齋藤 孝さん×松丸亮吾さんが教育トーク!幼少期に自己肯定感を高めてくれたのは「ナゾトキ」と「神経衰弱」

テレビやメディアで大活躍のナゾトキブームの仕掛け人・松丸亮吾さんの連載『松丸くんの教育ナゾトキ対談』。東大生でもある松丸さんが、子どもたちと親御さんに「考えることは楽しい」と伝えるミッションのもと、教育界でご活躍中の豪華ゲストの方々と、教育対談を繰り広げます。

第5回のゲストは、ベストセラー『小学生なら知っておきたい教養366』『小学生なら知っておきたいもっと教養366』(ともに小学館)の著者であり、Eテレ『にほんごであそぼ』総合指導でもおなじみの齋藤孝先生。国語教育の第一人者で、教養についての著書も数多い齋藤先生が、松丸さんと「本当の頭の良さ」について語ります。今回のテーマは、昨今気になる「自己肯定感」について。松丸くんと齋藤先生の自己肯定感は、どのように培われたのでしょうか。

ナゾトキの良さは「考えることがおもしろい」と伝わるところ

―齋藤先生は、「日本語」や「読書」「教養」「コミュニケーション」というテーマで、たくさんの著書を出版されています。教育学者という立場から、松丸さんの「ナゾトキ」をどう見ていますか?

齋藤 僕は、ナゾトキの問題をけっこう解いたことがあるんですよ。以前、テレビ番組の『今夜はナゾトレ』にも解答者として出ていたんです。その時から、これはおもしろい問題だなと気に入っていました。なぞなぞでもないし、雑学クイズでもない。しっかり考えると、答えが出る。「考えることがおもしろい」と伝わる、そういう新しいジャンルを作って広く認知させてきた。それはすごく素晴らしいことだなと思うんですね。

松丸 ありがとうございます! 恐縮です(笑)

齋藤 いわゆる一問一答形式ではなくて、論理的な思考力が問われる問題が非常に多いでしょう。普通のクイズとは違う、考える力が育つスタイルになっていますよね。

松丸 先生の本を拝読して、僕がやっていることと近しいなと思ったのは、「頭の良さ」って必ずしも、学校で習ったことをどれぐらい覚えているかとか、知識がどれだけあるかということだけではないということでした。

子どもたちは学校の勉強から入るじゃないですか。学校でやる一問一答の問題で×が増えると、「自分は頭が悪いのかもしれない」と自己肯定感の低下が加速していってしまう。それが今の教育の課題だと思っていて。僕がナゾトキを始めたのは、そこをひっくり返したいって思いがあるんです。

齋藤 なるほど。自己肯定感に着目されたのはすごく教育者的な視点ですね。

松丸 ナゾトキは閃きに特化した問題なので、小学12年生が解けて、大人が解けないということも少なくないんですよ。頭を使って自分で答えにたどり着いて、大人に勝った瞬間って、子どもからすると最強になった気持ちになりますよね。そこで一度、自己肯定感が取り戻せれば勉強に戻っていく。そういう力がナゾトキのひとつの側面としてあるのかなと思っています。

齋藤孝・松丸亮吾の「自己肯定感」はどう育ったか?

齋藤 確かに、『ナゾトレ』の番組で解答した時、正解すると僕もすごく嬉しかったんですよ。その理由を想像してみると、考えたという作業に対するご褒美なんですよね。知ってるか、知らないかではなくて、頭のなかで工夫して考えたということが、自己肯定感に繋がっているんです。

松丸 先生は「思考」が得意だと思いますが、子どもの頃から自己肯定感が高い方でしたか?

齋藤 僕は極度に高いんですよ()。でもそれは能力というより、エネルギー感・生命感ですね。体を動かすのが大好きな子どもだったので、体の内側からエネルギーが湧いている感覚があって、それが自己肯定感につながっていました。だから、テストの成績が悪いからって自信を失うということはないんですよ。僕は自動車免許の筆記試験すら落ちてますけど。

松丸 え、意外です(笑)。実は、僕の人生で最初に行き詰まったキーワードが自己肯定感なんです。うちは4人兄弟で、僕が末っ子なんですね。ゲームをしても、ケンカをしても負けるのは僕で、幼い頃は自己肯定感がかなり低かった。

齋藤 お兄さん(メンタリストのDaiGoさん)が強力だし、ほかに2人いて末っ子となると、大変な競争環境ですね。

松丸 はい。でも、子どもの頃に放送していた『IQサプリ』という頭の柔らかさが問われるクイズ番組を見ているときには、問題を解くのが家族でいちばん僕が早かった。それで、「僕、天才なんじゃね?」と思えて、自己肯定感が一気に高まりました。

自分が得意なことで自己肯定感を高める

齋藤 教育的な視点では、自己肯定感が低いというのは最もよくない状態です。感覚的なことでもあるので、勉強がよくできる人の自己肯定感が必ずしも高いとは限らない。そういう意味では、自己肯定感という感覚を幼い頃に育むことが大切だと思います。勉強は苦手だけどナゾトキの問題は解けた、大人に勝ったという経験があると、明るい自信ができるんですよね。

松丸 そうなんですよ。『IQサプリ』で僕にはこれしかないと思って、それからナゾトキにどっぷりはまって、その結果、兄たちに解けない問題を作りたいというモチベーションに変わって、クリエイターの方に向かっていきました。

齋藤 自己肯定感につながるゲームというと、僕はトランプの神経衰弱が好きでしたね。大人は子どもほど集中して取り組んでない気がして、スキがあるように思ったんです。だから注意深く、集中力をもって臨むと、けっこう勝てる。勝っているうちに、自分は頭がいいかもと思いましたね。その時に、神経衰弱こそが頭の良さの指標なんだって自分で決めたんですよ。それで、勝ち続けるために強い人とやるのをやめて、生涯無敗を自分で確定したんです。宮本武蔵のように戦わないという方法で自らの地位を守った(笑)。

松丸 じゃあ、あとでやりますか?

齋藤 瞬殺されそうですね(笑)。自己肯定感を高めるという意味では、僕や松丸さんのように、子どもたちは自分が得意なことから始めればいいと思います。自信がつけばチャレンジができて、チャレンジができると経験が積める。チャレンジする勇気につながる最初のきっかけは、ナゾトキでも神経衰弱でもいいんです。

松丸 僕もそう思います。

あらゆる領域で一番大切なものは「工夫」

齋藤 チャレンジする勇気とは、試行錯誤をする力ともいえます。松丸さんは著書『東大松丸式ナゾトキスクール』のなかで、「試行錯誤力」を「エナジー」と言い換えていて、とてもおもしろいなと。確かに、あれこれと試行錯誤できるということはエナジーがあるってことですよね。

松丸 ゲームのパラメータの「HP(ヒットポイント)」や「XP(エクスペリエンス)」のように、子どもに自分の思考力をわかりやすく認知してほしいという狙いがあって、試行錯誤力を「エナジー」と訳しました。今、齋藤先生とお話をして、エナジーの根本にあるのは自己肯定感だなと改めて感じましたね。

齋藤 試行錯誤のなかでキーワードになるのが、工夫。簡単な言葉だけれども、失敗したら別のやり方をしてみるという壁を乗り越えていく感覚にもつながるし、あらゆる領域で一番大事なことだと思います。ナゾトキは考える工夫が必要な問題ばかりだから、自己肯定感や試行錯誤力、工夫する力を育む入り口になりますね。

松丸 そうなれば嬉しいですね。

記事監修

齋藤孝|明治大学文学部教授
東京大学大学院教育学研究科博士課程を経て現職。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。『声に出して読みたい日本語』(草思社)がシリーズ260万部のベストセラーになり日本語ブームをつくった。ほかに『読書力』(岩波新書)、『理想の国語教科書』(文藝春秋)、『質問力』(筑摩書房)、『本当の「頭のよさ」ってなんだろう?』(誠文堂新光社)、『小学生なら知っておきたい教養366』『小学生なら知っておきたいもっと教養366』(小学館)など、日本語、教養に関する著書を、大人向け子ども向け問わず多数執筆。NHK Eテレ「にほんごであそぼ」総合指導。

記事監修

松丸亮吾|謎解きクリエイター

東京大学に入学後、謎解きサークルの代表として団体を急成長させ、イベント・放送・ゲーム・書籍・教育など、様々な分野で一大ブームを巻き起こしている謎解きの仕掛け人。現在は東大発の謎解きクリエイター集団RIDDLER()を立ち上げ、仲間とともに様々なメディアに謎解きを仕掛けている。監修書籍に、『東大ナゾトレ』シリーズ(扶桑社)、『東大松丸式ナゾトキスクール』『東大松丸式 名探偵コナンナゾトキ探偵団』(小学館)『頭をつかう新習慣ナゾときタイム』(NHK出版)、など多数の謎解き本を手がける。

取材・文/川内イオ ヘアメイク/吉田謙二(齋藤先生)、大室愛(松丸さん) スタイリング(松丸さん)/飯村友梨  撮影/田中麻以(小学館) 

▼対談のつづきはこちら。

齋藤 孝×松丸亮吾の教育対談「読書とは、誰かの話を聞くのと同じ、コミュニケーションです」
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