みなさん、こんにちは。
料理研究家の行正り香です。
HugKumで私の子育てや教育観について連載をスタートして1年が経ちました。今回の最終回では、旅についてお話させていただきます。
旅が子どもを成長させるわけ
私は、旅はすばらしい教育の一つだなと思っているので、娘たちにたくさんの旅をさせてきました。それも全て準備してあげて連れていってあげるお膳立てバッチリの旅ではなく、保育園の時から、小さなスーツケースに、自分のものを詰め、自分でスーツケースを引っ張って歩くような山あり谷ありの旅です。
臨機応変にプランを考えることで忍耐力がつく
旅が教育にいいな、と感じているのは、「旅にはトラブルがつきものである」からです。計画どおりに行きたい場所に辿りつけなかったり、電車がストをしていたり、突然雨が降ったり、美術館が休館日だったり、突然雨に振られて一足しか持っていっていない靴が濡れてしまうこともあります。
自分が計画していたプランがうまくいかない場面に多く出くわすのが旅です。そうなると別のプラン、Bプラン、Cプランを考えなくてはいけません。そしてプランが変わってうまくいかない状況に、子どもは耐えていかなくてはなりません。
旅をしながら思い通りにならず、いろいろなことを我慢して、でも「我慢した先に忍耐力がつく」というのが旅の醍醐味ではないかなと思います。心地悪いからかわいそう、おむつも頻繁に変えられないからかわいそうと感じがちですが、我が家では子どもたちが6ヶ月のときから、日本も海外もいろんなところへ連れていって「思い通りにならない不快な思い」もたくさんさせてきました。
目的まで逆算して考える練習ができる
また旅と人生は似ています。ある程度目的があれば、逆算してそのために何をすればよいか考える練習ができます。
たとえば旅先で、今日夕飯に食べたい物が決まったら、それまでにどう移動して、1日をどう過ごしたらいいのか、それを考えるチャンスをもらえます。「お腹が空いたからフライドポテトが食べたい」と言われても、「夜はここで食べるよ」とレストランの写真を見せると、「じゃあ、やめとく」と自分の心をコントロールする練習になります。
旅は実体験で学べるチャンスになる
2年前、娘たちとイギリスを旅したときには、地下鉄や美術館のチケットを親が用意するのではなく、当時はつたない英語であった娘たちに「買ってきて」とお願いして、体験を積んでもらうようにしていました。
「この駅からあの駅まで、必要なチケットを探して自分で買ってくる、それが日本円にしていくらくらいであるか確かめる」ことも貴重な体験になります。あるとき、地下鉄のチケットを買いに行った娘が「ママ、一駅ぶんが700円もしたからもったいないから買えなかった」と戻ってきたことがありました。イギリスは地下鉄一駅も乗れないくらい物価が高い国だと実感した体験により「日本はいい国だね」という振り返って考えるチャンスができました。
旅支度は自分でさせよう
子ども達にとって、旅はOJT(新入社員の研修)のようなものでもあります。
保育園のときから自分で荷造り
娘たちには保育園の時から一人ずつ小さなトランクを買ってあげて自分の荷物は自分で詰めるようにトレーニングしていました。「10日間の旅なら、パンツは3枚あれば洗って乾かせばなんとかなるよね」など、必要な荷物を自分で考えて詰める練習をするのです。そうすると、1回目の旅のときは少し寒かったから、今回はコートを持って行こうという工夫をするようになっていきます。失敗から何かを学んでいきます。
困った経験こそ体で覚えさせるチャンス
10歳のときは、完全に自分で全ての準備ができるようになりました。子どもはいろんなことが、10歳で、できるんです。つい親は手伝ってしまいますが、いつまでも手伝っていたら、できることが増えていきません。
「困る機会を作ってあげないといけない」と思っています。あるとき、イタリアで突然雨が降ってしまったことがありました。濡れて臭い靴をずっと履いていた苦い思い出が(田舎に行くと、夏休みはお店がしまっていて、靴の新調ができません)娘には強烈に印象に残ったのだと思います。濡れた靴の感触や匂いがいやだったという思いがあると、次回は重たくても靴をもうひとつ持って行こうと備えるわけです。旅での困った経験は、体で覚えさせるチャンスという気がしています。
コロナで旅ができなくても、身近なところに目を向けよう
コロナで海外には行きづらい昨今ですが、身近に楽しめる場所はたくさんあります。散歩でもいいし、美術館もいいですね。いまはむしろ人数制限があって行きやすくなっていると思うので、私はこの夏、毎週のように娘たちと美術館に行きました。ピーター・ドイグ展や着物展に連れて行けば、現代画家の素晴らしい色彩や、昔の日本人が生み出す色の組み合わせなどを学ぶことができます。遠くに行かなくても、たくさんの刺激が、近所に転がっていることを再発見しました。
コロナによって制約されたからこそ、自分たちが住む日本を振り返ると、できることがいっぱいある、すばらしいものがたくさんある事に気がつきます。こんなときだからこそ娘たちと、「東京プロジェクト」として、小さな発見のある、小さな旅を楽しんでいます。
手探りでいいから親が始めてあげよう
私の教育観を1年間にわたって連載ではお話してきました。改めて子育て中のママ・パパにお伝えしたいのは、こんな時代だからこそ、手探りでいいから、親もいっしょに何か新しいことを始めるきっかけを作っていただきたいな、ということです。
新しい選択肢に目を瞑らずにおこう
AI時代やコロナで、世界が大きく変わっていく中で、家庭教育もみんなが手探りの状態だと思います。
チョイスはどんどん広がってきて、戸惑うこともあるかもしれません。でも新しいチョイスに目を瞑らないでいただけたらいいな、と思います。何でも初めてのことは面倒だと感じるし、ハードルが高いものです。でも初めてのことをやるリズムや軽やかさを親がつけていかないと、子どもも新しいことを体験できない時代になってきていると思います。
ぜひチャレンジする勇気を持って家庭教育を楽しんでほしいと思います。
◆行正さんが監修している『カラオケEnglish』は全国の小学校でも取り入れられている4技能英語ラーニングアプリです。デモ体験もできるので、ぜひチェックしてみてください。
記事執筆
料理研究家。福岡市出身。高校時代にアメリカに留学後、カリフォルニア大学バークレー校の政治学部を卒業。帰国して大手広告代理店に勤務しながら料理本を出版。退職後は「なるほど!エージェント」を立ち上げ、料理家としても、テレビや雑誌などで幅広く活躍中。現在は英話学習アプリ開発「カラオケEnglish」なども手がける。『19時から作るごはん』『行正り香のインテリア』(ともに講談社)など、著書は50冊以上。また、献立づくりの悩みを解決するアプリ「今夜の献立、どうしよう?」でレシピ提案やコラムや料理のコツを動画で配信している。
連載バックナンバーはこちら!
撮影/平林直己 取材・文/HugKum編集部