「換骨奪胎」とは?
まずは、この言葉の読み方や意味、語源を押さえておきましょう。
読み方と意味
この言葉は『換骨奪胎』と書いて「かんこつだったい」と読みます。
『換骨』とは「骨を交換すること」の意が転じて「詩文の創作法として、先人の詩文の意味を変えずに字句を変えること」を、『奪胎』とは「胎盤を奪うこと」の意が転じて「先人の詩文の内容やテーマはそのままに全体を作りかえること」を意味する言葉です。この2つの言葉を組み合わせて、『換骨奪胎』は「他者が生み出した作品をもとに、新たな独自の作品を作ること」という意味合いで使われます。
由来・語源
この言葉は、中国三大宗教のひとつである道教の肉体改造法において、仙人になるために必要なものとして「換骨と奪胎」が掲げられたことから生まれたといわれます。その後、宋代の書物の「冷斎夜話(れいさいやわ)」の中で、先述したような詩の作法として用いられ、現在の意味で一般的にも使われるようになりました。
「パクリ」よりも「オマージュ」や「インスパイア」に近い言葉
『換骨奪胎』の意味を知って「それってつまり、パクリということ?」と感じた方も中にはいるかもしれません。しかしながら、『換骨奪胎』はあくまでも「新しいものを生み出すために、先人が作ったものから着想を得る」といったニュアンスである点に注意。
そっくりそのまま盗用する「パクリ」とは違い、先人の作品に敬意を持ち、良い部分を活かしつつ新しいもの生み出していくのが『換骨奪胎』です。どちらかといえば「オマージュ」や「インスパイア」に近い言葉として覚えておきましょう。
使い方を例文でチェック!
では、『換骨奪胎』は実際にはどのように使うことができるのでしょうか。例文を通してチェックしていきましょう。
1:私が現代アートとして発表した写真作品は、誰よりも尊敬するレオナルド・ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』の構図を引用した【換骨奪胎】と言える作品だ。
先人の作家の作品内の構図やモチーフ、テーマなどを自分の作品に用いた場合、これを『換骨奪胎』と言うことができます。「盗用」とは違って、先人の作品へのリスペクトの念を込めて、作者本人が「参考にした」「引用した」ことを公言したり、明確にしたりしている場合が多いように思います。
2:母の肉じゃがのレシピを【換骨奪還】し、肉とじゃがいもを使った新たな創作料理を生み出した。
こちらは、既存のレシピをアレンジして新たな料理を生み出した際に『換骨奪胎』を使った例文です。美術や映画などの創作物の話題で使われやすい言葉ですが、もちろん、その他のシチュエーションでも用いることができます。
3:最近近所にできた西洋風のモダンな建築物は、実は伝統的な日本建築の造りを用いた【換骨奪還】と言える建物だ。
先人の技術を参考にした際も『換骨奪胎』は使うことができます。先人の技術の良いところを用いて、真新しい独自の何かが生み出されている場合などに使ってみましょう。
類語や言い換え表現は?
では、『換骨奪胎』にはどのような類語や言い換え表現があるのでしょうか。言い換えに使えそうな類語を中心にご紹介します。
1:温故知新(おんこちしん)
『温故知新』とは、「昔の事柄を学んで、新たな道理や知識を見つけ出すこと」を意味する四字熟語です。既存物から新たな物事を見出すという点において、『換骨奪胎』に近い言葉と言えます。『温故知新』の場合は創作物よりも考えや知識を指す際に使われることが多いです。
2:点鉄成金(てんてつせいきん)
『点鉄成金』とは、「他人の平凡な文章に手を加えて、素晴らしい作品にすること」を意味する言葉です。既存物に手を加えることで新たな作品を作り出している点において『換骨奪胎』に近い言葉と言えそうですが、既存物を「平凡な」ものとし、自分が手を加えたものを「素晴らしい」とするスタンスの違いには要注意。
対義語は?
『換骨奪胎』には明確に対となる言葉が存在しません。ここでは、『換骨奪胎』の反対に近い言葉をご紹介します。
1:唯一無二(ゆいいつむに)
『唯一無二』とは「ただひとつしかなく、他にはない」ことを意味する四字熟語です。先人の作品を参考にする『換骨奪胎』とは反対に近い言葉と言えそうです。
2:独創(どくそう)
「模倣によらない独自の発想で、新たなものを生み出すこと」を意味する『独創』。先人が生み出したものを参考にしながら新たなものを作り出す『換骨奪胎』の反対の言葉として覚えておきましょう。
英語表現は?
最後に、『換骨奪胎』の英語表現として使えそうな言葉をご紹介します。
1:adaptation
“adaptation”とは、「脚色」「改作」などと直訳できる言葉で、既存の作品が他の表現の形に置き換えられることを言い表す際に使われます。“The film is an adaptation from 〇〇.”とすれば、「その映画は〇〇の【換骨奪胎】だ」という意味になります。
2:modification
“modification”とは、「変更」「修正」「手直し」といった意味を持つ英語表現です。既存のものに手を加える点に関しては『換骨奪胎』と共通していますが、「修正」や「手直し」という意味を持つことから、既存のものをより良いものに手直しする『点鉄成金』の方が近いニュアンスを持つ言葉と言えそうです。
創作物には先人からの影響や参考が付き物
今回は、『換骨奪胎』の意味や語源、使い方、類語、対義語、英語表現までをご紹介してきました。小説ひとつをとっても、先人の作家へのオマージュが作品に見え隠れしたりと、創作物には既存作品からの影響や参考が付き物です。なにか作品を見ていて、別の作品からの引用や参照などに気がついた際には、ぜひこの言葉を使ってみてくださいね。
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文・構成/羽吹理美