「お見知り遠足」「努力遠足」ってどんな遠足?おもしろい「学校方言」の世界【知って得する日本語ウンチク塾】

国語辞典編集者歴37年。日本語のエキスパートが教える知ってるようで知らなかった言葉のウンチクをお伝えします。

 

限られた地域の学校社会で通用する語を「学校方言」と呼ぶ

学校生活と関係の深い語のうち、限られた地域の学校社会で通用する語を方言研究者は「学校方言」と呼んでいます。

 たとえば、私は千葉県の出身ですが、通っていた県内の小中学校では、授業と授業の間の休み時間のことを「業間」と言っていました。少し長い「業間」もあり、そのとき体操をしたのですが、それは「業間体操」と呼ばれていました。「業間」は千葉県だけでなく。南東北や栃木県でも使われているようですが、間違いなく学校方言です。

学校方言の中には、かなり広い範囲で使われるものと、狭い地域の学校社会でしか使われないものとがあります。

学区、校区、校下。いずれも通学区域のこと

たとえば通学区域のことを、主に東日本では「学区(がっく)」、西日本では「校区(こうく)」、北海道の一部や北陸などでは「校下(こうか)」と言っています。これらは、広い範囲で使われる学校方言です。

学校方言は、学校の施設や教材、学校行事など実にさまざまです。昨年、新潟市内の小学校に行ったとき、先生たちがいる「職員室」に「教務室」という札がかかっていて面白いと思ったことがあります。もちろんすぐに写真に撮りました。新潟県内の多くの学校では、「職員室」のことを「教務室」と呼んでいるのだそうです。

熊本の「お見知り遠足」と大分県の「努力遠足」

 

これも最近のことですが、熊本県では「お見知り遠足」と呼ばれる遠足があることを知りました。新入生などが親しくなるために行く遠足をいうようです。どうやら熊本だけでなく、大分県、福岡県などの学校、幼稚園、保育園でも使われているらしいのです。

「見知り」は「どうかお見知りおきください」などと言うときの「見知る」と同じでしょう。初対面の者同士が顔見知りになるという意味です。『日本方言大辞典』(小学館)によりますと、熊本県や鹿児島県などの方言で、よそから来たものが新しく仲間になることを「見知り」と言っていたようで、「お見知り遠足」はそれから生まれた語なのかもしれません。

「遠足」の学校方言には、ほかにも面白い呼び名があります。主に大分県で言うらしいのですが、「努力遠足」です。バスなどの乗り物を使わずに、歩いて目的地に行く遠足のことのようです。「徒歩遠足」ではなく「努力」としたのは、遠足はただの物見遊山ではないという何か教育的なものを感じさせます。

学校方言は他にも面白いものがたくさんあります。みなさんも「学校方言」だったと気づかずに使っていた語があるかもしれません。異なる地方の人たちと、小中学校のときに学校で使っていた語を出し合ってみると、意外な発見があると思いますし、けっこう盛り上がると思いますよ。

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記事監修

神永 暁|辞書編集者、エッセイスト

辞書編集者、エッセイスト。元小学館辞書編集部編集長。長年、辞典編集に携わり、辞書に関する著作、「日本語」「言葉の使い方」などの講演も多い。文化審議会国語分科会委員。著書に『悩ましい国語辞典』(時事通信社/角川ソフィア文庫)『さらに悩ましい国語辞典』(時事通信社)、『微妙におかしな日本語』『辞書編集、三十七年』(いずれも草思社)、『一生ものの語彙力』(ナツメ社)、『辞典編集者が選ぶ 美しい日本語101』(時事通信社)。監修に『こどもたちと楽しむ 知れば知るほどお相撲ことば』(ベースボール・マガジン社)。NHKの人気番組『チコちゃんに叱られる』にも、日本語のエキスパートとして登場。新刊の『やっぱり悩ましい国語辞典』(時事通信社)が好評発売中。

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