古事記とは?
「古事記(こじき)」とは、いつ、誰が作った本なのでしょうか。制作の目的も合わせて紹介します。
現存する日本最古の歴史書
古事記は、712(和銅5)年に完成した、日本の歴史をまとめた書物です。現存する歴史書の中では、最も古いといわれています。
上中下の3巻構成で、上巻には日本を造った神様の話が収録されています。中・下巻は、初代の神武(じんむ)天皇から第33代推古(すいこ)天皇までの事業記録です。
上巻に添えられた序文には、古事記編さんの目的や成立の過程が記載されています。古事記に出てくる神様の多くは、昔話や童謡にも登場し、日本人のルーツとして広く親しまれています。
作られた理由と制作者
古事記の編さんを計画したのは、第40代天武(てんむ)天皇です。
実は、古事記の前にも、神や天皇について記した書物はありました。しかし、本によって内容が違ったり、後から加筆された部分があったりして、正しい歴史を伝えているとはいえなかったのです。
天武天皇は、国を統一するために、内容がバラバラの歴史書をまとめ、新たな書を作ろうと考えます。
まずは、記憶力に定評のあった役人・稗田阿礼(ひえだのあれ)に、自らが正しいと考える歴史を語って聞かせました。
次に、阿礼に語った内容を、書物としてまとめようとしましたが、思いのほか時間がかかり、完成する前に天武天皇が亡くなってしまいます。
古事記編さんの事業を引き継いだのは、第43代元明(げんめい)天皇でした。元明天皇は、阿礼が高齢となっていたことを気にかけ、文官の太安万侶(おおのやすまろ)に筆記を命じたといわれています。
古事記の特徴
古事記には、他の神話集や、歴史書には見られない特徴があります。同時代の歴史書「日本書紀(にほんしょき)」との違いも含め、古事記の特徴を見ていきましょう。
日本の歴史が、ドラマチックに描かれている
古事記は、天皇家が国を治めることの正当性を、広く国民に知らしめる目的で作られました。誰が読んでも理解できるよう、読み物としての要素が随所にちりばめられています。
古事記で紹介されている神話や説話は、一つ一つがドラマチックな物語として描かれ、登場するキャラクターも、みな個性的です。
欲深い神・意地悪な神・嫉妬する神など、人間のような言動をする神様がたくさん出てくるのも、見どころの一つでしょう。神様という特殊な存在なのに、どこか人間味のあるキャラクターに読者は共感し、思わず引き込まれてしまうのです。
「日本書紀」との違い
日本書紀は、天武天皇が、古事記とは別の事業として編さんを命じた歴史書です。
息子の舎人親王(とねりしんのう)や忍壁皇子(おさかべのおうじ)など12人によって進められ、720(養老4)年に完成しました。
古事記が「万葉仮名(まんようがな)」を用いているのに対し、日本書紀では「漢文」を用いています。そのことから、中国をはじめとする諸外国に向けて、日本をアピールする目的で作ったと考えられています。
そのため、日本書紀に登場するキャラクターは、みな理想的で、古事記に描かれているような、理不尽な言動は見られません。
古事記と日本書紀の違いを象徴するキャラクターといえるのが、ヤマトタケルノミコトです。
古事記では、彼は凶暴な性格で、父親に追い出されたとしていますが、日本書紀では、父親のために賊を退治する従順な息子として描かれています。
古事記に登場する神々
全体の1/3が神話で構成され、たくさんの神様が登場するのも古事記の特徴です。以下の神様の名前を、一度は見聞きした記憶がある人も多いでしょう。
・イザナギとイザナミ
・アマテラスオオミカミ
・スサノオノミコト
・ツクヨミノミコト
・オオクニヌシノカミ
・ニニギノミコト
なお、オオクニヌシノカミは「因幡の白兎(いなばのしろうさぎ)」の物語に登場する、心の優しい神様です。絵本や幼児向け番組などで、オオクニヌシノカミの存在を知ったパパやママもいるかもしれませんね。
古事記のあらすじ
古事記に収録されている神話は、それぞれが独立した短編のような存在です。特に有名な四つの神話をピックアップして、あらすじを紹介します。
天地開闢
天地開闢(てんちかいびゃく)は、何もない渦のような状態だった世界が、天と地の二つに分かれたときの話です。
このとき、天に浮かぶ高天原(たかまのはら)にアメノミナカヌシという名の神が出現し、宇宙のすべてを司る存在になったとされています。
続いてタカミムスヒ・カムムスヒが現れ、しばらくするとウマシアシカビヒコヂノカミ・アメノトコタチノカミが現れました。この5柱はすべて「独神(ひとりがみ)」と呼ばれる性別の無い神で、高天原にいる神々「アマツカミ」に分類されます。
イザナキとイザナミ
イザナキとイザナミは、独神とは異なり、性別が設定された神様です。
2人は兄と妹であり、夫婦でもありました。アマツカミに「国生み(くにうみ)」を命じられて地上に降り立ったイザナキとイザナミは、夫婦となって日本の国土を生み出します。
国生みを終えた後、イザナミは火の神を生んだために命を落とし、黄泉(よみ)の国へ行ってしまいます。連れ戻しに来たイザナキに、イザナミは地上に戻る許可が出るまで、自分の姿を見てはいけないと言いました。
しかし、イザナキは我慢しきれず、つい覗き見てしまうのです。夫の裏切りに怒り狂ったイザナミは、地上の民を1000人殺すと脅します。すると、イザナキは1500の産屋(うぶや)を建てると言って、妻に対抗しました。
夫婦のいざこざによって、人間の生死のバランスが決まり、以降、順調に人口が増えることになります。
国譲り神話
「国譲り」神話は、地上のオオクニヌシが、天上のアマテラスオオミカミに国を献上する経緯を解説した物語です。
アマテラスオオミカミは、地上を平定するために、アメノホヒノカミを派遣しました。しかし、アメノホヒノカミはオオクニヌシ側に寝返ってしまい、一向に帰ってきません。
次に、アメワカヒコという男神を派遣したところ、オオクニヌシの娘と結婚し、やはり帰ってきませんでした。
最後に派遣されたのは、タケミカヅチノカミと呼ばれる武神です。タケミカヅチノカミは、オオクニヌシの子のコトシロヌシノカミとタケミナカタノカミを服従させ、ようやく使命を果たします。
オオクニヌシは国を譲る条件として、出雲(いずも)に宮殿を建てて、自分を祀って欲しいと願い出ました。このときに建てられた宮殿が、「出雲大社」の起源とされています。
日向神話
「日向(ひむか)」神話は、アマテラスオオミカミの孫・ニニギノミコトにまつわる物語です。
アマテラスオオミカミの命で、地上の主として降臨したニニギノミコトは、山の神オホヤマツミの娘・コノハナサクヤビメを見初(みそ)めてプロポーズします。
オホヤマツミは、「姉のイワナガヒメも一緒なら」との条件付きで、結婚を許可しました。しかし、イワナガヒメは醜かったので、すぐに実家に返されてしまいます。
ニニギノミコトの態度に、オホヤマツミは激怒します。実は、イワナガヒメは長寿の神であり、オホヤマツミはニニギノミコトの命が永遠に続くことを願って、あえて彼女を嫁がせたのでした。
その結果、長寿の神を捨てた罰として、ニニギノミコトの子孫である人類に「寿命」が設定されたのです。
古事記と海外の神話との関連
古事記には、海外の神話とよく似た物語が登場します。古事記と海外神話との間には、どのような関係があったのでしょうか。
海外の神話が伝わった可能性も?
古事記に限らず、世界に伝わる神話には、多くの共通点があります。
例えば、「因幡の白兎」や「イザナキ・イザナミの国生み話」は、東南アジアの神話に似ています。また、ギリシャ神話に登場する「オルフェウスの物語」は、黄泉の国でのイザナキ・イザナミの話とそっくりです。
日本には古来より、南方や西方の民族が移住してきたといわれており、さまざまな民族の血が交わって日本人の祖先が生まれたとされています。
従って、古事記に収録された神話も、元となる話が海外から伝わった可能性が高いといえるでしょう。
物語として楽しめる古事記
古事記は歴史書であると同時に、神々や皇室に関する物語を楽しめる、エンターテインメント作品でもあります。
見た目だけで妻を選ぶニニギノミコトや、親の命令を平気で無視するアメノホヒノカミなど、強烈な個性を持つキャラクターが続々と登場し、読者を魅了します。
完成から1300年以上経った現在でも、多くの人に親しまれていることに、一番驚いているのは編さんを企画した天武天皇自身かもしれません。
古事記をもっと知りたい人のための参考図書
講談社 21世紀版・少年少女古典文学館1「古事記」
学研まんが 日本の古典「まんがで読む古事記」
小学館 電子書籍 マンガ古典文学 里中満智子「古事記」上・下
中公文庫 マンガ日本の古典1 石ノ森章太郎「古事記」
日本文芸社 図解「眠れなくなるほど面白い 古事記」
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構成・文/HugKum編集部