日本国憲法の前文にある三つの基本原則とは? 憲法の前文の役割も解説【親子で学ぶ現代社会】

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日本国憲法の前文について、学校で習っただけで内容を細かく覚えていない人も多いのではないでしょうか。憲法前文は、憲法全体のポイントをまとめた大切な部分です。子どもに聞かれても慌てることのないように、しっかりと復習しておきましょう。

日本国憲法の前文の役割

「日本国憲法」に限らず、前文を持つ憲法は数多くあります。しかし前文の役割は、それぞれの憲法によって異なります。日本国憲法の前文には、どのような役割があるのでしょうか。

国会議事堂(東京都千代田区)。1936(昭和11)年に建設された。当時は、日本一の高さで、その美しい御影石に装われた議事堂は「白亜の殿堂」と呼ばれた。月~金曜日の9時から16時まで見学ができる。正面に向かって、左側が衆議院、右側が参議院。

理想や基本原理の宣言

日本国憲法の前文では、憲法を、誰のために、どのような目的で制定するのかを明らかにしたうえで、国家が掲げる理想や基本原理を簡潔にまとめ、それを必ず実現させると宣言しています。

憲法制定の根拠となった理想や基本原理を前文に示すことで、後に続く憲法本文の内容が理解しやすくなっているのが特徴です。

また、前文には、日本がどのような国を目指しているのかが示されています。日本国憲法の前文は、国内外に日本が目指す理想の姿を分かりやすく伝え、約束する役割を持っているのです。

日本国憲法

前文に書かれている三つの基本原則

日本国憲法では、三つの基本原則を定めており、その概要は前文にも掲載されています。憲法を理解するうえで欠かせない三原則について、それぞれ解説します。

国民が国の政治を決める 「国民主権」

主権とは、国を統治する権力のことです。憲法前文には「ここに主権が国民に存することを宣言し」と書かれています。この「国民主権」の原則により、日本では、国民が政治の決定権を持っています。

国民主権を行使する方法の具体例は、以下の通りです。

・政治に興味関心を持つ
・選挙で国や自治体の代表者を選ぶ
・最高裁判所裁判官の国民審査に参加する
・憲法改正の国民投票に参加する

私たちは新聞やネットニュースなどを通して、政治の様子をいつでも確認できるほか、選挙や国民投票によって、自分の意志を政治に反映できます。

子どもに対しても、選挙権を持つ前から「政治のニュース」に触れさせておくとよいでしょう。

戦争をしないことを定めた 「平和主義」

日本には、他の国のような軍隊がありません。これは、憲法の基本原則の一つ「平和主義」によるものです。

ブルーインパルス(北海道)。オリンピックでもお馴染(なじ)みだが、写真は「千歳(ちとせ)基地航空祭」でのもの。軍隊を持たない日本の防衛を担うのが「自衛隊」。

日本国憲法第九条には、以下のように記されています。

日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇(いかく)又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」

平和主義は、憲法前文において、「再び戦争の惨禍(さんか)が起(おこ)ることのないやうにすることを決意し」や「日本国民は、恒久の平和を念願し」の部分で表現されています。

人が持つ権利の尊重をうたう 「基本的人権の尊重」

三つ目の原則は「基本的人権の尊重」です。憲法前文では、「わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢(けいたく)を確保し」の部分が当てはまります。

基本的人権は、人が生まれながらに持っている「人間らしく生きる」ための権利です。日本国憲法では、次の五つを基本的人権として尊重するとしています。

・自由権:身体・精神・経済活動の自由を認める権利
・平等権:人種や身分などで差別されない権利
・社会権:生活・教育・労働に関する権利
・参政権:選挙権及び被選挙権
・請求権:損害賠償請求や裁判を受ける権利

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日本国憲法で変わったこと

日本国憲法は、第2次世界大戦が終わった翌年の1946年に公布され、翌年に施行されました。戦後の日本のあり方を定めた新憲法は、戦前の「大日本帝国憲法」と大きく内容が変わっています。

日本国憲法によって変わった、重要ポイントを見ていきましょう。

主権が天皇から国民へ

大日本帝国憲法においては、天皇は「国家元首」であり、軍隊を指揮する「統帥権(とうすいけん)」や、国政を決める「統治権」を持っていました。

新しい憲法では主権を天皇から国民に移し、国民の総意に基づいて政治を行う形式となったのです。

天皇の地位は主権者から象徴に

主権者ではなくなった天皇の地位については、日本国憲法第1条に定められています。

ここでは、天皇は「日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基(もとづ)く。」と記されています。

天皇は、あくまでも日本という国の象徴であり、政治的な実権は持ちません。

法律の公布や国会の召集など、憲法で定められた国事行為のみを行い、さらにすべての国事行為は内閣が責任を負うとされています。

大嘗宮(だいじょうきゅう、東京都千代田区)。毎年11月に、国と国民の安寧や五穀豊穣を祈って行われる「新嘗祭(にいなめさい)」。天皇即位後に、その新嘗祭を大規模に開催するのが「大嘗祭」で、今回は2019(令和元)年11月15日に皇居・東御苑に設営され、祭祀が行われた。皇位継承に伴う一世に一度の重要な儀式である。

参考:天皇 – 宮内庁

基本的人権の保障範囲

日本国憲法では、基本的人権の保障範囲も拡大されています。大日本帝国憲法にも基本的人権の保障はありましたが、「法律の範囲内」という制限が設けられていました。

これでは、どんなに理不尽な目に遭っても、法律の範囲外と見なされれば、人権は保障されません。もし、主権者が県外への引っ越しを禁止する法律をつくったとしたら、住む場所でさえ自由に選べなくなってしまうのです。

とはいえ、全く制限がなければ、それぞれが自分の権利を振りかざし、他者の権利を侵害する可能性があります。そのため、日本国憲法では制限を「法律の範囲内」から「公共の福祉」へと広げたうえで、基本的人権のあり方を定めています。「公共の福祉」とは、社会全体に共通する利益のことです。

私たちには、与えられた権利を、社会の利益のために利用する責任があります。子どものうちから、日々の生活を通して、少しずつ教えていくようにしましょう。

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憲法への理解を深めよう

日本国憲法では、「国民主権」「平和主義」「基本的人権の尊重」の三原則が定められています。

私たちが今、自由に意見を言い合い、安心して暮らせるのは、憲法のおかげといってもよいでしょう。親子で憲法前文をよく読み、憲法の存在意義について理解を深めていきましょう。

日本国憲法をもっと知るための参考図書

小学館  ドラえもん社会ワールド「憲法って何だろう」

小学館アーカイヴス「日本国憲法」

岩崎書店「声に出して読みたい  小中学生にもわかる日本国憲法」

東京書店「10歳から読める・わかる  いちばんやさしい日本国憲法」

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構成・文/HugKum編集部

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