事件の概要
-- 旦那さん、何が不満なんですか?
【夫】
「妻が突然子どもを連れて出ていったんです。そのあと生活費を請求してきたんですが、項目の中に20歳をすぎて大学に行った子どもの養育費も含まれていたんです。払う必要ないですよね?」
【裁判所】
「たしかに妻の出ていき方も良くないですが…今回のケースは払いなさい」(大阪高裁 H30.6.21)
事件を分かりやすく解説します。
※ 争いを一部抜粋して簡略化
※ 判決の本質を損なわないよう一部フランクな会話に変換
家族構成
どんなバトルか?
2人は平成2年に結婚。5年後には長男が生まれ、9年後には次男が生まれます。
▼夫が単身赴任
平成19年に、夫が転職して単身赴任することになりました。
▼長男が高校を卒業
この長男がバトルの大元です。
平成26年3月、高校を卒業したのですが残念ながら志望大学に合格できず。浪人しましたが翌年も不合格でした。
▼次男が中学校に入学
平成27年4月、次男が中学校に入学します。学業成績が悪かったようです。
▼次男、塾に通う
平成28年5月から次男が塾に通うことになりました(月額2万8080円)。判決では「夫が次男の成績を憂慮して塾に通わせた」と認定されています。
▼単身赴任が終了
平成28年6月21日のことです。夫の単身赴任がついに終了することになりました。
おめでとうございます。これからは家族一緒に暮らしていけますね。夫は妻に「7月には自宅に帰る」と連絡しました。
▼妻が家を出る!
しかしその9日後!妻は、夫に連絡することなく、子ども2人を連れて家を出ました(何があったのでしょうか…。判決文には書かれていませんでした)
▼妻が生活費を要求
7月15日、妻が夫に「生活費として月額19万円を支払ってほしい」という書面を送りました。生活費のことを正確には婚姻費用と言います。
■ 婚姻費用とは?
夫婦が通常の社会生活を維持するのに必要な費用のことです。たとえば、衣食住の費用・交際費・医療費・子供の養育費・教育費などです。
夫は妻に生活費を渡さなければならないんです。
民法 第760条
夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。
今回の夫婦はまだ離婚していないので、養育費も婚姻費用の中に含められます。
▼妻が調停を申し立てる
夫は月額19万円という金額に納得しなかったのでしょう。話はまとまらず、妻は11月に婚姻費用分担の調停を申し立てました。
調停進行中の平成29年4月、長男は大学に入学し(おそらく22歳)、次男は別の塾に通うことになりました(月額1万7820円)。
▼調停がまとまらず…
6ヶ月間をかけて調停の中で話し合いが行われましたが、金額について折り合いがつかず。判決(審判)へ進みました。
裁判所のジャッジ
地裁のジャッジ
妻の19万円の請求は認められず。
地裁
「夫は月額14万円の婚姻費用の支払え」
〈理由〉
・長男はすでに成人している
・次男(中学生)の学習塾費用
・夫の明示の承諾がない
高裁のジャッジ
4万円アップとなりました。
高裁
「夫は月額18万円婚姻費用の支払え」
以下、理由を解説します。
■ 20歳をすぎている長男について
【夫】
「長男は20歳をすぎたので、支払わなければならないのは次男の養育費だけだと思います。あと、妻は私に無断で財産を持ち出していったんですよ。婚姻関係破綻の原因は妻にあります。そういうことも考慮されるべきです」
【裁判所】
「いや、長男の養育費も支払わねばなりません。なぜなら、長男は20歳になった後に大学に入学し、現在も在学中だからです。あなた(夫)は長男の大学支援を積極的に支援していたんですから、婚姻費用の金額を計算するにあたり、長男を未成年の子として取り扱います」
【夫】
「ちょっと待ってくださいよ。妻は突然、子ども2人を連れて家を出て行ったんですよ。私が単身赴任から帰ってくる直前に…。こんな妻が婚姻費用を請求してくるなんて、権利の濫用だと思います」
【裁判所】
「たしかに妻の行動にいささか不相当な行状もなくはないけれども、その行動のみをもって権利の濫用と認定することはできません」
■ 塾通いの次男について
高裁は「夫が次男を学習塾に通わせていた」と認定。双方の収入差に照らし夫が8割〜9割を負担すべきと判断しました。
婚姻費用の計算方法
基本的には算定表(養育費・婚姻費用)を用いて判断されます。今回もこの計算表に基づいて月額18万円とジャッジされました。計算の詳細は割愛しますが、夫婦の収入は以下のとおりでした。
【夫の収入】
H28 約836万円(ボーナス含む)
H29 約848万円(ボーナス含む)
【妻の収入】
H28 約134万円
H29 約158万円
養育費マメ知識
以下、マメ知識です。
■ 養育費をもらえるのは原則20歳まで
「未成熟子の養育に必要な費用」だからです。民法が改正され成人年齢が18歳となりましたが影響は受けません。
■ 20歳になる前に子どもが経済的に自立すれば養育費の支払いは不要
成熟したとみなされるからです。
■ 特別の事情があれば20歳を過ぎても養育費をもらえることあり
大学に行く場合、子が病気にかかっている場合…etc。ただ、大学に行けば必ずもらえる、というわけではありません。大学進学に同意していたか、両親の学歴(大学に行ったのか)、両親の経済状況などを総合考慮して決められます。今回の事件は、夫の収入が高く、夫が大学進学を支援していたことが大きなポイントになりました。
離婚の際は養育費について話合って
今回の事件は夫婦の判決までもつれこみましたが、できれば離婚する際に【いつまで養育費を払ってもらえるのか】合意しておくのがベストです。
今回は以上です。これからもママパパに向けて知恵をお届けします。「こんな解説してほしいな〜」があれば下の公式HPからポストして下さい。また次の記事でお会いしましょう!