「守・介・掾・目」って何? 読み方は? 一緒に覚えておきたい言葉も紹介【親子で歴史を学ぶ】

歴史ドラマを見ていると意味の分からない「歴史用語」に出くわすことがあります。「用語が分かればもっとドラマが楽しめるのに」という思いをした経験がある人も多いでしょう。
今回は平安時代を描くドラマによく登場する「守」「介」「掾」「目」について解説します。

「守」「介」「掾」「目」とは国司の等級

日本史に精通している人でなければ、「守(かみ)」「介(すけ)」「掾(じょう)」「目(さかん)」という字面を見て、「国司の等級だね」と即答できる人は少ないでしょう。

国司とはどのような役割なのか、「守」「介」「掾」「目」とはどのような仕事をするのかを解説します。

そもそも国司とは

国司とは、古代日本で運営されていた中央集権的国家体制である「律令制」の下で作られた仕組みで、都から派遣された地方官を指します。

全国に設けられた「国(くに)」「郡(ぐん)」「里(り)」の階層のうち、「国」を統治するために存在するのが国司です。中央政権から派遣された貴族が任命されました。

国司の仕事は「行政」「財政」「司法」「軍事」など多岐にわたります。地方行政全般を担っていたため、国司は現代でいえば都道府県知事のような立場だったといえるでしょう。

国司の歴史

国司の始まりは飛鳥時代から奈良時代といわれています。国家体制として律令制が整備されるとともに誕生しました。

律令制における日本地図。※国名や境界は時代によって異なる

当初の国司は「国」を治める地方官でしたが、律令制が揺らぎ始めた10世紀頃から、国司の権限が強化され始めます。地方行政は国司に任せきりとなり、併せて国司には税の納入が仕事として課されるようになりました。

権限の強化とともに私腹を肥やす国司が後を絶たなかったといわれています。時代が進むにつれて国司の腐敗は深刻化しました。

鎌倉時代に入って武士の権限が大きくなると、国司は弱体化して形骸化します。その後国司は、「名前だけ」の存在として幕末頃まで残り続けました。

「守」「介」「掾」「目」の仕事

「守」「介」「掾」「目」という言葉は、国司の等級に付けられた名前です。「守」が「国」を統治する長官的な役割で、「介」「掾」「目」と等級が下がっていきます。

(かみ)」の仕事は任命された「国」の行政や司法です。お役所仕事の全てを統括する存在として、律令制下の日本で活躍しました。

(すけ)」は「守」の補佐的役割を担う等級です。「守」が不在のときには「守」の代理として地方行政に当たりました。

(じょう)」は国の記録作成をはじめとする書記業務が主な仕事です。法に背く行為の取り調べも行ったといわれています。

(さかん)」の仕事は国内の取り締まりや文書の点検・修正などです。

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異なる意味で使われる「守」「介」「掾」「目」という言葉

奈良時代から平安時代にかけて、国司の等級として使われてきた「守」「介」「掾」「目」という言葉は、国司制が崩壊した後、国司の等級以外を表す言葉として使われています。

「守」「介」「掾」「目」の別の意味を紹介します。

後世で使われる官職名としての「守」「介」

「守」と「介」という言葉は「官職名」として後世まで使われました。官職名を冠した名前して代表的なのが、江戸時代中期の官僚「大岡越前忠相(おおおかえちぜんのかみただすけ)」や江戸時代中期に幕府と朝廷の仲介役として仕事をした「吉良上野義央(きらこうずけのすけよしひさ)」などです。

大岡越前守(おおおかえちぜんのかみ)の「守」は官職名が由来

国司の等級名として使われていた「守」と「介」は、室町時代になると公家や武士の身分を表すただの「官位」に成り下がります。

戦国時代になると、身分に関係なく、勝手に官職名を自称するケースも見られるようになりました。「守」や「介」を官職名として使う流れは、明治維新の頃まで続いたといわれています。

出典:大岡越前守忠相の官職名「越前守」などにみられる「○○守」という名称はどのようにつけられたのか? | レファレンス協同データベース
武士の官職名を調べる | リサーチ・ナビ | 国立国会図書館

浄瑠璃の太夫に贈られる称号「掾」

「掾」という言葉は、近世以降、浄瑠璃で活躍した太夫(物語の語り手)に称号として与えられました。浄瑠璃とは、三味線の演奏をバックに太夫が語る「節の付いた文章」によって物語を紡ぐ伝統芸能です。

浄瑠璃で使われた称号としての「掾」は、「大掾(だいじょう)」「掾」「少掾(しょうじょう)」の3階級に分けて与えられました。太夫として「掾」の称号を与えられることは、最大級の栄誉だったといわれています。

「掾」の称号を与えられていた太夫の例としては、江戸で活躍した「桜井丹波少掾(さくらいたんばのしょうじょう)」や大阪で活躍した「井上播磨掾(いのうえはりまのじょう)」、京都で人気があった「宇治加賀掾(うじかがのじょう)」などが挙げられます。

出典:掾(ジョウ)とは? 意味や使い方 – コトバンク

ある名字の由来といわれている「目」

「目」は、現代でも名乗る人がいる名字の由来になっているといわれている言葉です。その名字が「目」と書いて「さかん」と読む名字です。

「目」という名字の由来には諸説あるものの、「目」と書いて「さかん」と読む名字は、古代日本の国司の等級「守」「介」「掾」「目」の「目」から来ているものではないかといわれています。

「目」と書いて「さかん」と読ませる名字は、大阪府と山口県に名乗る人が集中しています。山口県では「目」と書いて「さっか」と読ませる名字も存在します。

「守」「介」「掾」「目」と併せて覚えておきたい言葉

「守」「介」「掾」「目」に対する理解が深まったら、その他の「国司に関する言葉」も一緒に覚えておきましょう。関連性の高い言葉を一緒に覚えることで、国司が存在した時代に関する理解も進みます。「守」「介」「掾」「目」と一緒に覚えておきたい言葉を紹介します。

「受領」「遙任」

国司の実態を理解するために見逃すことのできない言葉として挙げられるのが、「受領(ずりょう)」と「遙任(ようにん)」です。

受領とは任命された「国」に赴いて仕事をする国司のことです。一方、遙任とは国司として任命されているものの、「国」に行かない国司を指します。遙任は国司として任命された後も都で生活し、「国」には代理人として「目代(もくだい)」を送っていました。

受領は赴任先で好き勝手に税を徴収し、私腹を肥やす傾向があったといわれています。受領の横暴を後世に伝える資料が「尾張国郡司百姓等解文(おわりのくにぐんじひゃくしょうらのげぶみ)」です。「尾張国郡司百姓等解文」は、尾張国に派遣されていた国守(国司)の藤原元命(ふじわらのもとなが)が行った法に背く行為を朝廷に訴える文書として有名です。

「成功」「重任」

国司の権力が強化されるに伴い、国司の地位が利権化され、お金で売り買いされるようになると、貴族の間で不正行為である「成功(じょうごう)」や「重任(ちょうにん)」が横行しました。

成功とは、賄賂(わいろ)を支払って希望の「国」に国司として派遣されるように仕向ける行為のことです。一方、重任とは、賄賂を支払って現在任命されている国司にもう一度選ばれるように仕向ける行為を指します。

重任は「成功の一種」と捉えられますが、国司の職を得るために初めて行われる不正が「成功」で、国司として居座り続けるために再び行われる不正が「重任」といえるでしょう。

「四等官」「位階」

四等官(しとうかん)とは、役所で働く官僚たち(太政官・国司・郡司など)に与えられた等級のことです。位が高い方から「長官」「次官」「判官」「主典」の4等級が与えられました。

各官僚には等級に応じて漢字の等級名が与えられます。例えば「神祇官(じんぎかん)」には、「伯」「副」「祐」「史」のいずれかが与えられました。これらの等級はそれぞれ漢字が異なるものの、位が高いほうから全て「かみ」「すけ」「じょう」「さかん」と読みます。

位階(いかい)とは身分の序列を表す位のことです。四等官制の4等級と対となる形で与えられていました。位階は「正一位(しょういちい)」から「少初位下(しょうしょいのげ)」まで30階に分けられます。

「守」「介」「掾」「目」を知っておくと歴史ドラマが分かる

歴史ドラマをしっかり理解して物語を楽しむには、物語に登場する「歴史用語」を把握しておく必要があります。なかでも、平安時代を描くドラマを理解するためには、国司に関する知識が欠かせません。国司の役割や等級である「守」「介」「掾」「目」を理解して、歴史ドラマをさらに楽しめるようになりましょう。

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構成・文/HugKum編集部

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