テレビやメディアで大活躍のナゾトキブームの仕掛け人・松丸亮吾さん。東大生でもある松丸さんが、子どもたちと親御さんに「考えることは楽しい」と伝えるミッションのもと、教育界でご活躍中の豪華ゲストの方々と、教育対談を繰り広げます。
第5回のゲストは、ベストセラー『小学生なら知っておきたい教養366』『小学生なら知っておきたいもっと教養366』(ともに小学館)の著者でありEテレ『にほんごであそぼ』総合指導でもおなじみの齋藤孝先生。国語教育の第一人者で、教養についての著書も数多い齋藤先生が、松丸さんと「本当の頭の良さ」について語ります。今回のテーマは、ズバリ「教養」。子どもに教養を身に付けさせる方法や、教養とナゾトキの関係がわかります。
▶︎前編はこちら「自己肯定感を高めたのは、ナゾトキと神経衰弱!」
▶︎中編はこちら「読書とは、誰かの話を聞くのと同じ、コミュニケーションです
子どもに教養を身に着けさせる簡単な方法
齋藤先生は、小学生向けに教養の本を出版されています。子どもに教養をつけたいと思った時にどうしたらいいのでしょうか?
齋藤 難しく考える必要はありません。例えば、ムンクの『叫び』がおもしろい、好きという子がいたとします。その時は、一緒にムンクの他の作品とか、『叫び』のように感情が爆発しているほかの絵を検索したり、探したりして、興味の幅を拡げていく。子どもは一度心をつかまれると関心があっちこっちに伸びるので、親はそれを繋げていくアシストをするイメージです。今はインターネットがあるので、ピカソが好きな子がいたら、検索して、どんどんほかの作品をたくさん見てみようとか、というようにやると割とスムーズに広がると思います。
松丸 確かに、インターネットで検索すると関連する項目が出てくるサジェスト機能はすごいですよね。僕はもうひとつ、様々なジャンルのものを子どもの手の届くところに置いておくということも大事だと思っています。先生の本にも、食わず嫌いでなくいかに多様なものに触れているかが教養の深さを決めると書かれていましたよね。その時に、親が子どもに押し付けちゃダメ。強制されると、子どもの意欲がどんどん失われていくから、「置いておく」ことがポイントだと思うんです。
齋藤 松丸家でもそういうことがあったんですか?
松丸 うちの場合、家に算数パズルがありました。積み木とブロックみたいなやつなんですけど。僕がそれで遊び始めたので、親はそれを見て、数独とかクロスワードのパズル本を買ってきました。僕がその本に熱中したら、今度は『数の悪魔―算数・数学が楽しくなる12夜』という算数の魅力が書かれた本が家にあった。そこから算数にはまって、すごく得意になったんです。でも、その間、親からは一度も「この本読みなさい」「このパズルをやりなさい」と言われませんでした。その子が好きになるかどうかわからないけど、触れるチャンスを与えるというのはすごく大事なことだと思います。
齋藤 触れるチャンスというのは大事ですね。ローリングストーンズのキース・リチャーズは、家におじいさんのギターが飾ってあって、それを見て、かっこいい! と思って弾き始めたそうです。まさに、家にギターがあったことがきっかけ。
松丸 そうなんですね!
世界がおもしろいから、自分が生きる価値がある
齋藤 僕は、家庭での環境作りが教養力に通じると考えています。最初のとっかかりとして、特に小さい子には絵本がいいでしょうね。絵本を100冊、家に置いておいてほしい。図書館で10冊ぐらい借りられますよね。そのなかで気に入った1冊があれば、それは買う。そうすると、1000冊のなかから選ばれた100冊になる。子どもはこれを繰り返し読みます。絵本というのは、教養だけではなく情操教育にもすごくいいんですよ。心が育つものだと思うので、絵本を100冊おいて、読んだ内容について親子で会話をするということを子育ての軸にしてほしい。
松丸 僕は今、東大の工学部にいるんですが、教育学部への転学部を考えているので、教養や心を育てる教育にもすごく興味があります。
齋藤 親や教育者に意識してほしいのは、子どもに「この世界はおもしろい、だから生きる価値がある」と、暮らしや学校生活を通じて感じてもらうことです。目線が「自分」という内向きになってしまうと、「自分に才能がないから生きていく価値はない」と考えてしまう危険性がありますよね。そういう回路には絶対に入らないように、子どもの目線を外に向けて、「この世界はおもしろいことに溢れてる。それをもっと知りたい」と感じるような環境を与えてほしい。今の時代、大人も子どもも「自分」に捉われ過ぎじゃないのかなと思うんですよね。
松丸 わかります。SNSのフォロワー数や「いいね!」の数などでその人の価値を測ってしまうような傾向は、確かにありますよね。
齋藤 今の時代、他者を互いに評価し合う査定社会みたいなっていると思うんです。相互査定社会は、減点主義に陥りがちなんですよ。お互いにマイナスポイントを探してしまう。そういう社会は息苦しいでしょう。世界という一生かかっても探索しきれないほど広くて魅力的な森が広がっているのだから、他人の評価なんて気にしないで、その森で思いっきり羽を伸ばしてほしいですね。そうして育んだ教養は発想力や閃く力にもつながっていきます。
松丸 そう思います。ナゾトキの問題を作るというクリエイティブの部分でも、幅広く知っているというのは、すごく大切で。何かのためになるからやるということじゃなくて、いろいろなものに触れておけば、引き出しが増えて、頭のなかの参考資料が多くなる。そうすると共通点を探すのが早くなって、応用が利くようになるんです。
齋藤 アイデアというのは、既存のものの組み合わせですからね。教養が豊かなほうが、発想力が高くなるということです。例えば、ナゾトキとシェイクスピアを組み合わせたらおもしろいと思うんですけど、そもそもシェイクスピアを知らなければ、その発想が生まれないわけです。
ナゾトキ×古典の可能性
松丸 教養をさらに深めるという意味では、日頃からインプットの分析もしています。例えば、『鬼滅の刃』はなにがおもしろくて、こんなに流行っているのか。それが自分なりにわかると、ナゾトキの問題作りにも活かせるようになる。その時も、やっぱり過去の作品に詳しい人であれば、この構造ってずいぶん昔に流行ったドラマと同じだなとか、エッセンスを抽出しやすくなると思います。
齋藤 ナゾトキの問題を作るのは、子どもにとっても楽しいでしょうね。
松丸 僕も、そろそろナゾトキづくりのワークショップをやりたいんです。
齋藤 教養を育むために、例えば、シェイクスピアの作品など古典でナゾトキというのをやってほしいですね。古典と組み合わせて、ナゾトキをしながら古典に触れることで深みが出るし、子どもの印象にも残ると思うんです。
松丸 僕は中高生の時に演劇部に所属していたのでシェイクスピアの劇を何度も観に行ったんですけど、衝撃的だし、本当におもしろいんですよね。例えば『ロミオとジュリエット』はナゾトキとすごく相性がいいと思います。ジュリエットが困るシーンがあって、そこから抜け出すためにどうするかという問題が出てきて、解けたら物語が進むみたいな。謎を解いていたら、自然と古典を読み進められる本になりますよ。
齋藤 ぜひ、ナゾトキと組み合わせて「古典っておもしろいよね」と広めてほしいと思います。みんなが当たり前にシェイクスピア等の古典を語り合えるようになったら、素晴らしいですね!
記事監修
記事監修
東京大学に入学後、謎解きサークルの代表として団体を急成長させ、イベント・放送・ゲーム・書籍・教育など、様々な分野で一大ブームを巻き起こしている”謎解き”の仕掛け人。現在は東大発の謎解きクリエイター集団RIDDLER(株)を立ち上げ、仲間とともに様々なメディアに謎解きを仕掛けている。監修書籍に、『東大ナゾトレ』シリーズ(扶桑社)、『東大松丸式ナゾトキスクール』『東大松丸式 名探偵コナンナゾトキ探偵団』(小学館)『頭をつかう新習慣! ナゾときタイム』(NHK出版)、など多数の謎解き本を手がける。
▼前編はこちら
▼中編はこちら
▼第1回 高濱正伸先生(花まる学習会)との対談はこちら
▼第2回 宝槻泰伸先生(探究学舎)との対談はこちら
▼第3回 藤本徹先生(東大 ゲーミフィケーション研究者)との対談はこちら
▼第4回 石戸奈々子さん(NPO法人CANVAS理事長)との対談はこちら