SDGs目標8「働きがいも経済成長も」とは? 日本・世界の現状と取り組み事例も紹介

SDGsの目標8は「働きがいも経済成長も」です。経済成長と雇用は密接な関係にあり、人間らしく働ける仕事や環境がなければ、持続的な経済成長は実現しません。日本や世界の労働問題や、目標8を達成するために個人ができる取り組みを紹介します。

目標8「働きがいも経済成長も」

SDGs(持続可能な開発目標)は、2015年9月の国連サミットで全会一致で採択された国際目標です。社会・経済・環境の側面において、世界が解決すべき課題を17のゴールと169のターゲットで示しています。SDGsの目標8が掲げられた背景や内容を詳しく見ていきましょう。

参考:SDGsとは? | JAPAN SDGs Action Platform | 外務省

目標8が必要な理由

目標8では「持続的な経済成長」や「生産的な完全雇用およびディーセント・ワーク」をテーマに掲げています。現在、世界には労働にまつわるさまざまな問題があり、持続的な経済成長や人間らしく働くことが妨げられているのが現状です。

主な問題点として、以下のようなことが挙げられます。

・失業率の深刻化
・児童労働・強制労働・人身売買
・人権を無視した劣悪な労働環境
・雇用におけるジェンダー格差

経済成長を継続するには、イノベーション(技術革新)を通じて生産性を高め、産業を拡大していくことが重要です。そのためには、労働者の雇用環境を改善し、不利な立場で働く人をなくすところから始める必要があります。

ディーセント・ワークとは

目標8では、「ディーセント・ワーク(Decent Work)」の重要性が強調されています。日本語では「働きがいのある人間らしい仕事」と訳されますが、具体的にどのような働き方を指すのでしょうか。

ディーセント・ワークとは、1999年にILO(国際労働機関)のファン・ソマビア事務局長が提唱した言葉です。全ての人に十分な仕事があるのが前提で、少なくとも以下を満たす必要があるといわれています。

・働きに応じた十分な収入が得られる
・権利・社会保障・社会対話が保障されている
・自由・平等であり、働くことで生活が安定する

世界における労働問題と取り組み

目標8でディーセント・ワークが掲げられているのは、世界には未だ解決されていない労働問題があるためです。先進国と発展途上国との間では、貿易による経済格差も生じています。

児童労働

国際社会が一刻も早く解決しなければならない課題の一つに、「児童労働」が挙げられます。児童労働とは、15歳未満(途上国は14歳未満)の子どもが学校に通わずに、大人と同じように働くことです。ILOとユニセフの報告書によると、労働に従事する子どもは世界に約1億6000万人いるとされています。その数を全世界的に見ると、10人に1人の子どもが労働に従事していることになるのです。

児童労働は、「貧困」と密接な関係があります。貧困層が多い国や地域では、子どもは重要な労働力であり、家計を支える頼みの綱なのです。児童労働は、子どもから「教育を受ける機会」を奪います。レンガ製造や農薬散布などの重労働に従事させられるケースも多く、成長過程の子どもの身心に悪影響を与える恐れもあるでしょう。世界ではNPOやNGO団体が募金や寄付を募り、児童労働の原因である「貧困」を減らす取り組みをしています。

参考:CHILD LABOUR – GLOBAL ESTIMATES 2020, TRENDS AND THE ROAD FORWARD|ILO/unicef

後発途上国への支援「EIF」

開発途上国の中でも特に貧しい国は、「後発開発途上国(LDC)」と呼ばれます。LDCが経済的に成長するには、先進国への輸出量を増やすことが不可欠ですが、LDCは産業の育成やインフラ設備が不十分なため、自由貿易の恩恵が十分に享受できません。

SDGsでは「拡大統合フレームワーク(EIF)」と呼ばれる取り組みを通して、LDCの貿易支援を行っています。資金・計画・人材教育などの面でサポートを行い、貿易能力の向上を目指すことが目的です。2001年からEIFによる支援を受けているカンボジアは、青少年の雇用や女性のエンパワーメントの促進につながったとして、取り組みが高く評価されています。

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日本における課題

働き方や経済に関連して、日本も多くの課題を抱えています。長時間労働や過労で身心の健康を損なう人が多く、働くことに生きがいや喜びを感じられない人も少なくありません。長期化する経済の低迷も大きな課題です。

過労

日本では、長時間労働による「過労」が社会問題となっています。過労で精神障害を患う人は増加傾向にあり、2019年における「精神障害発病による労災認定件数」はここ20年で最多の509件でした。

労働基準法(36協定)では、時間外労働の上限時間を月45時間・年360時間と定めており、上限を超えた場合は罰則の対象となります。36協定があるにも関わらず過労や労災が減らないのは、過重労働を強いる「ブラック企業」の存在が関係しているといわれています。過剰なノルマや残業代の未払い、ハラスメント行為が横行する企業をなくしていかない限り、過労問題の解決は難しいでしょう。

参考:過労自殺における長時間労働とその背景要因について | 労働安全衛生総合研究所

経済成長率の低迷

日本は高度経済成長期を経て急速な経済発展を遂げましたが、バブル崩壊後は成長が落ち込み、現在は世界経済の影響を受けて低迷状態が続いています。

日本の長期低迷の理由は、「人口減少・少子高齢化」「IT産業や技術革新の遅れ」「バブルの崩壊で生じた不良債権」などが挙げられます。さまざまな問題が複雑に絡んでおり、一筋縄ではいかない状況です。日本経済を立て直す鍵は、加速するデジタル×グローバル化の中で、新たな価値を創造することといわれています。AIやIoTなどの新規技術によって生み出される財やサービスの経済効果に期待したいものです。

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日本政府による取り組み例

SDGs目標8「働きがいも経済成長も」を達成するために、日本政府はどのような取り組みを行っているのでしょうか?代表的な事例を二つ紹介します。

最低賃金制度

ディーセント・ワークを実現するには、人間らしい生活を継続できる最低限の保障や収入が必要です。日本政府は、労働条件の改善や生活の安定性を確保する目的で「最低賃金制度」を設けています。日本政府が行う「最低賃金引き上げ」は、低賃金で労働者を雇う企業に対し強制的に賃金の値上げを課す仕組みです。生産性の低い仕事をしている企業は、生産性向上という課題を先送りにし、「安い賃金で人を雇えば何とかなる」と考える場合があります。人件費が上がれば収益が圧迫されるため、企業は生産性向上に取り組まざるを得なくなるのです。

参考:最低賃金制度

ハラスメント対策の義務化

ディーセント・ワークの障壁の一つに「ハラスメント」が挙げられます。ハラスメントとは、発言や行動によって相手を不快な気持ちにさせる「嫌がらせ」のことです。代表的なものには、「セクハラ(セクシャルハラスメント)」や「パワハラ(パワーハラスメント)」などがあります。

近年は、職場でのハラスメントが原因の個別労働紛争が増加しているのです。日本政府は職場でのハラスメントの防止を図る目的で、大企業の事業主に対し「ハラスメント対策」を義務付けました。2022年4月1日からは、中小企業でも義務化される見込みで、職場環境の改善が期待されています。

参考:パワハラ防止

個人でもできる取り組み例

目標8を達成するために個人ができる取り組みには、どのようなものがあるのでしょうか。募金や寄付による支援もありますが、「フェアな立場」で相手を支援する方法もあります。自分らしい生き方を実現するために、「ワーク・ライフ・マネジメント」を取り入れてみるのもよいでしょう。

フェアトレード商品の購入

発展途上国を中心に、世界には低賃金・重労働を強いられている人が大勢います。アフリカのカカオ農園は小規模な家族経営であるケースが多く、子どもたちも重要な労働力としてきつい仕事に従事させられているのが現実です。

「フェアトレード」とは、相手を一方的に援助するのではなく、「公正な取引」によって貧困を減らす仕組みです。具体的には、発展途上国の原料や製品を適正価格で継続購入し、生産者の生活水準向上や自立を図ります。フェアトレード商品を購入すると生産者たちに正当な報酬が支払われるため、日本にいながら発展途上国の人を支援することが可能です。世界フェアトレード機関で定められているフェアトレード商品には「コーヒ・紅茶・チョコレート・スパイス・オイル」などがあり、パッケージに「認証ラベル」が付与されています。

参考:フェアトレードとは?|fairtrade japan|公式サイト

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ワーク・ライフ・マネジメントの実現

内閣府では、ワーク(仕事)とライフ(生活)の調和を目指す「ワーク・ライフ・バランス」を推奨しています。企業ではワーク・ライフ・バランス実現のため、フレックスタイムや時短勤務を導入するなどさまざまな取り組みを行っていますが、国に頼るだけでなく、個人が自分の働き方を見直すことも大切です。

「ワーク・ライフ・マネジメント」とは、自分の意志で仕事と生活をマネジメントすることを指します。「仕事のウエイトを下げてプライベートに時間を割く」のではなく、仕事と生活の両方を充実させる試みです。一人一人がワーク・ライフ・マネジメントを意識すれば、働きがいや生きがいが生まれ、最終的には社会貢献につながるでしょう。

参考:仕事と生活の調和とは(定義) – 「仕事と生活の調和」推進サイト – 内閣府男女共同参画局

誰もが働きやすい環境づくりを目指す

貧困や不平等な雇用、強制労働など、働き方に関する課題はどの国にも存在します。「働いても十分な賃金が得られない」「仕事にやりがいがない」「働きたくても雇用がない」といった状況は、人々の生きる喜びを奪います。

日本政府は、ワーク・ライフ・バランスや働き方改革などを通して労働環境の改善を図っていますが、課題は山積みです。一人一人が自分の生き方・働き方を見直し、身近なところから取り組んでいく必要があるでしょう。

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文・構成/HugKum編集部

今回の記事で取り組んだのはコレ!

  • 8 働きがいも経済成長も

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