異次元の少子化対策とは?
近年、テレビのニュースや新聞では「異次元の少子化対策」が取り上げられています。「異次元ってどんな意味?」と疑問を感じている人も多いはずです。異次元の少子化対策とは何を指すのでしょうか?
岸田内閣が掲げる「こども未来戦略」のこと
異次元の少子化対策とは、岸田内閣が行う少子化対策のキャッチフレーズです。「異次元」には、「異なる次元」「通常とは異なる大胆な施策」という意味があります。
日本では、少子化が深刻化しています。欧米に比べて、仕事と子育ての両立支援が乏しく、結婚や子育てに希望を見いだせない若者が多いのが実情です。所得面や雇用面の不安があり、「子どもを養える自信がない」という人も少なくありません。
2023年1月の年頭会見で、岸田文雄内閣総理大臣は「異次元」という言葉を用い、従来とは異なる次元で少子化対策を進める意向を示しました。具体的な方針として、同じ年の12月に「こども未来戦略」を発表しています。
こども未来戦略が目指す理念
岸田内閣が異次元の少子化対策を発表した後、内閣府の外局に「こども家庭庁」が設立されました。子どもの利益を一番に考える「こどもまんなか社会」を目指す行政機関であり、少子化対策の司令塔の役割を担います。こども未来戦略では、以下の理念が掲げられました。
●若い世代の所得を増やす
●社会全体の構造・意識を変える
●全ての子どもと子育て世帯を切れ目なく支援する
日本は、女性の家事・育児負担が大きい傾向があります。子育て世帯の大変な現状を目の当たりにし、結婚や出産を諦めてしまう女性もいるようです。
経済的支援も重要ですが、男性が育児に関わることを支援する社会をつくらなければなりません。そのためには、社会全体の構造や人々の意識を変える取り組みが求められます。
出典:こども・子育て政策|岸田内閣主要政策|首相官邸ホームページ
:こども家庭庁
▼関連記事はこちら
岸田内閣の少子化対策はどこが異次元?
岸田内閣は「異次元」という言葉を使い、これまでにない大胆な施策をアピールしました。具体的に、どのような点が異次元なのでしょうか?
スピード重視の加速化プラン
一つ目は、政策のスピードをこれまでになく加速させている点です。政府は、2030年までが少子化傾向を反転できる最後のチャンスと考え、スピード重視の「加速化プラン」を打ち出しました。
加速化プランは、今後3年間で着実に取り組む政策をまとめたもので、「出産育児一時金の引き上げ」や「児童手当の拡充」、全ての子育て世帯を対象とした「保育の拡充」などが盛り込まれています。
また、岸田内閣総理大臣の指示により、本来は第2弾で行うとされていた高等教育の支援拡充や貧困・虐待防止・障害児・医療的ケア児に関する支援策が前倒しされています。
今までにない予算規模
二つ目は、少子化対策にかつてない規模の予算が投入される点です。こども家庭庁の資料によると、加速化プランは、年間3兆6,000億円の予算を確保して進められます。
この予算規模は、子育てしやすい国として有名なスウェーデンをしのぐ水準です。OECD(経済協力開発機構)の加盟国のうち、スウェーデンは「子ども1人当たりの家族関係支出」が最も多く、「自国は子どもを生み育てやすい国だと思うか」の質問に対し、8割以上の人が「そう思う」と答えています。
多くの予算が投入されることで、子育て環境が整備され、妊娠や出産を望む人が増える可能性があるでしょう。
出典:「こども未来戦略」|p7・p32|内閣官房
:子育て支援を抜本強化 | ニュース | 公明党
▼こちらの関連記事も
政策内容は不十分という批判も
こども未来戦略には、多額の予算が投入されますが、一部からは「政策内容は不十分」という声が上がっています。現在議論されている政策は、既にある措置を広げたものであり、目新しい政策が少ないのが現状です。
また、日本の少子化は「結婚しない人の増加」が主な原因です。岸田内閣の少子化対策は、出産後の「子育て支援策」がメインで、婚活支援や晩婚化対策が手薄といえます。
所得の少なさや雇用の不安定さといった「経済的な理由」が出生率低下につながっているのであれば、経済・雇用の改善を行い、若い世代の暮らしぶりを安定させる必要もあるでしょう。
異次元の少子化対策の内容を紹介
異次元の少子化対策は、具体的にどのような施策で成り立っているのでしょうか? こども未来戦略の中から、代表的なものをいくつか紹介します。
児童手当の拡充
今回の少子化対策の目玉の一つが「児童手当の拡充」です。子どもがいる若い世代の所得を増やすため、2024年10月以降は拡充案が適用されます。現行手当との主な違いは以下の通りです。
●支給対象を「高校生世代」まで引き上げる
●生計者の所得制限を撤廃する
●第3子以降に月額3万円を支給する
拡充案が適用されれば、これまで対象外だった子育て家庭の多くが、児童手当の支給対象になります。子育てに伴う経済的負担が軽減されることで、子どもを望む夫婦が増えるかもしれません。
▼こちらの関連記事も参考に
男性育休の推進と育休制度の拡充
2022年10月に実施され、厚生労働省がまとめた「令和4年度雇用均等基本調査」によると、男性の育休取得率は17.13%という結果です。調査対象は、常用労働者5人以上の6,300事業所です。
こども未来戦略では、2030年までに男性の育休取得率を85%まで引き上げることを目標に、以下のような措置を検討しています。
●男女で育休を取得した場合の給付率を手取り10割相当に引き上げる
●働き方を選べる制度を導入する
●子育て時短勤務をする人に給付金を支給する
男性が育休を取りやすくなれば、子どもを産みたい夫婦が増える可能性があります。女性側は、育児負担が軽減される上、就労のチャンスが増えるでしょう。
出典:「令和4年度雇用均等基本調査」結果を公表します|p1|厚生労働省
:こども未来戦略 「加速化プラン3.6兆円」の施策詳細|p1|こども家庭庁
「こども誰でも通園制度」の創設
こども未来戦略の中では、「こども誰でも通園制度」の創設が決定されています。制度が本格的に稼働すれば、月一定時間までの利用可能枠の中で、誰でも子どもを保育所に通わせられます。
日本では、ワンオペ育児をしている人のほとんどが母親です。育児の負担をひとりで抱え込み、心身の健康を損なう人も少なくありません。
こども誰でも通園制度は、就労の有無に関係なく利用ができるため、育児負担の軽減や孤独感の解消につながります。現在、2026年度の本格稼働に向け、全国の一部の施設でモデル事業が進められています。
大きな課題である財源をどうするか?
加速化プランには、年間3兆6,000億円の予算が投入されます。少子高齢化で税収が減少している今、政策実行のための財源をどのようにして用意するかが課題となっています。政府はどのような方法を検討しているのでしょうか?
支援金制度を創設
一つ目の手段は、「こども・子育て支援金制度」による資金の調達です。具体的には、協会けんぽや健保組合といった公的医療保険の保険料に一定額を上乗せし、国民から支援金を広く徴収します。
政府は徹底した歳出改革や賃上げにより、「国全体の負担額」はゼロになると強調していますが、国民一人ずつの負担額は増える可能性があるでしょう。
後期高齢者と現役世代の医療保険料負担に応じて徴収額を配分するため、収入によって支援金の額が変わります。
「こども・子育て支援特例公債」を発行
二つ目の手段は、「こども・子育て支援特例公債」の発行です。「公債(こうさい)」とは、国や地方公共団体が税収の不足を補うために金銭を借り入れることです。厳密には、国の借り入れは「国債」、地方公共団体の借り入れは「地方債」と呼ばれます。
公債の発行は、支援金制度の構築が完了する2028年度までの暫定的な措置であり、発行の延長はありません。2051年度までの返済を目指すとしており、利払いや返済に関する負担は、これから生まれてくる子どもたちに先送りされることになりそうです。
徹底した歳出改革を実施
三つ目は、徹底した歳出改革の実施です。「歳出」とは、国の財政の年間支出のことです。現在の予算を最大限に活用することで、国民に追加の負担を与えないようにする考えを示しています。
歳出改革の中心となるのは、医療や介護などの社会保障制度です。社会保障関連費用を抑えられれば、より多くのお金を少子化対策に回せるでしょう。しかし、患者や利用者の負担が増えたり、給付範囲が縮小したりする恐れがあります。
また、財務省の審議会は、「診療所の報酬単価の引き下げ」によって財源を捻出することに言及しましたが、日本医師会が反発しています。社会保障制度の歳出改革は、課題が山積みといえます。
異次元の少子化対策を活用しよう
異次元の少子化対策は、岸田内閣が打ち出した「子ども未来戦略」を指します。財源の確保に課題があり、政策内容にも不十分な点があるものの、子育て世帯への支援がこれまでになく充実しているのが特徴です。
2024年10月以降からは育休手当の内容が変更され、支給対象が広がります。育休制度や「こども誰でも通園制度」が本格的に導入されれば、今よりも仕事と子育ての両立が実現しやすくなります。異次元の少子化対策を最大限に活用しましょう。
こちらの記事もおすすめ
構成・文/HugKum編集部