「内閣」について理解することは、子どもが政治に関心を持つよいきっかけになります。内閣は日本の行政を主導する機関で、さまざまな政策を打ち出して国民の生活基盤を整えているのです。内閣の仕組みや他の機関との関係について、分かりやすく解説します。
内閣とはどういうもの?
内閣はいつ、どのような目的で誕生したのでしょうか。まずは内閣の歴史や概要について見ていきましょう。
内閣は行政を担う
日本で初めて現在のような形の内閣ができたのは、1885(明治18)年です。18世紀にイギリスで始まった制度「議院内閣制」を取り入れ、初代総理大臣には伊藤博文(いとうひろぶみ)が就任しました。
議院内閣制では、内閣は国会の信用の下で存立することになっています。内閣のトップである「内閣総理大臣」は、国会議員の中から、国会の議決で指名されます。
内閣総理大臣に指名された国会議員が最初に行うのが、総理官邸に移って各省庁の大臣を選定する「組閣(そかく)」です。その後、宮中(きゅうちゅう)での任命式などを経て、新しい内閣として活動を始めます。
発足後は国会が定めた法律や予算をもとに、行政権の主導者として政策を実行します。
国の司令塔
内閣は行政を担う機関ですが、実務は行いません。教育・社会保障・外交・労働環境の整備など、国の行政範囲は多岐にわたります。
このため文部科学省や厚生労働省といった各省庁が業務を分担し、それぞれの仕事を進めています。内閣は各省庁に指示を出したり、進捗(しんちょく)状況をチェックしたりする「司令塔」の役割を担っているのです。
内閣の主な仕事
内閣が担当する行政とは、どのような仕事を指すのでしょうか。具体的に見ていきましょう。
国民の生活・経済を支える
内閣では国民が安心して暮らせるように、各省庁に生活や経済を支えるさまざまな政策の推進を指示します。
生活に結び付く施策としては、子どもの教育、病気や災害への対応、食糧政策、国境の防衛などが挙げられます。
科学技術の発展や経営者への支援、交通網・労働環境の整備など、国民が経済的に豊かになるようサポートするのも内閣の大切な仕事です。
予算と税金の管理
政策を実行するためには、たくさんの費用がかかります。その費用は主に、国民が納める税金でまかなわれています。
内閣といえども、大切な税金を自由に使うことはできません。内閣が提出した予算案を国会が承認して初めて、政策を実行に移せるのです。
予算が正しく使われているかどうかをチェックするのが「会計検査院」です。内閣は決算の内容をまとめて、検査報告とともに国会に提出します。
また、内閣は収入を増やすために新たな制度を設けたり、経済対策として減税に踏み切ったりすることもあります。予算と税金の管理は、内閣の重要な仕事の一つといえるでしょう。
出典:会計検査とは? | 会計検査院 Board of Audit of Japan
対世界への活動
内閣の仕事は、国内に向けたものだけではありません。世界の国々と交わり、貿易や平和維持の取り組みなどにも携わっています。
関税の取り決めや、自然災害で甚大(じんだい)な被害を受けた地域への援助活動、地球環境を守るための政策などが代表的な活動例です。
内閣のメンバーについて
新内閣がスタートすると、テレビや新聞で、大臣たちがそろって記念撮影をする様子が報道されます。「今回の内閣は女性が少ない」「新たなメンバーが入って若返った」のように、世間の評判を耳にすることも多いでしょう。
内閣総理大臣になるには、一定の条件があります。また、内閣のメンバーは「国務大臣」と呼ばれ、人数は法律で定められています。内閣を構成するメンバーについて見ていきましょう。
内閣総理大臣になる方法
「内閣総理大臣」は、内閣を代表する存在です。
総理大臣になるためには「国会議員である」「文民である」という、二つの条件を満たす必要があります。文民とは「現役の自衛官ではない人」のことです。
ほとんどの国民が文民に当てはまるので、まずは国会議員に当選することが、内閣総理大臣になる最低条件です。
国会には「参議院」と「衆議院」があり、どちらの議員であっても総理大臣になれることになっています。
ただし、今まで総理大臣に選ばれた人は、すべて衆議院議員です。「総理大臣は衆議院議員から選ぶ」というのが慣例になっており、参議院議員から総理大臣が誕生する可能性は極めて低いでしょう。
各省大臣は、現在最大19人
総理大臣を除く国務大臣の定数は「内閣法」によって14人以内と決められています。
2021年1月現在は「復興庁」と「東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会推進本部」が設置されている関係で、16人以内となっています。
ただし特別な事情がある場合は、3人まで増員可能です。基本的には最大17人、復興庁や東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会推進本部が設置されている間は、19人までとなります。
三権分立とは?
日本では国家権力が1カ所に集中することを防ぐために、「三権分立」の原則を取り入れています。内閣を理解するうえで欠かせない、三権分立について見ていきましょう。
内閣を含む権力を3つに分ける仕組み
三権分立は、国家権力を「立法権」「行政権」「司法権」の三つに分け、バランスを保つ仕組みです。日本では立法権は国会、行政権は内閣、司法権は裁判所が持っています。
国家権力が特定の人物や団体に握られれば、国民の権利や自由が脅かされる危険があります。そのようなことにならないように、分けられた権力を、それぞれ別の独立した機関に持たせ、互いを監視し合っているわけです。
内閣は国会に対して衆議院を解散する権利を、裁判所に対しては最高裁判所長官の指名権や、その他裁判官の任命権を持ちます。
内閣がこうした権利を行使することで、おかしな法律の制定や不正な判決を防げます。
国会が持つ立法権
国会は三権の中で唯一、国民が直接選んだ国会議員で構成する機関です。このため、日本国憲法においても「国権の最高機関」とされています。
立法権を持つ国会では、法律の制定や国家予算の承認、外国との条約締結の承認などを行います。国会は内閣に対して「国政調査権」や、内閣総理大臣の指名・不信任案の決議を行う権利を持っています。
また、裁判所に対しては「弾劾(だんがい)裁判所」を設置して裁判官を辞めさせることが可能です。内閣による国家予算の不正な使用や、裁判官の不当な判決を抑制する効果があります。
裁判所が持つ司法権
司法権は、法律に基づいて違反者を裁いたり、争いごとを解決したりする権利のことです。最高裁判所を頂点とする、各裁判所が担っています。
日本には「裁判員制度」があるため、誰もが裁判員に選ばれる可能性があります。司法権は国民にとっても、非常に身近な国家権力といえるでしょう。
裁判所は「違憲立法審査権」を行使して、国会の制定する法律が、憲法に違反していないかどうかを審査できます。
また、内閣に対しては、行政が実施した規制や処分、命令の適法性を判断する権利があります。
裁判所がにらみを利かせているおかげで、憲法の理念からかけ離れた法律が施行される心配はなく、行政を相手に個人が訴訟を起こすことも可能になるのです。
国の中枢の役割を知ろう
内閣は、行政を一手に引き受けている国の中枢機関です。国会や裁判所とともに、対等な立場で私たちの生活を支えています。
内閣総理大臣や国務大臣は、ほとんどの場合、国会議員から選出されます(国務大臣は、民間人の登用もあります)。そして今はまだ小さな子どもたちも、いずれは選挙権を得て、国会議員を選ぶ日が訪れます。
内閣の役割や三権分立の意義をしっかりと伝え、正しい判断ができるように導いてあげましょう。
構成・文/HugKum編集部