「わが子を可愛いと思えない…泣き声が怖い」壮絶な“産後うつ”を振り返って「まさか自分が。メンタルは強い方だった」回復のカギは“罪悪感を持たないこと”【漫画家・藤嶋マルさんの体験記】

イラストレーター・漫画家の藤嶋マルさんは2016年に長女を出産後、壮絶な産後うつに見舞われます。その体験を描いた「産後うつになったけど今は元気に子育てしてる私の話」をX(旧Twitter)で発表すると、たちまち話題となりました。
今回は藤嶋さんにインタビューし、産後うつの体験や2人目の妊娠・出産で気をつけたことなどを伺いました。

産後、次々に訪れる心身の不調。わが子を可愛いと思えないほどに…

――藤嶋さんは出産後、いつ頃から心や体に違和感が出てきたのでしょうか?

藤嶋さん:最初に違和感を感じたのは、退院のときでした。看護師さんの説明を聞いてもぜんぜん頭に入ってこなかったんです。そして涙が急に出てきて止まらなくなり、「何かがおかしい」と感じました。

それから自宅に戻っても、以前より神経質になったり、異常にイライラするようになりました。そのうちに頭がボンヤリしている日と、ハッキリしている日がランダムに訪れるようになり、ボンヤリしている日は朝起きたら何をすればよいか、何を着ればよいのかわからなくなり、ハッキリしている日は攻撃的になりやすく、相手の気持ちを推測できなくなる感覚がありました。

突然自分の意思とは関係なく立ったりしゃがんだりを繰り返したり、動きたくないのに体が止まらないということもありました。

また、入院中からの高血圧や貧血に加え、急に動悸が起こってトイレで倒れたりと、体調も悪かったです。

©︎藤嶋マル/MaruFujishima

藤嶋さん:一番つらかったのは、自分の子どもを可愛いと思えなかったことです。赤ちゃんを必死で育てていると、可愛いと感じる余裕がないということはよくあると思うのですが、そういうこととは根本的に違っていて…。

とにかく赤ちゃんの泣き声聞くと怖くなってしまうんです。だから、とにかく泣き止ませたくて、すぐにおっぱいあげたり、オムツ変えたり…。そしてお世話をするとき以外は赤ちゃんを避けるように過ごしていました。

そんな自分自身のことが受け入れられず、このことだけは家族にも打ち明けられませんでした。

明らかな不調は自覚したけれど、「母乳育児」に支障がでないか不安になって…

――そのような不調に対して、産後うつだと自覚したのはいつでしたか?

藤嶋さん:ここまでくると、さすがに自分でも心の不調を自覚するようになりました。でも病院で薬をもらうと母乳育児ができなくなるのではないかという間違った考えがあり、とにかく心療内科には行きたくありませんでした

けれど、そんな日々を過ごす中で、私の気持ちを変える決定的な出来事が起こったんです。予約していた産婦人科を受診したとき、待合室にいた小さな女の子を見て、「私は子どもがこんなに大きくなるまで絶対育てられない、無理だ」と思い、瞬間的に「死にたい」という言葉が出てしまったのです。そう思った自分自身に驚き、ただただ涙が流れました。

©︎藤嶋マル/MaruFujishima

藤嶋さん:このときに、もう心療内科に行かなくてはダメだと自覚しました。一緒にいた夫はその場ですぐに一番早く受診できる病院を調べて予約してくれました。

これが産後3週間目のことでした。

心療内科と精神科への通院。「罪悪感を持たないこと」が回復のカギだった

©︎藤嶋マル/MaruFujishima

――そこから病院に通われたのですね。

藤嶋さん:死にたいと思った日から1週間後に心療内科を受診しました。ただ、この病院は先生が一方的に話されることが多く、自分には合わないと感じたため、別の病院を探すことにしました。次に行ったのは精神科でその病院の先生は私の話を丁寧に聞いてくださり、「何かしたら休む」ということを心がけるように言われました。

この頃になると、疲れやすさや、急な気分の落ち込みはあったものの、産後すぐのひどい不調は少しずつ軽くなっていて、娘のことも可愛いと思えるようになっていました。この頃娘はよく笑うようになり、それを見るたびに少しずつ自分の心身も回復するように感じていました。

――ホッとしましたね。漫画には精神科の先生から「罪悪感を持たないように」と強く言われたと描かれていましたが、そのために意識していたことはありますか。

藤嶋さん:先生には、周りに対して「申し訳ない」と思い、無理をすることで回復が遅れると言われました。罪悪感があると「自分でもっとやらなくては」「頑張らなくては」という意識になり十分に休めないからだそうです。

©︎藤嶋マル/MaruFujishima

藤嶋さん:とはいえ、無意識に罪悪感を持ってしまうことってありますよね。ですから、先生からアドバイスを受け、「申し訳ない」と思ったときは「ありがとう」と言い換えるようにしていました。家族を頼ったり、甘えたりすることもだんだんできるようになりました。今振り返っても、罪悪感にとらわれていると動き続けてしまいますし、心も休まらず、先生がいうように回復が遠のいていたのではないかと思います。

結局その精神科には1年ほど通院しましたが、後半は2ヶ月に1度のペースになっていました。また、最初は電車に一人で乗るのが不安で夫に付き添ってもらっていましたが、少しずつ一人で通院できるようになりました。薬は睡眠薬と漢方、パニックのような発作が起こったときに飲む頓服の3種類が処方されていましたが、頓服は後半はほとんど飲むことはなかったです。

――ご家族からの対応で、心に残っている言葉や行動はありますか?

©︎藤嶋マル/MaruFujishima

藤嶋さん:夫は、私が「もう嫌だ、しんどい」と言っても、口を挟まずひたすら聞いてくれてましたね。うつ病の人に対しての接し方などもネットで調べてくれていたみたいです。本当に感謝しています。

でも、後から聞いたのですが、実は夫はある程度聞き流していたそうです。行動としてはいつも寄り添っていてくれましたが、私の言葉全部を正面から受け止めると自分も精神的にまいってしまいそうだからと。私のことを「この人は、今ちょっと脳がバグっている状態なんだ」と考えていたそうです。

第2子を妊娠・出産へ。意識的に休息を取ることで、元気に子育てできる体に

©︎藤嶋マル/MaruFujishima

――そして第2子を妊娠・出産されたのですね。漫画に描かれていた「出産後に気をつけたこと」がとても参考になりました。特によかったことはありますか。

藤嶋さん:休息の時間を意識的にとるようにしていました。入院中、預けられるときは赤ちゃんを預かってもらい、授乳と食事以外はテレビも携帯も見ずに目を閉じて休んでいました。自宅に戻ってからも、赤ちゃんが寝たら自分も一緒に昼寝するようにしていました。なので、赤ちゃんが寝ていない夜泣きのときくらいしか、自分の空き時間がなかったほど(笑)。睡眠は本当に大事だというのは身に沁みました。

あと、これは誰にでもおすすめできるわけではないのですが、授乳時と夜泣き対応時は、好きな映画を見る時間にしていたんです。赤ちゃんの目に光が入らないように抱っこしながらクッションでガードしつつ、消音にして字幕を見る感じでしたが、これが気分転換になりとてもよかったですね。

©︎藤嶋マル/MaruFujishima

藤嶋さん:自分の時間がとれない時期だからこそ、「今夜はこの映画を見よう」とか、小さな楽しみを見つけるだけで、毎日が楽しくなるということを実感しました。

長女は小2、次女は年長さんになって。長女は自閉スペクトラム症の特性も

――そして現在は元気に子育てをされているということですが、メンタルを崩されたりすることはありませんか?

藤嶋さん:たまに集中して仕事をしすぎた日などは眠れなくなることもありますが、メンタルが崩れるようなことはありません。

現在、上の子が小2、下の子は年長さんになりました。上の子は自閉スペクトラム症で、特別支援学校に通っています。もちろん不安に思ったり、大変なこともたくさんありますが、「親としてこうしなくては」と考えたり、他の子と比べたりすることはないですね。ただただ、娘にはのびのびと自由に成長してほしいと思っています

こんなふうに考えられるようになったのも、産後うつを経験したからかなと思います。今も周りに頼ったり、休息や自分の好きなことをする時間を大切にしています

「産後うつ」は誰にでも起こりうる。何かあったときのための準備がおすすめ

――最後にHugKum読者へメッセージをお願いします。

藤嶋さん:私は出産するまで、メンタルの不調とは無縁でした。自分の怒りや感情も外に出して発散できるタイプで、ストレスを溜め込まないほうでした。産後もワンオペ育児をしていたわけでもありません。なぜ産後うつになったのだろうと考えても答えは出ませんでした。だから、きっと誰にでも起こりうることなのだと思います。

©︎藤嶋マル/MaruFujishima

藤嶋さん:私の漫画で怖がらせるつもりは全くないのですが、もし私のように産後うつになってしまったときのために、妊娠中に自分の住んでいる地域にどんな心療内科やメンタルクリニックがあるか調べておくことをおすすめしたいです。

総合病院の産婦人科に通っていれば、同じ病院の心療内科を受診できますが、私の場合はそうではなかったため、症状が出てから病院を調べることになり、とても慌てました。予約もすぐにはとれず、一番早くても1週間先でした。

心療内科というとハードルが高く感じられ、私も受診をかなり躊躇していましたが、周りに話してみると通っている友人もいたりして、特別な場所ではないのだとわかりました。

この漫画を公開してから、たくさんの方に共感してもらいました。子育てを終えた世代の方からも「私たち頑張ったよね」というコメントをいただき、本当に嬉しかったです。私の体験が、産後うつに苦しむ方やその周りの方々、支援される方々、産後うつの具体的な事例を知りたいという方々の参考になれば、と思います。

――ありがとうございました! もっと詳しく漫画を読みたいという方は、藤嶋さんのnote「産後うつになったけど今は元気に子育てしてる私の話」をぜひ読んでみてください。

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お話をうかがったのは

藤嶋マル|イラストレーター/漫画家
秋田県出身/二児の子育ての合間に漫画と映画鑑賞が生きがいです。過去の産後うつ経験を漫画にして公開中です。
X(旧Twitter) @marufujishima
note  産後うつになったけど今は元気に子育てしてる私の話

文・構成/平丸真梨子

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