何歳までが「小児歯科」? ふつうの歯科じゃだめなの? 子どもの歯を守る歯科選びを医師が解説

子どもの歯の治療と言えば、「小児歯科」という言葉が思い浮かぶ人が多いと思います。その一方で、子どもの口や歯の健康を託すことができる歯医者選びで悩んでいる人も少なくないのではないでしょうか。今回は、小児歯科について様々な角度から論じます。

執筆/島谷浩幸(歯科医・歯学博士・野菜ソムリエ)

全国に小児歯科はどれくらいあるの?

医療法により、歯科は4つの診療科目「歯科」「小児歯科」「矯正歯科」「歯科口腔外科」を歯科医師なら誰でも自由に標榜することが認められています。

※医療機関が看板や電話帳などに記載できる標榜診療科名のこと

厚生労働省の医療施設調査によると、2023(令和5)年10月1日時点で歯科診療所66818件のうち「小児歯科」を標榜するところは65.5%と過半数を占め、「歯科」に次いで多い標榜科であることが明らかになりました(図1)。

図1. 小児歯科の割合

しかしその一方で、2020(令和2)年の調査結果と比較すると、「歯科口腔外科」および「矯正歯科」は増加しているのに対し、「歯科」全体および「小児歯科」はわずかではありますが、減少傾向にあることが判明しました(図2)。

図2. 減少傾向にある小児歯科

現在、日本では出生率の低下により少子高齢化が進んでいますが、歯科にもその影響が及んでいることが推察されます。

小児歯科の対象年齢は?

2006年、日本小児科学会は小児科が対象とする年齢を「中学生まで」から「成人するまで」に引き上げました。

一方、歯科では厳密な年齢制限はないのが現状ですが、多くの歯科医院で歯が生え始める生後6か月頃から永久歯が生えそろう15歳頃(中学生くらい)までを小児歯科の対象年齢としています。

ただし、永久歯が生えそろう年齢には個人差があるため、歯科医院によっては20歳頃までを小児歯科として受診可能としているケースもあります。ですから、かかりつけの歯科医院で何歳まで小児歯科として受診できるのか、事前に問い合わせておくといいでしょう。

一般歯科と小児歯科の違いは?

一般歯科でも子どもの診療をすることは可能ですが、小児歯科では子どもの歯や顎の発育・成長に合わせて、より適切な予防および治療を行います。

虫歯治療、乳歯の抜歯

症状のない、ごく初期の虫歯であれば、子どもの年齢なども考慮して歯は削らずにフッ化ジアンミン銀を塗布して進行を防ぐこともありますが(参考記事はこちら≪)、虫歯の大きさや痛みなどの症状により、必要に応じて麻酔を使って治療します。

また、重度の虫歯や生えかわりに悪影響している乳歯は、永久歯の有無を確認した上で抜歯することもあります。(参考記事はこちら≪

麻酔をする際は、注射針の刺入部位にあらかじめジェル状の表面麻酔を塗って痛みを軽減させるなど、できる限り痛みを感じないように配慮します。

口腔清掃、ブラッシング指導、定期検診

乳歯から永久歯に生えかわる6歳~12歳頃の期間は特に口の中が劇的に変化し、歯磨きしにくい状況になります。子ども自身の歯磨きだけでなく、親や保護者が行う仕上げ磨きについても指導やアドバイスをします。(参考記事はこちら≪

フッ素塗布

歯質を強化して虫歯になりにくくするフッ素は、大人の歯に比べてやわらかい乳歯や幼若永久歯(生えたばかりの永久歯)に浸透しやすい性質があります。口腔清掃でキレイになった歯面に対し、フッ素塗布を行います。(参考記事はこちら≪

シーラント処置

溝が深い奥歯は、歯ブラシの毛先が届かず虫歯リスクが高まります。あらかじめシーラント材で溝を埋め、虫歯菌の侵入を防ぎます。(参考記事はこちら≪

歯列矯正

子どもは発育・成長に伴い歯が生えかわるだけでなく、顎の骨も成長して歯並び・噛み合わせや顔の骨格が大きく変化します。もし異常が見つかれば、早期に対応して必要な処置を行います。(参考記事はこちら≪

小児歯科には種類があるの?

先述したように、「小児歯科」は歯科医師の知識や技量、経験などに関係なく歯科医師であれば誰でも看板やホームページに標榜できます。しかし、小児歯科に関して特別な知識や技術を習得して得られる資格があり、その資格に応じて呼称も変わります。各々について解説しましょう。

小児歯科標榜医

医療法により定められた表示で、歯科医師の資格があれば誰でも標榜することが認められています。

つまり、小児歯科に関する特別な資格や知識・技術の有無に関係なく、「小児歯科」と掲げることが可能です。記事前半・図1のグラフの赤色で示す歯科医院が、これに該当します。

小児歯科認定医

日本小児歯科学会の規定により指定された研修施設で卒後研修カリキュラムに従って2年以上の小児歯科に関する研修を受けるとともに、通算5年以上の小児歯科臨床経験がある歯科医師、およびこれと同等以上の経験があるとみなされる歯科医師に与えられます。

小児歯科専門医

小児歯科専門医は、日本歯科専門医機構の認可を受けた、高度な小児歯科に関する専門的知識と治療技術を持つ歯科医師です。

専門医の資格は5年以上日本小児歯科学会に属し、学会が認めた大学の附属病院等の医療機関で5年以上にわたり相当の臨床経験を積んだ上で、小児歯科臨床に関する報告を発表し、試験に合格した者だけに与えられます。

2020年3月31日時点で専門医は1175名(うち専門医指導医238名)であり、歯科医師全体の1%ほどの狭き門です(図3)。

図3. 小児歯科専門医の位置付け

また、資格取得後も専門医としての高い臨床レベルを維持するため、5年ごとの更新、学術大会への出席や発表、および学術誌における報告などを行うことが義務となっています。

ですから、一般歯科では治療が困難な歯医者恐怖症などの子どもの対応をするなど、二次医療機関としての役割も担います。

資格の有無に限らず適切な治療ができる歯科医師は数多くいますが、資格の取得は客観的に評価できる一つの判断基準になります。子どもにより確実で高度な治療などを希望する場合は、受診前に歯科医院のホームページ等で専門医などの資格の有無について確認するとよいでしょう。

なお、日本歯科専門医機構が認定した小児歯科専門医がいる医療機関および歯科医師名は、日本小児歯科学会のホームページより検索可能ですので、参考にしてください。 

小児歯科を卒業するタイミングとは?

そろそろ小児歯科を卒業して、大人の一般歯科へ移行してもいいかな?と家庭で判断するのは難しいと思いますので、いくつかの目安を挙げてみます。

すべて永久歯に生えかわる

個人差はありますが、中学生になる前後で最後の乳歯が抜けて、すべて永久歯になります。これで大人と同じ歯の状態になるため、小児歯科の卒業の目安になるでしょう。

フッ素塗布などの虫歯予防処置がひと段落している

虫歯リスクの高い歯に対するシーラント処置がすべて完了し、歯質強化をするフッ素塗布を十分行って虫歯予防対策がひと段落ついていれば、切り替えも可能だと考えられます。

自主的に治療に参加できる

親が子どもの歯の状態を逐一説明するのではなく、子ども自身がきちんと説明できるようになり、かつ治療のときに説明を理解して治療を受けることができるのならば、大人の歯科に切り替えてもよいかと思います。

口の健康を自己管理できる

親の仕上げ磨きを必要とせず、自分で歯を磨いて歯や歯ぐきを健康な状態に自己管理できるようになっていれば、切り替えも可能でしょう。

以上より、子どもの大切な歯の健康を守る歯医者選びの参考として、小児歯科に関する様々な事項を理解しておいてくださいね。

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記事執筆

島谷浩幸

歯科医師(歯学博士)・野菜ソムリエ。TV出演『所さんの目がテン!』(日本テレビ)等のほか、多くの健康本や雑誌記事・連載を執筆。二児の父でもある。ブログ「由流里舎農園」は日本野菜ソムリエ協会公認。X(旧Twitter)も更新中。HugKumでの過去の執筆記事はこちら≪

参考:
・厚生労働省:医療広告ガイドライン.2024.
・厚生労働省:医療施設調査・結果の概要.2023.
・日本小児科学会:小児科医は子ども達が成人するまで見守ります.2007.
・日本小児歯科学会:専門医制度と名簿.2025.

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