齋藤 孝×松丸亮吾の教育対談「読書とは、誰かの話を聞くのと同じ、コミュニケーションです」

テレビやメディアで大活躍のナゾトキブームの仕掛け人・松丸亮吾さんの連載『松丸くんの教育ナゾトキ対談』。東大生でもある松丸さんが、子どもたちと親御さんに「考えることは楽しい」と伝えるミッションのもと、教育界でご活躍中の豪華ゲストの方々と、教育対談を繰り広げます。

第5回のゲストは、ベストセラー『小学生なら知っておきたい教養366』『小学生なら知っておきたいもっと教養366』(ともに小学館)の著者であり、Eテレ『にほんごであそぼ』総合指導でもおなじみの齋藤孝先生。国語教育の第一人者で、教養についての著書も数多い齋藤先生が、松丸さんと「本当の頭の良さ」について語ります。今回のテーマは、読書の効用について。読書についての著書も多い齋藤先生と、実は「あまり本を読まない」松丸さんが、読書の意義を考えます。

▶︎前編はこちら「自己肯定感を高めたのは、ナゾトキと神経衰弱!」

読書は、ひとりで世界を広げ、探索する方法

―今の子どもたちは、日常的にYouTubeやゲームなどの映像に触れる一方で、読書する時間は減っています。読書する意味や大切さについて、おふたりはどう捉えていますか?

松丸 僕はあまり読書を通ってきていない人間なんですよね。東大というイメージの影響で、小さい時から本をたくさん読んできたんだろうとか、知識があるだろう、教養深いんだろうと言われるんですけど、読書以外のことでそれを培ってきたと思っています。でも、齋藤先生の『読書する人だけがたどり着ける場所』(SBクリエイティブ)という本を拝読して、あらためて読書の大切さを感じました。どうやって子どもに読書したいと思ってもらえるかというのは長年の課題だと思うので、小さい時の僕の心も踏まえて教えてください。

齋藤 僕にとって読書は、ひとりで世界を広げることができる、探索することができる方法だと思うんです。心を落ち着けて本を読んでいると、著者と一緒にいて、その人の精神世界に連れていってもらえる感じがしますよね。僕は読書が好きだったので、これまでに読んだ本の一冊一冊が、自分の心のなかに味方として残っているという印象があります。そういう意味では、松丸さんが読書をしないで今のように活躍しているというのは驚きです()。でも、コミュニケーションは膨大にしてきたんですよね?

松丸 そうですね。人と話すことでいろいろなことを吸収してきたと思います。僕は人の考え方を知るのがすごく好きなタイプで、例えば兄のDaiGoとはよく喧嘩もしていますけど、話せば話すほど、そういう考え方もあるんだということをどんどん理解していくんですよ。納得できるかどうかは別にして、子どもの頃からずっとそうやって話し続けてきたことが、僕にとっては読書の代わりになっていたのかもしれません。

読書は、誰かの話を聞くことと同じ

齋藤 DaiGoさんにもお会いしたことがありますが、多分、本をたくさん読むタイプですよね?

松丸 はい、120冊ぐらい()

齋藤 それはずいぶんと多いですね! DaiGoさんは長男だから、恐らくいちばん上でほかの兄弟からの刺激が少なかった。だから本で膨大な刺激を受けているのでしょう。松丸さんはそのお兄さんと話すことで、本を読んできた人の恩恵を受けてきたんですね。

松丸 本をたくさん読んでいる人から話を聞いていることで、本を読んだのと同じくらいの養分が僕に行き渡るとしたら、ラッキーですね。

齋藤 読書は基本的に、著者の思考に寄り添っていく作業なんですよね。だから、話を聞くということと同じなんです。それに対して反発もするだろうし、共感もするだろうし。読書が本当にできる人にとって、読書はコミュニケーションで、それができると本の世界に深く入っていける。松丸さんにとっては、家族とのコミュニケーションが学びになってきたのだと思います。

松丸 そうですね。家族で言葉を交わす時間はかなり大量にありました。僕ら四人兄弟はそれぞれ部屋があったんですけど、勉強するときはみんなリビングに集まってしていました。ひとりになりたい時に自分の部屋に行くという感じですが、基本的にごはんを食べているとき以外、全員リビングにいました。それが会話のチャンスを増やした要因だと思います。

齋藤 そうなんですね。僕はインプットよりもアウトプット重視派なんですよ。本を読んだら、その内容について家族と話すというアウトプットが大事だと思います。それを家でやると、子どもは自分で喋った言葉が語彙になっていくから、使える語彙が増えていく。そういう意味では、松丸さんの家は語彙力や知性を鍛えぬくために素晴らしい環境だったと思います。

知らない言葉に出会ったときに、すぐ調べることが大切

松丸 「語彙力」というと、ボキャブラリーが豊かということに重点が置かれがちだと思うんです。でも、簡単な言葉でもいいから適切に組み合わせて、自分の言いたいことを正確に伝達することがいちばんの語彙力ではないかなと。

齋藤 語彙力とは言葉をセレクトする力、運用力だと思うんですよね。文脈に合わせて、どんな言葉を選ぶか。頭に浮かぶ言葉の数が少ないと、どうしても全部が「かわいい」「やばい」になってしまう。そういう意味では、もちろん四字熟語を500個おぼえるとか、知っている言葉の数が多い方がいいんですけど、大切なのは難しい言葉を知っている、知らないというよりも、それをいかに的確に使いこなすかということ。それが語彙力だと思います。

松丸 そうですよね。僕は、子どもに最初に身につけさせるべきことは、具体的な語彙というよりは、知らない言葉が出てきたときに、知らないままにしない意識だと思うんです。辞書を見てもいいし、ネットで検索してもいい。自分で調べることでレベルがひとつ上がるというか。

齋藤 調べればすぐにわかることなのに、案外、大人でも検索しない人が多いですよね。言葉を間違えたまま使っている人も多いですし。

松丸 ありますね。例えば「情けは人のためならず」という言葉は、正しく使えている人は50%未満と言われています。正しくは、他人に親切にするとめぐりめぐって自分に良いことが返ってくる、という意味ですが、他人に情けをかけちゃいけないという意味だと思っている人が半数いるんです。でも、もしこの言葉に出会った時に、どういう意味だろうと調べていたら、そうはなりませんよね。そういう訓練を小さい時からやっていれば、語彙や知識に限らず、いろいろなことが正しく身に付くんじゃないかなと思うんですよ。

齋藤 そうですね。リビングの真ん中に辞書を置いておくのも、ひとつのやり方だと思います。家族で話している時、テレビを見ている時、知らない言葉がでてきたら調べる。その意味について、家族で共有する。家庭でこのひと手間をかけてもらって、習慣になれば知的探究心が根付く家になると思います。

記事監修

齋藤孝|明治大学文学部教授
東京大学大学院教育学研究科博士課程を経て現職。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。『声に出して読みたい日本語』(草思社)がシリーズ260万部のベストセラーになり日本語ブームをつくった。ほかに『読書力』(岩波新書)、『理想の国語教科書』(文藝春秋)、『質問力』(筑摩書房)、『本当の「頭のよさ」ってなんだろう?』(誠文堂新光社)、『小学生なら知っておきたい教養366』『小学生なら知っておきたいもっと教養366』(小学館)など、日本語、教養に関する著書を、大人向け子ども向け問わず多数執筆。NHK Eテレ「にほんごであそぼ」総合指導。

記事監修

松丸亮吾|謎解きクリエイター

東京大学に入学後、謎解きサークルの代表として団体を急成長させ、イベント・放送・ゲーム・書籍・教育など、様々な分野で一大ブームを巻き起こしている謎解きの仕掛け人。現在は東大発の謎解きクリエイター集団RIDDLER()を立ち上げ、仲間とともに様々なメディアに謎解きを仕掛けている。監修書籍に、『東大ナゾトレ』シリーズ(扶桑社)、『東大松丸式ナゾトキスクール』『東大松丸式 名探偵コナンナゾトキ探偵団』(小学館)『頭をつかう新習慣ナゾときタイム』(NHK出版)、など多数の謎解き本を手がける。

取材・文/川内イオ ヘアメイク/吉田謙二(齋藤先生)、大室愛(松丸さん) スタイリング(松丸さん)/飯村友梨  撮影/田中麻以(小学館) 

▼対談の続きはこちら

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