経済成長率で日本を見てみよう
ニュースで「経済成長率」という言葉を聴いたことのある方も多いはずです。「日本の経済成長率は○○%」「アメリカの経済成長率は○○%」と聞いても、「経済成長率って具体的にはどういうこと?」と感じることもあるでしょう。
経済成長率とは、その名前の通り「国の経済規模がどれだけ成長・変化したか」を率に表したものです。
経済成長率は高いほど国が豊かになっていることを意味し、日本もかつては「高度成長期」や「安定成長期」と呼ばれた時期もありました。しかし、現在では日本の経済成長率は2019年が0.3%と低迷しており、国自体はほとんど豊かになっていません。
国が経済的に豊かでないと給料は上がらず、国民生活も豊かになりません。また、経済成長率を高めるために、政府は税金を投入して公共事業を増やすため、徴収される税金も増えてしまいます。
経済成長を促すことと国民の生活を豊かにすることがどのように関わっているのか、その関係性について見ていきましょう。
経済成長率とは
経済成長率とは具体的にどのようなものを指すのか、詳しい計算方法も見ていきましょう。
経済成長率は国内総生産(GDP)を基に、国ごとに年間でどれだけ経済規模が成長しているかを割り出します。成長率を割り出すためには、以下の2つを利用します。
1. 国内総生産(GDP)
2. 実質国民所得(国民所得)
この時注意したいのは、経済成長率という言葉と実質経済成長率では意味が異なる点です。
普段、国が発表しているのは実質経済成長率であり、これは円の時価総額や物価の変動を除いた実質GDPで割り出しています。一方、経済成長率という名称の場合は、時価総額や名目GDPから割り出す名目経済成長率として扱われます。ニュースや新聞では「経済成長率」と表すため混同してしまいますが、どちらの意味で使用しているかで捉え方が変わるので注意してください。
国内総生産(GDP)とは
次に経済成長率を理解するために必要な「国内総生産(GDP)」を詳しく見ていきましょう。
国内総生産は1年間を4半期に分割し、期間内に国内で生み出した物やサービスの付加価値のことで、国外での付加価値を除きます。つまり、国内企業が海外の工場で生み出した製品などは換算せず、あくまで日本国内で生み出したモノの価値を図る指標です。
日本の名目GDP(2020年)は549.9兆円で世界3位、アメリカは2277兆円で世界1位、中国は1620兆円で世界2位です。
GDPの数値が前期や前年比でどの程度増減したかを計算することで、その国の経済成長率がわかります。GDPは国の経済的な余力として判断され、増加していれば成長率が高く、海外からの投資や消費も増加します。
日本の場合は1980年代半ばまでは成長著しかったのですが、バブル崩壊以降は低調になってしまいました。
GDPは国内でどれだけの経済活動があり、儲けが出ているのかの指標だと思えば分かりやすいでしょう。
日本の経済成長率の推移
続いて、日本の経済がどのように成長してきたのか、経済成長率の推移から見ていきましょう。
日本の経済を下記の大きなポイントに分けて見ていきます。
- 高度経済成長からバブル崩壊まで
- 経済成長と国民生活
- バブル崩壊後の日本経済
- 2010年から2013年
- 2014年から2018年
- 2019年から2021年
1.高度経済成長からバブル崩壊まで
日本では昭和20年の終戦以降、戦後復興を成し遂げて高度経済成長期に入りました。
戦後の日本は経済的にも貧困が続く時代でしたが、1960年代以降は名目国内総生産では15%以上、実質国内総生産でも10%を超える急速な成長を見せます。日本国内においては設備投資、個人消費、外国への輸出が拡大し、人的資源も東京に集約されたことで目ざましい成長がありました。
しかし、実質国内総生産は1970年から5%以下にまで低下します。この背景には現在の変動相場制への移行に加え、世界的なオイルショックの影響がありました。
その後は一定水準での成長が見られたものの、1990年代にはGDPベースでの成長率は低下します。これにはプラザ合意と呼ばれる世界的な為替レートの安定化策により、円高が一気に進んだことが影響しました。
日本の場合は内需を促進することで不況を回避しましたが、その後バブルと呼ばれる株価や地価の急激な上昇を引き起こしました。バブルは1990年頃には崩壊し、その後は日本の経済は長い停滞期に入る結果に繋がったのです。
2.経済成長と国民生活
日本は戦後復興を果たし、1980年代まで経済が大きく発展、国民生活も大幅に改善しました。
特に1970年代から1980年代にかけて、消費者物価指数の大幅な上昇とともに、日本人の給与所得も増加しました。その結果、給与の増加は個人の購買力を高め、需要に応える形で企業の生産活動も活発化し、国民生活の豊かさに繋がったのです。
国民生活が豊かになり生活水準も改善したことで、意識の中でも生活水準が中流程度になったと感じる人が増加しました。いわゆる、「一億総中流」と呼ばれる国民意識のことで、当時の日本人人口が約1億人程度だったことに起因します。
その後の年代では中流意識を持つ人の数は徐々に低下しています。
3.バブル崩壊後の日本経済
日本経済はバブル崩壊後の1990年代から、株価・地価ともに下落し、名目経済成長率も0.3%にまで低下しました。消費者物価指数・給与所得とも非常に低調となり、「失われた20年」と呼ばれる時期に入ります。
国民意識においても中流意識の割合が減少し、生活水準を「下程度」と感じる人が増加しました。
2000年代に入ってから実質経済成長率は回復の兆しを見せたものの、2008年の「リーマンショック」により世界的な不況に陥ります。日本でも急激な円高が進み、再び経済成長が鈍化してしまいました。
4. 2010年から2013年
2008年のリーマンショックによる影響で、2008年度の経済成長率は戦後最大のマイナスである-3.4%、2009年度も-2.4%となりました。
大きなマイナスが続く時期になりましたが、その後の2010年度は一転して3.3%の大きなプラスへと転換します。しかし、東日本大震災の影響もあり、プラスは単年度のみで2011年度には再び経済成長率は0.5%と鈍化してしまいます。
2013年度は再び2.7%と高い経済成長率を見せ、散発的に高い経済成長率を繰り返すのが現在の日本経済です。
5. 2014年から2018年
2014年度は消費税が8%に引き上げられ、個人の消費が冷え込んだことから、経済成長率が-0.4%となりました。
翌年の2015年度には一転して1.7%の経済成長率となっており、買い控えの反動が経済を下支えしました。
2016年度は0.8%、2017年度は1.8%と低いながらも堅実に成長しますが、2018年度には再び0.2%と低調です。
6. 2019年から2021年
2019年度の後半からはコロナウィルスの世界的な流行により、経済成長率は-0.7%と落ち込む結果になりました。さらに2020年度には日本国内でもコロナウィルスが拡散し、緊急事態宣言の発令なども相まって、経済成長率は戦後最低の-4.5%でした。
2021年度の経済成長率の見通しは、世界経済が5.1%、日本経済は2.7~2.8%程度になると予測されています。今後のウィズコロナ・ポストコロナの様相次第では、経済が大きく変動する可能性もあります。
日本の経済成長率は世界ランキングで何位?
日本の経済成長率の現状について確認していきましょう。
2021年の日本のGDPは、アメリカ・中国に次ぐ世界で第3位と発表されました。しかし、一方で国民一人当たりのGDPで見ると、世界で25位となっています。GDPは人口の多い国ほど高くなりやすいですが、日本は国民一人ひとりのGDPが伸び悩んでいる状況です。
幸福度指数が低く、経済成長率もゼロ付近
日本の現在の状況は、経済成長率が0%に近く、年度によってはマイナスになってしまうこともあります。バブル崩壊以降はほとんど経済的な成長は見られず、重税も相まって国民生活は困窮しています。
その結果、国連が2021年版として発表した「国・地域別の幸福度指数」では、日本は世界で40位という結果になりました。経済成長率の低下が、国民から幸福も奪っている現状があります。
世界の中の日本経済の位置づけ
日本経済の世界に占めるGDPは、かつて世界のGDPの9.8%と大きなものでした。しかし、2010年には8.5%、現状のまま進めばさらに小さくなっていくと予測されています。
経済成長率では中国・インド・韓国などが高い成長率を見せている中、日本は構造改革が進まず低調のままです。日本の強みである「モノづくり」を世界にアピールし、日本の世界における位置づけを確固たるものにする必要もあります。現状の経済、政治のままであれば、日本が世界から離されていくのも現実としてあり得る展開となっています。
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日本の経済成長率が低い理由
なぜ日本の経済成長率はこんなにも低いのか、以下4つに着目してみました。
- デフレの影響
- 実効税負担率が高い
- 低賃金重労働
- 外国人労働者の輸入
デフレの影響
日本でデフレが起こった理由は、消費税の導入と緊縮財政(予算の支出を抑える)が大きいとされています。
日本では1997年の消費増税の際、物価上昇率が急激に低下し、マイナス1%を下回ることもありました。その後、物価上昇率が高まってきたところで、2014年の消費増税で、再びデフレへと突入します。
政府と財務省が主導して、地方への再分配を目的として始めた消費増税ですが、結果として経済が低迷し、日本全体の経済を抑圧する結果となったのです。
実行税負担率が高い
日本の実効税負担率は2019年時点で44.4%、2021年の実効税負担率は46%以上とも言われています。
実効税負担率は国民一人当たりの所得に対して、どれだけが税金として徴収されているかを示したものです。つまり、日本は給料の半分近くを税金として徴収されている重税国家です。
実感は湧きにくいですが、社会保険料や国民年金、市民税・県民税、消費税、固定資産税など名称こそ違いますが、日本は税金であふれています。毎年の実効税負担率は上昇するのに対し、経済成長率はゼロに近く、所得も上がっていません。
その結果として、国民の消費は冷え込み、企業の収益は上がらないことから、給与も上がらないという負のスパイラルに陥っているのです。
低賃金重労働
企業の収益が上がらなければ、企業は社員に収益を上げるよう努力を求めます。しかし、収益が上がらないことから賃金も上昇せず、どれだけ働いても成果に繋がらない社会となっています。先進諸国に比べて日本での労働の満足度が低いとされるのは、労働の対価が低いことも大きな要因です。
外国人労働者の輸入
企業としては収益を上げつつ、支出を減らしたいと考えます。そのためには安く雇用できる人材が必要で、そこで利用するのが外国人技能実習生、出稼ぎ労働者と呼ばれる外国人労働者の存在です。
外国人労働者は日本よりも物価の安い国から来ていることが多く、低賃金でもそれほど不平不満を言うことなく働いてくれると思われています。そんな外国人労働者を雇うことで低賃金を維持できますが、同じ条件で働く日本人にとっては死活問題です。
政府の重税だけでなく、企業側の労働者を安く雇いたいという考えが、日本の経済成長を妨げている要因となっています。
日本の経済成長率、今後の予測
今後の日本経済の成長率は、コロナの影響から徐々に立ち直り、コロナウィルスの発生前の水準まで徐々に回復していくと予測されています。特に直近の2022年度は実質GDP成長率が+ 2.9%となるとされ、一定程度は持ち直します。
しかし、2023年度には再び例年の水準に低下するとされ、潜在成長率並みの伸びになる予測です。
現在行っている防疫対策を今後も続けていけば、経済活動は長期的に抑制され、外資系企業はもちろん、国内企業も苦しい立場に立たされます。ウィズコロナの時代にも安定した経済成長率を実現するには、実情に則した政策を政府が打ち出す必要があるでしょう。
日本経済のこれから
日本経済は現在、失われた30年とも言われるほど長期的な低迷状態です。重い税負担、経済の現状に合わない政策、企業の質の低下など、改革が行われなければ今後も低迷の時期は続くでしょう。
「日本は成熟した経済国家だから」と反論する方もいますが、成熟した先進諸国でも経済成長はしています。
現状の経済に不満を持たれている方も多いはずですが、だからこそ政治に興味を持つことが大事です。各政党が主張する公約、政治のスタンスをチェックし、今の生活をより良い方向に変えてくれる政治家を選ぶことが国民にできる最初の行動です。
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文・構成/HugKum編集部
参考:
経済社会の推移と世代ごとにみた働き方(厚生労働省)
経済成長率の推移(社会実情データ図鑑)
ウィズコロナ下での世界・日本経済の展望(三菱総合研究所)
世界の名目GDP 国別ランキング・推移(グローバルノート)
豊かさの現在地 製剤成長、日本と世界(日本経済新聞)
第3章 人口・経済・地域社会をめぐる現状と課題(内閣府)