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読書は親が「与える」ものではなく「喜びを共有する」もの
夏休みは読書のいい機会だから、「子どもを本好きにさせたい」と願うパパママが多いと思いますが……、先生はその願いはNGと考えていますか?
「子どもを本好きに」という願いは私も持っています。でも本好きに「させる」という発想は変えたほうがいいと思っています。
読書は好きになるべきもの、だから子どもを好きにさせる、という強制に、子どもは敏感です。「ためになるものを親が与える」のではなく、「本を読む喜びを子どもと共有する」という発想に変えましょう。それには、大人から見た良書とか、「こういうことを教えたい」本というものではなく、子ども自体が自分から好きになりそうな本を、子どもと一緒に探すといいのではないでしょうか。
図鑑でもノンフィクションでも詩集でも写真集でもいい
いわゆる「課題図書」「推薦図書」のようなものを与え、つまらなそうにしていると、「この子は本が嫌いなんだな」と思うケースは多いです。でも、別な本なら向いている、楽しそうに読むということは、往々にしてあります。図鑑でもいいんです。図鑑というと恐竜や虫などをテーマにしたものを男の子が読む、というイメージがあるかもしれませんが、女の子も自分が好きなものの図鑑を読みたいかもしれません。
物語はあまり好きではないけれど、ノンフィクションならいい、という子もいるし、詩集や写真集など、どんどん幅を広げていいんじゃないでしょうか。世の中には多彩なジャンルの本があるのですから、本の多様性に気づいてもらうことが大事ですよね。その中からハマるものがみつかればラッキーです。
――なるほど、でもどうやってハマる本に出会えばいいんでしょうか。
「本屋さんに行って好みの本を探す」をやってみるのももちろんいいですが、それでしっくりくる本がみつからなければ、本屋という入り口ではない入り口から入るのはどうでしょうか。夏休みに旅行した先のゆかりある人物の本、とか。出かけていった博物館のミュージアムショップで本を買うのもいいかもしれません。自分の体験したことだと、子どもの興味もわきやすいですよね。
10歳前後で読書のしかたが変わる! 本選びにも関係が
もうひとつ、知っておいたほうがいいのは、子どもの年齢によって読書への対応を変えたほうがいいということ。もちろん個人差もありますが、子どもは10歳を境に本の読み方が変わります。10歳以下だと登場人物に自己同一化して、没入して読みます。だから作者や背景知識などは重視せず、ひたすら「楽しい」と思える本を読むのがいいのです。しつけ目的とか知識の先取りはしないでください。
また、10歳くらいまでは「読んで!」と言ったら読み聞かせもしてあげればよいのです。「こんなに大きいのに親に読んでもらうなんて」などと言わず、子どもと一緒に本の世界に没入して、
「うわーすごいね!」
「このあとどうなっちゃうんだろう?」
などと子どもと話しながらページをめくっていくのもよいでしょう。
――それが10歳を過ぎると変わるのですか?
10歳以後は、本の内容をある程度客観視して読むようになります。作者やそのバックウラウンドに興味を持ち、「もし自分なら…」と自分に引き寄せて読むようになります。また、思春期の入り口であることとも関係するのかもしれませんが、親が「いいんじゃない?」と思う本より、たとえば年上の生徒や尊敬する学校の先生、話しかけやすい塾の講師など、家族とは違う年上の人がすすめてくれる本に興味を持ち始めます。
そうなったら、子どもに本を選ばせたほうがいいですね。たとえ恋愛物だったり、残虐なシーンのあるものだったりしても、過度なものでなければなるべく子どもの意思を尊重しましょう。
ニューヨークの子ども向けの図書館では「アンダー10」「オーバー10」というように本を区別して置いてあるところもあります。子どもの成長と読書の関係にもフォーカスしていただきたいですね。
本以外の刺激がたくさんある時代。途中で放り出すのもわかる
――子どもが関心を持った本を買っても、途中で放り出してしまうこともあります。あるいは、読んだとしても読み方が浅いのが気になったり……。
それは大人でも同じではないですか? 本を読もうと思って買ってきても、日常に忙殺されてつい「積ん読」になってしまいますよね。子どもたちだって習い事や友達との付き合いなど、昔より忙しくて本を読む時間が奪われています。「そういう時代なのだ」という前提で本と付き合うほうがいいですね。
それに、あえて言うなら、本は絶対に読まないといけないものではありません。「感動する」「深く考える」ことを目的に本を読むというのなら、音楽会やドラマでもいいし、友達や家族とディスカッションをするのも深く考えるきっかけになります。そして今はSNSの時代。スマホなどからもたくさんの文字情報、映像情報が流れ、本に向かい合わなくても感動を得られるチャンスは多くなりました。本は知識が得られ、想像力がわき、ものごとの理解がすすむ、など、利点はたくさんあります。けれど、そうしたことが実現できる媒体は本だけではなくなりました。
本を読むからいい人間になるのではなく、単純に楽しめる体験を
本を読むのは、「いい人間になるため」という観点は今もありますが、いい本を読まずにいい人間になる方法もあります。読書は自分の人生を豊かにするひとつの道。だからこそ、ガチガチに考えず、拾い読みする自由、やめる自由、また読み始める自由もあるわけです。あるいは、あえて自分が挫折してしまった本の悪口を親子で言い合う《ディスり合戦》などをやってもアリです。それくらいの遊び心があってもいいと思います。そういう入り口から、本に親しむというのもひとつのやり方です。
印南敦史さんという方の『読書する家族のつくりかた 親子で本好きになる25のゲームメソッド 』(星海社新書) という本があります。この本は、スマホが楽しくなって読書をしなくなった娘さんをきっかけに、読書が楽しくなる方法を堅苦しくなく書いています。
また、私も『子どもを本好きにする10の秘訣』(実務教育出版)で、子どもと本を楽しむ提案をしています。こうした本も参考にして、親子でもっと気軽に本と親しんでいただけるといいな、と思っています。
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お話を伺ったのは
慶応義塾大学文学部卒、同大学院社会学研究科修士課程修了。国語を専門とする学習塾で読書・作文指導、教材開発などに5年ほど携わった後、2012年 花まるグループに入社。公立一貫コース、総合的な学習の授業などを担当。本の奥深さを味わえる授業を展開している。著書に『子どもを本好きにする10 の秘訣』(実務教育出版)など多数。書籍や新聞・雑誌記事の執筆に加えて講演活動も積極的に行い、本を読む楽しみ、物語を味わう大切さを訴え続けている。全国から参加者を集める毎月の連続講座「旅する読書」は2023年に7年目を迎える人気イベント。