもので何とでもなるし何でもできる。日本は選択肢が多すぎて、帰ってきたらなんだかせわしない気持ちになりました。自分にとってそれほど大事ではないことを選択するためにたくさんの時間や労力を費やしていることを実感して、豊かさって何だろうと。もっとシンプルでいいのかもしれないと思うようになりました。

子連れに優しいと感じたウルグアイ

滞在中ウルグアイでパスポートを失くしてしまったことがありました。警察署に行ったり証明写真を撮ったりしなければならなかったのですが、「自分の子どもと遊ばせて娘を見ていてあげるよ」と言ってくれた人や、車に乗せてくれる人など、会ったばかりで手を差し伸べてくれる人がたくさんいる優しい国でした。そのとき助けてくれた方がここで助けなければウルグアイ人じゃないと言っていて。自分の国のことを好きだからこその言葉がとても印象的でした。

ウルグアイの日本大使館

旅が進むにつれてたくましくなった娘

世界一周する中で娘の成長もたくさん感じられました。最初は公園に行っても「ママ、あの子と遊びたいから言って」と頼ってきていたのが、旅が進むうちにどんどん物怖じしなくなり、自分から声をかけられるように。言葉が通じなくても現地の子どもたちとおままごとなどをして遊んでいました。頑張って話しかけたのに無視されることもありましたが、何度もトライして楽しく遊んでいる姿に頼もしさを感じました。

現地の子どもたちと自然に遊ぶようになっていました。

身体が強くなったことも、娘の大きな変化です。旅行中はよく歩くことがあったのですが、そんなときは私とキャラクターになりきって、ごっこ遊びでストーリーを作りながら歩くと、いくらでも歩いてくれました。大人の足で毎日1万歩以上は歩いていたので、かなり体力がついたと思います。旅行中も体調を崩すことなく過ごすことができました。

悩みを相談できる親子関係に

娘の成長だけではなく、親子の関係にも変化がありました。旅のなかで私自身の完璧ではない姿を見せることで、娘が悩みを私に伝えてくるようになったんです。
シドニーのオーストラリア国立海洋博物館に行ったとき、娘が現地の子と仲良くなって遊んでいたために、私が見たかった潜水艦を見られなかったことがありました。そのとき、娘の前で「次に私がここに来れるのいつだと思う?」と泣いてしまって。

前は「親なら子どもの前で泣くべきじゃない」と思っていたのですが、ふたりでいる時間が長い旅の中。感情が爆発しないためにも、抑え込まないようにしていたんです。私がそんな姿を見せたことで、娘も私に小さな悩みを話してくれるようになりました。
つい先日も、保育園で悲しかったことを書いた手紙をくれました。ママに伝えたらわかってくれる、自分の気持ちが落ち着く、と思ったから伝えてくれたんだなと思うととても愛おしかったですね。これからも、自分に余裕をもって話を聞いてあげたいなと思っています。

メキシコ・チチェンイツァ遺跡にて。とても暑かったので、朝一番に訪れました

帰国後、小学校受験を見直すことに

娘から生まれてくる好奇心や興味に寄り添うことができた1年。働いていたときはなかなか作れなかった時間を持てたことで、子育ての価値観も変わりました。
旅行に行くまでは、娘は英語を学べる幼稚園に通わせて、小学校受験も視野に入れていました。しかし、旅行から帰ってきた今、受験はいったんやめることにしました。

そして、園庭や運動場のある公立の保育園に入り直すことに。今回の旅で娘と長く一緒にいることで、体を動かしたいタイプだと分かったんです。旅ができるのも体が強いからですし、今は身体づくりの時期だと考えました。
以前はいろいろな情報や周りの人たちに影響されて、自分に子育ての軸がなかったように思います。世界に行くと学校にも通えない人たちがたくさんいて、その子たちが不幸かというと全くそうではなかったり、とても楽しそうな笑顔をしていたり。そんな状況を見て、周りと一緒でなくてもいいし、違ったらまたそのときに考えればいいと思うようになりました。

ケニア・ナイロビのスラム街で仲良くなった子どもたち

 

地球規模でものごとを考えられる人に

ナミビアのナミブ砂漠

今回32カ国を巡って、豊かさについて考え直し、娘と時間をかけて向き合えたことで、子育てに関して自分の考えがはっきりし、そんな自分のことが少し好きになれた気がします。

今回の世界一周旅行を通して、娘は子どもながらに、いろんな子どもが存在するということや、日本の豊かさは当たりまえのものではないと分かってくれたように思います。これからも、人々の生活をよくするにはどうしたらいいか、日本だけではなく地球のことを考えられる人になってほしいなというのが、親としての想いです。

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お話を聞いたのは…

榎戸教子さん
榎戸教子|キャスター
静岡県出身。大学時代にスペイン国立サラマンカ大学へ留学。さくらんぼテレビ、テレビ大阪のアナウンサーを経て2008年より経済キャスターに。BSテレ東や日経CNBCで経済ニュース番組のメインキャスターを務める。
世界一周の様子を語ったエノキドノリコの世界一周ラジオ

取材・文/酒井千佳 構成/HugKum編集部

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