みなさん、こんにちは。
料理研究家の行正り香です。
この連載では、家庭でできるしつけや英語教育など、私の経験を交えながらお伝えしてきました。第10回は、ITリテラシーが家庭教育でなぜ大切なのかについてお話ししたいと思います。
プログラミングは料理でいうとレシピを書く作業でしかない
日本では、最近になってプログラミング教育がスタートしましたが、プログラミングという言葉だけがクローズアップされている現状の学び方はとてももったいないと感じています。
海外では15年前からSTEAM教育が始まっていた
アメリカ・イスラエル・シンガポール・中国の4カ国では15年前から時代に備えたITリテラシーを学んでいくためのSTEAM教育(スティームきょういく)に力を入れてきました。STEAM教育とは、 Science(科学)、 Technology(技術)、 Engineering(工学)、Mathematics(数学)を統合的に学習する「STEM教育(ステムきょういく)」に、 さらにArts(リベラルアーツまたは芸術)を統合する教育のことです。
これらの国でのITリテラシーを仮に料理に例えると、プログラミングというのはレシピを書くことでしかありません。海外は、レシピを書くようなプログラミングというジャンルではなく、もっと広い観点で、「どんな食材を使って、どういうジャンルの料理を作って、どんな場所で提供するのか。そのサービスをどうやって人に伝えていくのか」というところまで含めたようなIT教育を進めています。
日本のプログラミング教育はわかりにくい
日本ではITを活用するための教育を、「プログラミング教育」という言葉にしました。本来プログラミングはコーディングすることなので、狭い範囲を示す言葉が使われてしまいました。ちょっと、この部分の定義が難しいがために、日本の教育がどこを目指しているのかわかりにくくになっているように思います。
ITを活用して何ができるのか、大切なのは想像できる力
私が子どもに伝えたいのは、プログラミングの重要性ではありません。もっと広い意味で、ITを活用してどういうことができるのか、ということを想像できるようになってほしいと思っています。
その技術のひとつとしてプログラミングがあるし、何かを伝えるためには、デザインや編集力も必要となります。例えば自分が作ったサービスをどうやってPRすればよいか?クレームが来たらどのように対応すればよいかということまで含めたITリテラシーというものを高めていく必要があると思っています。
コロナで日本もようやくIT教育が本格化
新型コロナで子どもたちの学びも大きく変わってきました。まずはじまりつつあるのはオンライン教育です。日本は人口がそこそこいて経済も回っていたのと、公立の先生のレベルが高いので、IT教育が必要とされてこなかったアジアの国のひとつです。新型コロナになって、学びを止めない国々の事例を見て、日本もこのままではいけないと、初めて気がついたわけです。
日本でオンライン教育をしている小学校の率は8%だと言われています。もしコロナの状況が1年あるいは2年続く、あるいはまた別の感染病が流行ったりすることがあるという前提に立つと…、いつまで経っても楽観的に、こんな状況は治るんじゃないかと思っているわけにはいかない状況がきてしまいました。
オンライン教育も公平に、それが日本式
コロナでオンライン教育をやらざるを得ない状況となり、パソコンやタブレットが5年前倒しで全員に配られることが決まりました(GIGAスクール構想と言います)。日本はIT教育には立ち遅れましたが、国のお金で小・中学生に機器を配っている国は少なく、多くの国では自分の家のPCやディバイスで勉強するのが主流となっています。日本は良い意味でも、そうでない意味でも、「全ては平等にしなくてはいけない」という概念があるので、平等にwi-fiとタブレット・PCが行き渡るまではオンライン教育を始めないというのが前提としてあり、それがオンライン教育へのネックとなっていました。
2021春から、全国で本格スタート
2021年春からは、全国の小学校でのオンライン教育が本格的にスタートする可能性が出てきました。機器を配ったあと、何をどう学ばせるかは、自治体や先生に委ねられています。
たとえば英語の授業で使うオンライン教材ひとつでも、受け身に学ばせるのか、オンラインアプリを活用してアクティブに学ばせるのかで、結果は大きく変わってきます。予算の中で、最大限の効果を発揮する方法を手探りで探していくことになります。しばらくは試行錯誤が続きますが、IT教育とSTEAM教育がここから本格化していく可能性があるのは素晴らしいことです。
ITのベースになる想像できる力を養おう
手探りの学校にすべてお任せでいいの?
この連載9回でもお話ししましたが、コロナで教育システムの流れが大きく変わってきた今、「どういう教育を子どもに受けさせたら、これからの時代、サバイバルできるのか?」ということを、改めて親が冷静に考える必要がある時代となりました。
先生も手探り、国も手探り状態です。手探りでやっている人に自分の子どもの未来を完全丸投げしてしまったら、どうなるのかは、未知の状態です。だったら私は、自分たち親が、それなりに工夫して考えてあげる必要があると思います。
ITのベースはクリエーティビティ
発信することで人とつながり、何かを形にしていくというのがITの得意としていることです。子どもたちには「ITってなんだろう」と考えたり、ITを使ってどういう風に学んだらいいのか、ITの問題ってなんだろうと、たくさん考えるチャンスを、大人は与えてあげられたらいいな、と思います。
「こんなことができたらいいな、こんなものがあったらいいな」というクリエーティブな発想が、ITを生み出しました。だとしたら、親が子どもが小さいうちにできることは、プログラミング教育のような特別なことではなく、日常の遊びで積み木やブロックをしたり、美しいルールのあるものを見せたり、時間をかけて、クリエーティブに頭を動かせる土台を学ばせてあげるうことかと思います。
何よりも、親が適度な危機感を持つことが、まずは第一歩になると思います。
「未来は変わる。その未来に備えるため、子どもに与えるべき教育も変わる」
ここに親が気づかなければ、今まで通り、他の人がやっていることが一番良いに違いないと、その道をたどって歩いていってしまうことになりかねません。メインロードの先には出口がないかもしれません。それならば少し寄り道して、これから始まるプログラミング教育だけではない、子どもにITリテラシーやデザインセンスを身につけさせる機会を作ってあげたりするのも、親の大切な役割の一つだと思います。
ポストコロナ時代は、今までのように「先生と国にお任せ」では回らない時代です。でも、だからこそ、親も楽しみながら冒険をしていけるといいですね。
◆行正さんが監修している『カラオケEnglish』は東京都千代田区ほか、全国の小学校でも取り入れられている4技能英語ラーニングアプリです。デモ体験もできるので、ぜひチェックしてみてください。
行正り香
料理研究家。福岡市出身。高校時代にアメリカに留学後、カリフォルニア大学バークレー校の政治学部を卒業。帰国して大手広告代理店に勤務しながら料理本を出版。退職後は「なるほど!エージェント」を立ち上げ、料理家としても、テレビや雑誌などで幅広く活躍中。現在は英話学習アプリ開発「カラオケEnglish」なども手がける。『19時から作るごはん』『行正り香のインテリア』(ともに講談社)など、著書は50冊以上。また、献立づくりの悩みを解決するアプリ「今夜の献立、どうしよう?」でレシピ提案やコラムや料理のコツを動画で配信している。行正り香さんのInstagramはこちらから。
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撮影/平林直己 取材・文/HugKum編集部