日本国憲法の前文の役割
「日本国憲法」に限らず、前文を持つ憲法は数多くあります。しかし前文の役割は、それぞれの憲法によって異なります。日本国憲法の前文には、どのような役割があるのでしょうか。
理想や基本原理の宣言
日本国憲法の前文では、憲法を、誰のために、どのような目的で制定するのかを明らかにしたうえで、国家が掲げる理想や基本原理を簡潔にまとめ、それを必ず実現させると宣言しています。
憲法制定の根拠となった理想や基本原理を前文に示すことで、後に続く憲法本文の内容が理解しやすくなっているのが特徴です。
また、前文には、日本がどのような国を目指しているのかが示されています。日本国憲法の前文は、国内外に日本が目指す理想の姿を分かりやすく伝え、約束する役割を持っているのです。
前文に書かれている三つの基本原則
日本国憲法では、三つの基本原則を定めており、その概要は前文にも掲載されています。憲法を理解するうえで欠かせない三原則について、それぞれ解説します。
国民が国の政治を決める 「国民主権」
主権とは、国を統治する権力のことです。憲法前文には「ここに主権が国民に存することを宣言し」と書かれています。この「国民主権」の原則により、日本では、国民が政治の決定権を持っています。
国民主権を行使する方法の具体例は、以下の通りです。
・政治に興味関心を持つ
・選挙で国や自治体の代表者を選ぶ
・最高裁判所裁判官の国民審査に参加する
・憲法改正の国民投票に参加する
私たちは新聞やネットニュースなどを通して、政治の様子をいつでも確認できるほか、選挙や国民投票によって、自分の意志を政治に反映できます。
子どもに対しても、選挙権を持つ前から「政治のニュース」に触れさせておくとよいでしょう。
戦争をしないことを定めた 「平和主義」
日本には、他の国のような軍隊がありません。これは、憲法の基本原則の一つ「平和主義」によるものです。
日本国憲法第九条には、以下のように記されています。
「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇(いかく)又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」
平和主義は、憲法前文において、「再び戦争の惨禍(さんか)が起(おこ)ることのないやうにすることを決意し」や「日本国民は、恒久の平和を念願し」の部分で表現されています。
人が持つ権利の尊重をうたう 「基本的人権の尊重」
三つ目の原則は「基本的人権の尊重」です。憲法前文では、「わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢(けいたく)を確保し」の部分が当てはまります。
基本的人権は、人が生まれながらに持っている「人間らしく生きる」ための権利です。日本国憲法では、次の五つを基本的人権として尊重するとしています。
・自由権:身体・精神・経済活動の自由を認める権利
・平等権:人種や身分などで差別されない権利
・社会権:生活・教育・労働に関する権利
・参政権:選挙権及び被選挙権
・請求権:損害賠償請求や裁判を受ける権利
日本国憲法で変わったこと
日本国憲法は、第2次世界大戦が終わった翌年の1946年に公布され、翌年に施行されました。戦後の日本のあり方を定めた新憲法は、戦前の「大日本帝国憲法」と大きく内容が変わっています。
日本国憲法によって変わった、重要ポイントを見ていきましょう。
主権が天皇から国民へ
大日本帝国憲法においては、天皇は「国家元首」であり、軍隊を指揮する「統帥権(とうすいけん)」や、国政を決める「統治権」を持っていました。
新しい憲法では主権を天皇から国民に移し、国民の総意に基づいて政治を行う形式となったのです。
天皇の地位は主権者から象徴に
主権者ではなくなった天皇の地位については、日本国憲法第1条に定められています。
ここでは、天皇は「日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基(もとづ)く。」と記されています。
天皇は、あくまでも日本という国の象徴であり、政治的な実権は持ちません。
法律の公布や国会の召集など、憲法で定められた国事行為のみを行い、さらにすべての国事行為は内閣が責任を負うとされています。
参考:天皇 – 宮内庁
基本的人権の保障範囲
日本国憲法では、基本的人権の保障範囲も拡大されています。大日本帝国憲法にも基本的人権の保障はありましたが、「法律の範囲内」という制限が設けられていました。
これでは、どんなに理不尽な目に遭っても、法律の範囲外と見なされれば、人権は保障されません。もし、主権者が県外への引っ越しを禁止する法律をつくったとしたら、住む場所でさえ自由に選べなくなってしまうのです。
とはいえ、全く制限がなければ、それぞれが自分の権利を振りかざし、他者の権利を侵害する可能性があります。そのため、日本国憲法では制限を「法律の範囲内」から「公共の福祉」へと広げたうえで、基本的人権のあり方を定めています。「公共の福祉」とは、社会全体に共通する利益のことです。
私たちには、与えられた権利を、社会の利益のために利用する責任があります。子どものうちから、日々の生活を通して、少しずつ教えていくようにしましょう。
憲法への理解を深めよう
日本国憲法では、「国民主権」「平和主義」「基本的人権の尊重」の三原則が定められています。
私たちが今、自由に意見を言い合い、安心して暮らせるのは、憲法のおかげといってもよいでしょう。親子で憲法前文をよく読み、憲法の存在意義について理解を深めていきましょう。
日本国憲法をもっと知るための参考図書
小学館 ドラえもん社会ワールド「憲法って何だろう」
小学館アーカイヴス「日本国憲法」
岩崎書店「声に出して読みたい 小中学生にもわかる日本国憲法」
東京書店「10歳から読める・わかる いちばんやさしい日本国憲法」
構成・文/HugKum編集部