これから社会に出る子どもに必要なのは「サバイバル能力」。家庭でどう育てる?【行正り香の家庭DE教育改革!Vol.9】

これからの社会でサバイバルできる能力とは

みなさん、こんにちは。

料理研究家の行正り香です。

この連載では、家庭でできる教育について私の子育ての経験を交えながらお伝えしてきました。第9回は、サバイバル能力についてお話ししたいと思います。

「これからの社会で子ども達に必要な力は、サバイバルできる力だ」と盛んに言われています。“サバイバルする”というのは、社会で生き残るということ。言い換えれば、どんな分野の仕事であっても、自分がつくったものを提供し、提供したものに価値があって、その価値にお金をいただく、という循環を生むことです。

では現代の子どもたちが身につけるべきサバイバル能力とは、どのような力なのでしょうか。また子育てを通して、その力を鍛える方法はあるのでしょうか。私自身の経験も交えながら、家庭で親ができるサバイバル能力の身につけ方を考えてみましょう。

サバイバルできる人の大前提は、自律し自立できること

まずはサバイバル能力を身につける前提となる“じりつ”から話を始めましょう。

家庭での教育の目的は、“じりつ”させることです。じりつという言葉には「自律」と「自立」の二つの書き方があります。

自律できるのは18歳くらい

自分で立つためには、自分を律することができないといけません。食べる量や運動量、睡眠の時間も自分で律することができれば、体調を崩さず健康でいられます。

この生活のリズムは自然に身につけられると思いがちです。でも実際に子どもが自分を律して、いろいろなことを自発的に行えるようになるには、ものすごく時間がかかるものです。おそらく18歳くらいまでかかるのではないでしょうか。だから18歳までは子ども、18歳から大人になるという区切りがあるのかもしれませんね。

 自律を教えるには仕組みづくりが不可欠

私が子ども達にしたことは、規律を作ってあげることです。朝起きてご飯を用意し、夜はお風呂に入れ、家の手伝いをさせる。この繰り返しです。いまは中学生になりだいぶできるようになってきましたが、子どもが規則正しい生活を送れるよう自ら律することを教えることは、親の大切な役目です。

よく「自分の部屋の掃除をしてねと言っても、うちはやらないんですよ」と嘆く声も聞きますが、ここは仕組み作りが必要です。やったらどうなる、やらなかったらどうなる、という仕組みまで作らないと子どもはやりません。親は家庭の中での規律を作ってあげて、ご褒美と罰を与える。その繰り返しをすることで、ルールを守ることができる社会人になっていきます。

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セルフラーニングこそがサバイバル能力を身につける方法論

では自律できる人となった後、「自立」をしてサバイバルするためにはどんなことが必要でしょうか。

固執してやり抜く経験が自立につながる

学校や塾が学びを与えてくれるという受け身の姿勢だけでは、自立できませんし、もちろんサバイバル能力も身につきません。なぜなら、サバイバル能力はセルフラーニングで培われるものだからです。これからの時代はセルフラーニング自体がサバイバルの方法論になっていきます。

セルフラーニングは言い換えれば、あるひとつのことに固執してやり抜く学びです。

 英語を学ぶ、文章を書く、デザインするなど、子どもがこれから必要な力を身につけるためには、たくさんの情報をどんどん入れればできるようになるだろうと親は思いがちです。ですがこれは間違いだと思います。

いいと思うものを徹底して真似て自分のものにする

英語なら、繰り返し暗唱→自分で例文を作れるか

たとえば英語でも大切なのは、どんどん新しいコンテンツをみて、新しい英語を聞くことではありません。まずは、今日習った英文を何度も繰り返し暗唱して言えるか。そして次の段階では、暗唱したパターンを応用して自分が新しい例文を作れるか。この徹底した繰り返しでパターンを自分のものにしていくのです。

さらに進んだセルフラーニングの形としては、自分がいいなと思う英語のインタビューの聞く→聞いた内容を音読し、5分ごとに区切りながら内容を要約してみる→さらに自分なりの考えを付け加えて話してみる、という方法の繰り返しも私が実践したおすすめの方法です。

文章を書くなら、好きな文体を真似てリズムをつかむ

文章についても、たくさん本を読んでいるから文章を書くのが上手になるかというと、必ずしもそうとは言えません。

自分が好きな文体の人を見つけて、その文体を真似して書いてみる方法が効果的です。私の経験では、たとえば英語で文章を書くときには、ヘミングウェイの文章を真似して書きました。ヘミングウェイの文章は小学4年生でも理解できるほど易しく、ワンセンテンスがすごく短いから、ぽんぽんと頭に入ってきます。たくさん本を読んで混乱するよりも、たった1冊の本を10回読むほうが、文体のリズムをつかむことができるものです。

The Old Man and the Sea (English Edition)

私は料理やインテリアの本にエッセイで文章を載せるとき、美しく書こうとするのではなく、短いセンテンスで伝わるように書こうと気をつけています。学生時代に身につけたリズムが、英語でも日本語でも文体のベースになっているのだと思います。

デザインなら、好きなwebサイトを再現できる力を身につける

ITやデザインの力を身につける場合も同じです。もし自分の好きなwebサイトのデザインがすばらしいなと思ったら、それが空で描けるくらい真似して作れるくらいまでやってみること。そこまでやれてはじめて自分自身がクリエイターになってサバイバルすることができるのです。その先は自分のオリジナリティを加えていく楽しさも生まれてくるでしょう。

 セルフラーニングで大事なのは、自分に合うものを見つけること

私の専門分野にたとえると、料理や英語学習にはいろいろな方法があって、教えてくれる先生もたくさんいます。その中かからたったひとり、自分にぴったり合う味の料理を教えてくれる先生や、「この人の英語の教え方は自分にぴったりだ!」という先生がいるはずなんです。その人に出会ったら、徹底して真似してみるといいと思います。

 料理も英語も受け身で見ているのと、実際にやるのとでは、全然違います。実際に魚を下ろしてみると、変なところに骨があったりえらがあったりうまくいきませんよね。でも魚の構造をつかむには、イワシが安いときに100尾買ってきて100尾を下ろすんです。「あー、ここに骨があるんだ」ということが実感としてわかります。同じパターンのものを身につけて、自分のものになるまで真似をするところまでやってみることが大切です。

小さい子どもでもすぐできる!サバイバル能力の鍛え方

ここからは、サバイバル能力をつけるために親子で実践できる方法についてお話します。

まず子どもの学びは、パッシブラーニングとアクティブラーニングの2つに分かれます。

たとえば、与えられた問題を解き、テストを受け、正解をマークシートで答えるという学習はパッシブラーニングです。この受け身の学習スタイルは今までの日本の主流でしたが、徐々に変化しつつあります。

とくに今回の新型コロナで津波のように世の中が変化したとき、人はいま自分が何をすることが一番必要か、考えられる力が求められます。子どもたちが将来サバイバルするために一番大切なのは、アクティブに学んでアウトプットができる力です。これには、家庭での対話が鍵になります。

【鍛え方1 】絵本を読んだ後、対話をする

絵本を読み聞かせしたとき、対話をしてあげることはとても良い方法です。私が子どもによく投げかけた質問がこちらです。

「この絵本のお話をもう一度ママに聞かせて」

「主人公の中でふたり重要な人がいるとしたらその二人ってどんな人?」

子どもは、絵本を通して入れた情報を思い出して、自分の言葉にしてアウトプットしてくれます。上の二つの質問は、それぞれに違ったクリエイティビティが生まれるので、質問のパターンを工夫するのもおすすめです。お母さんとお父さんが質問上手になれば、子どもも楽しみながら考える力をつけることができます。

行正さんがよく読みきかせをした「モチモチの木」斎藤 隆介 (著), 滝平 二郎 (イラスト) 岩崎書店

 【鍛え方2】テレビを見る前に教えて欲しいことを伝える

子どもがテレビを観たいと言ったときには、こう伝えます。

「観てもいいよ。観たあとに、好きなキャラクターがなぜ好きなのか教えてね」

「このアニメの主人公の兄弟の性格を比較して教えて」

「アニメの今日の話を時系列で話してね」

このやり取りをすることで、テレビを観るという受け身な時間に、アクティブの要素が加わります。些細なことですが、この対話がクリエイティビティをつくることになり、繰り返すうちに子どもの話も上達していきます。

【鍛え方3】料理をして写真を撮りレシピを書いてみる

料理をして写真を撮り、レシピを書いてみるのもおすすめです。レシピは、実はプログラミングと共通するものです。分量と工程を書くことで、実際の調理の段取りも学べます。それを写真に記録して形にすることはアウトプットの練習にもなります。

サバイバルするためにアウトプットする機会を作ってあげよう

ここまでに紹介したサバイバル能力の鍛え方は、どれもアウトプットをする機会を大切にしています。情報を頭の中に入れっぱなしにせず、学んだことを再現して話せるということが、サバイバルする上ではとても重要だからです。

変化の大きい時代に対応してサバイバルできる力を身につけなくてはいけない子どもたちは大変だと思いますが、ぜひ対話を上手に活用して、子どもをナビゲーションしてあげたいものです。

 

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料理研究家
行正り香

料理研究家。福岡市出身。高校時代にアメリカに留学後、カリフォルニア大学バークレー校の政治学部を卒業。帰国して大手広告代理店に勤務しながら料理本を出版。退職後は「なるほど!エージェント」を立ち上げ、料理家としても、テレビや雑誌などで幅広く活躍中。現在は英話学習アプリ開発「カラオケEnglish」なども手がける。『19時から作るごはん』『行正り香のインテリア』(ともに講談社)など、著書は50冊以上。また、献立づくりの悩みを解決するアプリ「今夜の献立、どうしよう?」でレシピ提案やコラムや料理のコツを動画で配信している。行正り香さんのInstagramはこちらから。

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撮影/平林直己 取材・文/HugKum編集部

 

 

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