M-1グランプリ常連で「ピンポンパンゲーム」、「国名分けっこゲーム」など、独創性のあるゲームネタで、小学生に大人気のジャルジャル。この度、『小学一年生』9月号ミニ絵本(8月1日発売)に絵本を書き下ろしたということで福徳秀介さんに絵本に込めた思いを、二児のパパである相方・後藤淳平さんには子育て論などを伺いました。
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『なかよしっぱな』ってどんな絵本?
絵本のあらすじは、「みぎっぱな」「ひだりっぱな」とお互いを呼び合う鼻の穴たちが、相手を羨んだりケンカしたりする、ユーモアたっぷりの物語です。
―『なかよしっぱな』のお話は、どんなところに意識して作られましたか?
福徳:「読むよりも、聴いているほうが面白い」ことに意識しました。「みぎっぱな」「ひだりっぱな」の「ぱな」、特に「ぱ」の音が面白ポイント。「ぱ」が定期的にトントントンと出てきて、親御さんが読むのを子どもが聴いてゲラゲラ笑う、というのをイメージしながら作っています。
実は、このお話の根底には“恋愛”があるんです。鼻の穴が、持ち主の少年に恋してるっていう(笑)。だから、「自分よりもみぎっぱなのほうがカッコいい」と羨んだり、自分のほうが…とプライドを持っていたりするんです。
―絵本をつくろうと思われた、きっかけは?
福徳:従姉(きたむらえり/絵を担当)がめちゃくちゃ絵が上手なんですが、そういう仕事をしていなかったので、「内容は俺が考えるから一緒につくろうぜ!」と誘ったのがきっかけです。
1作目は『まくらのまーくん』を作りました。絵本のコンクールに送ったら、なんと賞(第14回タリーズピクチャーブックアワード絵本大賞)をいただけたので、「もう一回作ろうぜ!」と声を掛けて、この『なかよしっぱな』が実現しました。
★第14回タリーズピクチャーブックアワード絵本部門★
『まくらのまーくん』
文:ふくとくしゅうすけ
絵:きたむらえり
が絵本大賞授賞!絵は従兄弟の方♪5月1日よりタリーズ店舗のみ販売予定!!https://t.co/I2RuyuHoyw
〜親友は高校からの同級生後藤〜 pic.twitter.com/8qa3R62gna
— ジャルジャル (@jarujaru12th) April 24, 2017
「ものは何でも一個一個生きている」と絵本で伝えたい
―前作の『まくらのまーくん』では、枕と女の子がお話しします。今作も顔のいろいろなパーツがしゃべり出しますね。そういった物語を通じて、子どもたちに伝えたいメッセージとは?
福徳:「ものは何でも一個一個生きてるんだぞ」ということです。全部に‟顔”がある感じが伝わってほしいなぁと思います。
―その発想はどこから湧いてきたんでしょうか?
福徳:僕が小さい頃、父親がよく「もの」としゃべっていたんですよ。変なことをよくする面白い父で、その影響かな。
―確かに、身の回りのものがみんな命を持っていると考えたら、子どもの寂しさや恐怖は薄れますよね。
福徳:そうそう。僕は末っ子なんですけど、小さい頃にふと「家族の中で僕がいちばん最後に死ぬな」と思ったんです。そうしたら、猛烈に寂しくなって父親にそう言ったら「まぁまぁそうやな。でも、周りにはいろんなものがあるし」と。それは今も妙に心に残っているワードです。父親はもう亡くなっているので、答え合わせはできないのが残念なんですけどね。
二児のパパである相方・後藤さんが『なかよしっぱな』を読んで
―後藤さんは小学1年生と年中さんの2人の男の子のパパですが、『なかよしっぱな』を読まれていかがでしたか?
後藤:子どもも声に出して、読みたくなるんやろうな、と思いました。まだ僕一人だけでしか読んでないんですけど、いろんな読み方で子どもを笑わせられそうやな、と思っています。
―普段から絵本の読み聞かせをされているんですか?
後藤:はい。寝る時はたいがい「読んで」と言ってくるんですよね。読み方は、めちゃくちゃ感情を込めて読む日もあれば、逆にあえて棒読みする日など、いろいろ…。半分眠りながら、適当に話を作ることもあります(笑)。
幼少期は、孤立気味の帰国子女と内気な漫画少年
―お二人は子ども時代、どんなお子さんでしたか?
福徳:僕は5歳までアメリカに住んでいて、その当時は英語で生活してました。小学1年生の時点では日本語がつたない、英語交じりの変なしゃべり方でした。でも、同級生に帰国子女がもう1人いて、意気投合! 僕ら2人はクラスではちょっと孤立していましたかもしれませんけどね~。
―「学校に行きたくないな……」とはなりませんでしたか?
福徳:その子がいなかったら、そう思ったかもしれないですけど、基本的にはなかったです。1回だけ、嫌がらせでランドセルに石で傷を付けられたことがありました。その時は、当時5年生だった姉ちゃんが教室にどなり込みに来てくれて、それ以降はなくなりました。今でも覚えてますけど、あれは頼もしかった!
後藤:僕は早生まれで、体が小さくてちょっとぽっちゃり。坊ちゃん刈りの、内気で目立たない少年でした。でも同じ団地に幼馴染がいたので、楽しかったですけどね。
―高校で出会われてお笑いコンビを志したそうですが、子ども時代はどんな夢をお持ちでしたか?
福徳:夢は「サッカー選手」とずっと書いていました。小学生なりに「たぶんこう書いたら家族が喜ぶやろ」と(笑)。でも本当は、定まったものが当時は明確になかったんですよね。
後藤:僕はずっと「漫画家」と書いていました。というのも、仲が良かった幼馴染と1コマずつ交互で漫画を描いて遊ぶのが好きだったんです。
「考えるな、感じろ」という父親の教育
―人を笑わせたい、という気持ちは小さい頃からありましたか?
福徳:それはありました。僕は4人兄弟の末っ子なんですけど、「食卓は僕がふざけて、笑わさなあかんな」という謎のプレッシャーがありました(笑)。
―お二人の笑いに対する感性は、どのように育まれたのでしょうか?
後藤:小さい時、父親がオリジナルの作り話をしてくれていたんですよ。それが、もうめちゃくちゃ面白くて、聞き入ってしまった。テンションが上がるというか、「オリジナルで作ってしゃべってるんや!」という衝撃ですね。
―人を笑わせようと考える時と、絵本を創作する時の思考回路は同じですか?
福徳:全然違いますね。お笑いの時は後藤と2人でセッションして作る感じなので、大袈裟に言うと、考えずに作っている感じです。絵本の時は一人で「うーん」と考えてから走り出す。頭では極力考えず、一人セッションみたいな感じですね。
―もう一人の自分と対話するような感覚ですか?
福徳:あっ、それはないです。父親に昔から、ブルース・リーの「Don’t think! Feel.」だけを言われ続けて来ましたから。何においても「考えるな、感じろ」という謎の教育方法! 今思えば、ちょっと変わった父親やったかもしれないんですけど(笑)。本当に、感じるままに作っています。
子育ては「兄弟の片方にだけ肩入れしないように」
―後藤さんは今、二児のパパですが、お子さんとはどう接していらっしゃいますか?
後藤:テーマのようなものは設けてないですね。僕も正直どうしたらいいか分からないので、その時々で。自分の父親と同じように、オリジナルの話を子どもにすることはあります。あとは、意味が分からない怒られ方をしたらイヤやと思うので、それはしないように心掛けています。僕は長男なので、長男の気持ちはよく分かるんですよ。だから、二人が揉めていると、「あぁイヤよな、その弟の感じ」とか、僕には分かるんですけど、あまり長男ばかりに肩入れしないように気を付けてはいます。
―「子どもって面白いな」って思うのはどういう時ですか?
後藤:日々めちゃくちゃおもろいですね。子どもたちが2人で涙を流しながら、腹の底からガハハハハーッと笑い合っているのを見ると、何が理由で笑っているのか分からなくても、つられて笑ってしまいます。「よだれ垂らして泣きながら笑ってるけど、何があったんやろ?」って。
―そういうお子さんの姿を見て、お笑いにおいて何か学ぶ部分はありますか?
後藤:学ぶというのとは違うかもしれませんが、見せてすぐ真似するようなネタは「あ、これって子どもに対してキャッチーなんや」と分かるようになりました。僕らはYouTubeにネタを毎日アップしているので(ジャルジャル公式チャンネル JARUJARU TOWER)、子どもも観たがるんです。で、「もう一回観たい!」というネタがあって。
―例えばどんなネタでしょう?
後藤:何回も「もう一回観たい!」と言ったのは、銀行強盗のネタです。大人が観て笑うポイントでは全然ないんですけど、「手挙げろ!」の場面を何回も観たがっていました。
―「うちの子どもにはこのネタが評判だった」といったフィードバックを、福徳さんは後藤さんから受けられるのですか?
福徳:それはもう、ゼロですね(笑)。
後藤:子どもばかりの前でやる時は、もしかしたらそういうデータも大事になってくるかも(笑)。
福徳:でも一回、幼稚園の卒園式でやったことあったよな?
後藤:卒園式の後のお別れ会みたいな場で、「後藤さんのところのお父さん、芸人さんですよね? 何かやってもらえませんか?」という話があって。僕一人では無理なので、福徳にお願いして二人でネタをしたことがあったんです。大人相手は劇場とかでやり慣れていますけど、子ども相手は初めてだったのでめっちゃ緊張したし、「どうしたらええんやろ?」と。
福徳:あ、でも、園児たちはめっちゃ笑ってくれたんですよ。でも、後藤の息子2人だけはあまり笑ってなかったんです(笑)。
後藤:そう、一番後ろで、けっこう険しい顔で観てて(笑)。終わってから家で会っても、なぜかその話題が上がらなかった……あれはすごく不思議でした(笑)。
福徳:(笑)。
ジャルジャル
同じ高校のラグビー部だった後藤・福徳が、2003年にお笑いコンビを結成。独特の世界観で人気を得て、数々のレギュラー番組を持つ。M-1グランプリは13回出場、キングオブコントは11回出場と常連。現在、動画8000本YouTubeを更新中。
取材・文/大前多恵 撮影/黒石あみ