「改憲」はなぜ議論されている? 議論についていくために必要な知識を解説【親子で学ぶ現代社会】

選挙には雇用問題や経済対策などさまざまな争点があります。数ある争点の一つが「改憲」です。改憲というテーマがなぜ議論されているのか、理由を解説します。併せて改憲の問題点なども解説しますので、改憲議論を深く理解できるようになりましょう。
 
[上画像:昭和天皇及び当時の国務各大臣によって署名された『日本國憲法』原本 Ryo FUKAsawa, CC 表示 2.0, Wikimedia Commons]

改憲を考える前に知っておきたい憲法の知識

改憲の議論が起こっている理由を考える前に、「憲法とは何なのか」を確認しておきましょう。「憲法が何であるか」を知って初めて、改憲議論の重要性を正しく認識できるようになります。憲法に関する基礎知識を解説します。

憲法とは国の基本を定める「最高法規」

憲法とは国家のあり方を規定する基本法のことです。国が国民の権利や自由を侵害しないよう、国会議員や官僚などの「公の仕事に就く人」を取り締まるルールとして存在します。そのため、基本的に憲法に反する法令は効力を持ちません。

憲法が定義するのは以下のような内容です。

・国家を運営するための統治機構
・国民の権利や義務
・人権を守るための原理

憲法がころころ変われば、国のあり方の基礎が揺らいでしまい、国の運営が不安定になります。そのため多くの国では、改憲に厳しい条件を設けているのです。

日本国憲法を支える3つの原則

現行の憲法「日本国憲法」は、1946年11月3日に公布され、翌年の5月3日に施行されました。「大日本帝国憲法(通称:明治憲法)」に取って代わる形で作られたのが特徴です。

『日本國憲法』原本(右から「上諭」「御名御璽」「大臣副署」)Wikimedia Commons(PD)

日本国憲法は「国民主権」「基本的人権の尊重」「平和主義」の三本柱から成り立っています。

国民主権とは「国の政治を引っ張る主体は国民である」とするルールです。明治憲法下で主権を与えられていた天皇は、あくまでも「日本国の象徴」とされました。

基本的人権の尊重とは、全ての国民が生まれながらに持つ「人間らしく生きる権利」を侵害しないとするルールのことです。憲法では「健康で文化的な最低限度の生活」を保障しています。

平和主義とは、戦争を放棄するとともに、戦争に訴えるために必要な戦力を持たないことを宣言する項目です。戦争により多くの犠牲を払った反省を生かして設けられました。

改憲に必要な手続き

改憲を行うにはまず改正の原案を発議(議員が議案を提出して審議を求める行為)します。発議を行うには、衆参各議院の総議員の2/3以上の賛成が必要です。

発議を行った後は、議員か憲法審査会が改正の原案を提出します。原案の内容は国会で審議された後、憲法審査会による審議を受けます。

審査会で可決された後に待ち構えているのが、本会議による採決です。衆参両院で可決されれば、改正の原案は「憲法改正案」となり国会で発議されます。

次に「国民投票広報協議会」が設置され、憲法改正案に賛成するか反対するかを問う「国民投票」が行われます。国民投票で賛成が有効投票総数の過半数に達した場合は、その時の総理大臣が手続きをし、天皇が国民の名において新しい憲法を公布する流れです。

出典:憲法改正の場合の手続きは – みんなとわたしの憲法 NHK
日本国憲法|衆議院

改憲が議論されている理由

憲法改正の国会発議を求める大講演会(2017年6月)[一般社団法人板垣退助先生顕彰会]Wikimedia Commons(PD)

現代の日本では、「憲法を改正しよう」という議論が巻き起こっています。改憲議論が展開される裏には、日本国憲法ならではの事情が隠されているといえるでしょう。今、日本で改憲が議論されている理由を解説します。

アメリカが起草した憲法だから

改憲が議論される理由としてまず挙げられるのが、「現在の憲法が連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)によって起草されたものである」という事実がある点です。

日本国憲法が制定された背景には、GHQの指示がありました。憲法の改正に向けて日本は、当時の国務大臣・松本烝治を中心に、明治憲法に手を加えた試案「松本案」を作成します。そして松本案に加筆する形で「憲法改正要綱」を作成し、GHQに提出しました。

しかし、明治憲法の影響を色濃く残していた憲法改正要綱は、GHQに拒否されます。その後、GHQ側から提出された「総司令部案(通称:マッカーサー草案)」を元に「大日本帝国憲法改正草案」が作られ、現在の日本国憲法が制定されました。

このような流れで作られた日本国憲法は、日本の主権がアメリカによって制限されていた状況下で作られた憲法ともいえるのです。

出典:日本国憲法の制定過程における各種草案の要点|衆議院憲法調査会事務局

成立から70年以上が経過しているから

長らく改正されていないことを理由に改憲を求める声も存在します。憲法について「現状に見合っていない」「時代とそぐわない」などという声が上がっているのです。

憲法は国家のあり方を規定する重要なルールです。「ころころと変わっていては国の運営が安定しない」との声がある一方で、「時代の流れとともに改正があって当然」と捉える考え方もあります。

制定当時の日本国憲法が見据えていた日本と今の日本に大きな乖離があるのは事実です。環境の変化による自然災害の多発、世界情勢の変化、新しい人権の誕生、家族の形の変化などにきめ細やかに対応するには、新しい憲法が必要なのではないかと議論されています。

自民党が提案する憲法改正の内容

改憲に関する議論の中身を知るには、政府がどのような改正案を掲げているかを知ることも重要です。自民党が提案している改憲案の要点を解説します。改憲案の内容を知って、「憲法がどのように変えられようとしているのか」を理解しましょう。

改憲の大きな争点となっている憲法第9条

自衛隊の存在を明記する

自民党の提案する改正案の中で最初に語られているのが「自衛隊の明記」です。

憲法に存在が明記されていない自衛隊については、「『戦力の不保持』を掲げる憲法9条に反しているのではないか」との議論が続いています。政府は、「憲法9条では日本が他国からの攻撃を受けた際に反撃する権利(自衛権)は否定していない」として、国を守るために存在する自衛隊も「合憲である」と説明しています。

ただし、司法においては何度か自衛隊のあり方に関する審議が行われているものの、「自衛隊は合憲である」との判断は示されていません。

自衛隊が日本に存在し、日本を守るために活動しているのは、紛れもない事実です。憲法が描く世界観と現実とのギャップが存在するため、自民党は「憲法に自衛隊の存在を明記する必要がある」としています。

災害が起きたときの対応を強化

提案内容の二つ目が緊急事態における対応力の強化です。現状では、大きな災害が起きたときには「災害対策基本法」などを整備して、法律に基づいて対応を行う体制を取っています。しかしこのような体制では、国会での審議や承認などの手続きが必要なため、迅速な対応が難しいのが実情です。

南海トラフ地震や首都直下地震の脅威が迫る中、従来通りの方法で十分な緊急時対応ができるのか不透明です。このような現状を受け、自民党は下記のような改正案を提示しています。

・緊急事態に陥ったときでも国会の機能を維持する
・国会の機能維持が難しくなった際には、内閣の権限を一時的に強化して災害対応に当たる
・緊急事態で選挙ができない状況にあるときには、国会議員の任期を延長する

憲法に「緊急事態条項」を定め、迅速な緊急事態対応の実現を目指すのが自民党の狙いといえるでしょう。

参議院の合区解消

「参議院における合区の解消」も自民党が掲げる憲法改正案の一つです。合区とは、選挙において隣り合う市町村や都道府県の選挙区を統合し、一つの選挙区とすることを指します。有権者が持つ1票の価値が地域によって異なる現象、いわゆる「1票の格差」を緩和するために作られました。

合区の問題点として指摘されているのが、地方の声が中央に届かなくなる可能性がある点です。合区が進めば、離島や過疎地など、人口の少ない地域が抱える問題を国会に持ち込んでくれる議員がいなくなってしまう恐れがあります。

改正案では、参院選において、各都道府県から必ず一人ずつ議員が誕生するようにし、地方に住む人の声がしっかり議会に届くようにしようとしているのです。

教育環境の充実

自民党の改正案では「教育環境の充実」を掲げ、今以上に教育に力を入れていくことを目指しています。

人口減少が加速する日本が経済的に発展し、国際競争力を維持していくためには、教育の充実による「人づくり」が重要と考えられています。しかし実際には、経済格差の拡大により進学を諦める学生が後を絶ちません。

自民党の改正案では下記のような内容を掲げています。

・教育の重要性を国の理念として掲げる
・日本に住む誰もが等しく教育の機会を得られるようにする
・私立学校への助成のルールを現状に見合った条文に変える

日本国憲法が掲げる「義務教育の無償化」以上の理想を提示しているのが、自民党の改正案といえるでしょう。

出典:4つの「変えたい」こと 自民党の提案

改憲が抱える問題点

改憲に関する議論が活発化しているのは、改憲が数々の問題をはらんでいるからでもあります。問題点を解決してくれる名案が出されなければ、改憲が実現するのは難しいかもしれません。改憲が抱える問題点を解説します。

自衛隊のあり方が変わってしまう可能性がある

改憲については、自衛隊のあり方が変わり、日本が日本国憲法によって守ってきた「恒久平和主義」が揺らいでしまう可能性が指摘されています。

自民党が提示している憲法改正草案では、自衛隊の存在を明文化するだけで、「自衛隊が行う任務の範囲」が明確に定められていません。よって、憲法の解釈が拡大されれば、自衛隊が「日本の安全を守る機関」としての役割から大きく逸脱した任務を命じられる可能性があるのです。

憲法が改正されて自衛隊の存在が明記されれば、なし崩し的に「自衛隊法」「武力攻撃事態法」「重要影響事態法」などがまとめて改正され、自衛隊のあり方が大きく変えられてしまうかもしれません。

「改憲発議要件を緩和しよう」という流れがある

改憲の発議要件を緩やかにしようという意見があることも由々しき問題です。

憲法は国家のあり方を規定する重要なルールです。それゆえにその発議には高いハードル(衆参各議院の総議員の2/3以上の賛成)が設けられています。

しかし現実には、「改正原案の発議に必要な議員数を衆参各議院の総議員の過半数の賛成にしよう」という意見が存在するのです。

発議要件の緩和には、安易な憲法改正により権利の侵害や価値観の否定が行われる可能性を秘めています。改憲には、反対意見がないがしろにされることのないよう、厳しいルールが必要です。

改憲は国のあり方を変えるかもしれない

憲法は国のあり方を規定する重要なルールです。改憲が行われれば、われわれ日本人が守ってきた「日本という国の姿」が大きく変わってしまうかもしれません。改憲を実現するのであれば、多くの日本人が心の底から賛成できる改正案が必要でしょう。そのためには、改憲に関する議論を尽くしていく真摯な姿勢が求められます。

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構成・文/HugKum編集部

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