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英語が話せなくても問題ない!3~6日間、思いっきり「スポーツ&アクティビティ」を楽しむ
「SCOAサマーキャンプ」は、現在、静岡県・伊豆と山梨県・清里の2か所の避暑地で行われている、小中学生対象の「夏休みのスポーツキャンプ」です。といっても、運動部の合宿ではないので、厳しい練習やトレーニングをするものではありません。
「子どもたちはサッカー、チアダンス、フラッグフットボール(アメリカンフットボールをもとに、子どもも安全に楽しめるようにアレンジしたもの)、フリスビーなどから好きな種目を選んで参加します。教えてくれるのはアメリカの大学生アスリート。彼らはもちろん英語を話しますが、子どもたちは英語を話せなくても、これらのスポーツの経験がなくてもまったく問題ありません。スポーツ自体が共通言語だからです。毎日違うスポーツにトライしてもOKです」とSCOAのベスト圭子さんは話します。
スポーツだけでなく、様々なアクティビティも子どもが夢中になるものばかり。旗取りゲーム、水風船投げ、トレジャーハント(宝探し)、タレントショー(特技の披露)、ミサンガづくり……。大人気の「ポテトサック競争」をはじめ、アメリカらしさを感じさせる豪快なものが多いのも特徴です。
子どもたちはこれらのスポーツを午前中1時間、午後1時間、アクティビティも合わせるとそれぞれ2時間ずつ、思いっきり体を動かして楽しみます。
いっしょに過ごすのはアメリカの一流大学生アスリートたち
ここで指導するのは「キャンプカウンセラー」と呼ばれる、アメリカからやってきた大学生アスリートたち。スポーツを教えるときも、アクティビティで遊ぶときも、フリータイムでのおしゃべりも、彼らは「ふだんの会話スピードの英語」で子どもたちと接します。
もちろん子どもたちは、最初は彼らの言っていることがわかりません。それでもキャンプカウンセラーは子どもが聞き取れるようにゆっくり言ったり、繰り返し言ったりはしないといいます。いわゆる「英語を聞ける、話せるようにするための指導」は一切しないのです。アメリカでキャンプをするのとまったく同じような関わり合いかたで、子どもたちと接します。同時に子どもたちには「日本語は禁止」とも言いません。子どもたちが萎縮して、なにも話さなくなることを防ぐためです。
キャンプに参加する子どもたちは70名前後。最初に4~6名のチームに分かれ、そこにキャンプカウンセラーが一人入り、いっしょにチームの旗を作ったり、チャント(短い応援歌)を考えたりしながら、子どもたちの緊張を解きほぐしていきます。アクティビティではチーム対抗でポイントを競うゲームが多く、子どもたちはキャンプカウンセラーを中心に「優勝めざしてがんばろう!」と団結していきます。
キャンプの目標は、子どもたちが「異文化に触れて楽しい」「もっと知りたい」と好奇心に火をつけてあげること
「ここでは子どもたちに英語の定型句のあいさつをさせたり‶私が言ったことを繰り返して言ってみましょう〟というような練習も一切しません。英語の読み書きは学校で習いますし、そもそもSCOAは‶英会話力の養成キャンプではない〟からです。実際、子どもが3~6日ほどネイティブといっしょに過ごしただけで、英語が話せるようにはなりません」と圭子さんはきっぱり。
キャンプカウンセラーは自分が得意とするスポーツを子どもたちに教えるので、自然と気合も入ります。子どもたちは彼らのカッコよさ、真剣さに惹かれ、本格的な指導に夢中になり、「もっと知りたい」「上手になりたい」と思うようになります。また、アクティビティやゲームで盛り上がり、フリータイムでおしゃべりしたりミサンガを作ったりするときも、つねに英語のシャワーを浴びています。
ネイティブの会話スピードは速いけど、子どもたちはいっしょにグループ単位で活動するので、何もしゃべらないわけにはいかないのです。いやがおうにも英語をダイレクトに体感し、キャンプカウンセラーの言っていることが「なんとなくわかる」と感じると、自分なりに反応するようになります。そうやってコミュニケーションがとれたとき、それは大きな自信に変わります。
「このように、子どもたちが‶英語が上手に話せなくてもコミュニケーションがとれるんだ。うれしい!〟とか‶アメリカの文化に触れるのはこんなに楽しいんだ〟と感じてくれることがキャンプの目的なのです」と圭子さんは力を込めます。
楽しいからこそ「英語を話したい」という気持ちが沸きあがってくる
キャンプ中、英語が話せないから「つまらない」「イヤだ」という子は、これまでに一人もいないといいます。気が付いたらほとんどの子がキャンプカウンセラーの指示に従って体が動いていたり、身振り手振りを交えて言いたいことを伝えていたりしています。バイリンガルの大学生サポーターに「〇〇って英語でなんて言えばいいの?」と聞き、それを何度も口に出して練習をしてから、キャンプカウンセラーに話かける子もいます。
「そんなとき‶英語が話せたらもっと楽しいだろうな〟と感じてくれたら大成功ですね」と圭子さん。実際、キャンプ後に英会話教室へ自分から行き始めたり、SCOAの週末キャンプに参加したりする子どもは少なくないといいます。子どもの内側から生まれた「英語を学びたい」という気持ちがそうさせるのでしょう。
キャンプカウンセラーは文武両道の優秀な学生ばかり
言葉の壁を越えて、日本の子どもたちの心をつかみプログラムに夢中にさせる。そんなキャンプカウンセラーの役割はとても重要です。
「なので選考にはかなり力を入れています。アメリカの大学生のなかでも強い精神力やリーダーシップをもち、子どもたちのよいロールモデルとなってくれるような学生にこだわっているからです。そのため学業とスポーツを両立させ、なおかつズバ抜けて優秀な‶NCAAディビジョン1〟のアスリート学生をメインに直接面接して採用しています。ほかにも高校時代まで運動部にいた学生など、優れたスポーツパーソンシップを持つ学生も採用しています」
NCAAというのは競技の枠を超えて活動する、アメリカの大学のスポーツ統括組織。プロのスポーツ組織に匹敵する大きな組織で、そこに所属する1000を超える大学のうち「ディビジョン1」はその最高ランク。例えば、UCLA、USC、ワシントン大学、イェール大学など、誰もが認める「エリートアスリート集団」で、アメリカでスポーツをしている子どもなら一度は夢見る憧れの存在です。
そんな優秀なキャンプカウンセラーが「インターシップ」という形で日本に来ます。
「応募する学生はみな子ども好きで‶自分の得意なスポーツを子どもたちに教えたい〟とか‶スポーツを通して異文化コミュニケーションをとりたい〟など、日本の子どもたちと一生の思い出になるような有意義な夏休みにしたいと意欲的な学生ばかりです。最近は日本のアニメの影響もあるのか、日本に行きたいという学生は増えてきていると感じます」
彼らの往復の旅費や日本滞在中の宿泊費、食費、交通費などはSCOAが負担しますが、キャンプカウンセラーの活動自体は報酬のないボランティアです。にもかかわらず、毎年2~3倍の応募倍率になるとか。書類選考と数回の厳しい面接をクリアして選ばれた12名前後の学生が、この夏も海を越えてやってきます。
「毎年感じることですが、キャンプカウンセラーはみんな文武両道だけでなく、人としても魅力あふれています。さらに彼らの大学卒業後の進路もさまざまで、スポーツ分野でプロレベルの活躍する人もいますし、学校の先生や弁護士になる人が意外に多いですね」と圭子さんは話してくれました。
そんなキャンプカウンセラーに圧倒的な魅力を感じ、いっしょに体を動かす楽しさを実感する子どもたち。今年も「アメリカのお兄さんやお姉さんともっと仲良くなって、来年もいっしょにスポーツやアクティビティを楽しみたい。だから英語を話せるようにするんだ」と強く決意する子が続出しそうです。
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お話を伺ったのは・・・
日本生まれの日本育ち。UCLAの大学院で応用言語学(第二言語習得)を専門に学び、その後国際結婚。在米中に、「日本人とアメリカ人の架け橋となって、互いの文化を共有し価値観を広げたい」という思いから、夫と2人で2006年にSCOA(SPORTS CAMP OF AMERICA)をスタート。夏休みのサマーキャンプだけでなく、2学期以降の週末キャンプ、幼稚園や学校、企業向けのカスタムキャンプ、リーダーシップ研修等を開催している。並行してビジネスフィールドで日英通訳者としても活躍。
SCOA公式HPは>>こちらから
取材・文/船木麻里