不登校児が増え続ける要因は? 夏休みにやっておくべきことはある? 家庭での学習の進め方は?【花まる学習会代表・高濱正伸先生に聞く不登校の“今”】

不登校の子どもは年々増え続けています。背景にはいったいどんな要因があるのでしょうか。また親はどのように子どもと向き合えばよいのでしょうか。多くの不登校の子どもたちをサポートしてきた花まる学習会代表・高濱正伸先生に伺います。

不登校の子どもが増え続けている背景には、大きな2つの問題がある

ーー不登校の児童生徒が増え続けている要因について、高濱先生はどのようにお考えですか?

高濱先生:大きく分けて「学校制度の老朽化」と「子どもの傷つきやすさ」という2つの要因が複雑に絡み合っていると考えています。

まず、学校制度が時代の変化に追いついていないという問題です。日本の学校は明治維新以降、「全員が同じことを同じペースで学ぶ」という仕組みのまま、大きく変わっていません。しかし、現代ではこの画一的なシステムに無理が生じています。

学習についていけない子には目をかけてくれる傾向にありますが、学習進度が速い、いわゆる「吹きこぼれ」の子どもたちは、その才能を褒められるどころか、注意されてしまうことが多いんです。

例えば、3年生が6年生で習う漢字を書くと、「まだ教えていないのだから、その漢字は使ってはいけません」と言われてしまいます。そのようなことが積み重なり、IQの高い子が学校に行けなくなってしまうというケースもあります。

もちろん日本の学校教育の素晴らしさはあります。海外から見たら信じられないくらいモラルがあり、皆が親切なのは横並びの教育の成果でしょう。しかし、その一方で世の中を変えるような突出した才能がなかなか発揮されないという現実はあるのだと感じます。

優れた才能があっても、それを発揮できず不登校になるケースも

もう一つは、子どもたちのストレス耐性が低くなっていることです。

現代の子育ては、子どもをなるべく叱らず、何でも受け入れる傾向が強いように感じます。子どもたちは「喧嘩をしたらダメだよ」「誰とでも仲良くしよう」と教えられることも多いです。

しかし、心の免疫力のようなものは、幼い頃から小さな失敗や孤独といった経験を乗り越えることで育まれていきます。友達と喧嘩しても、経験を通して仲直りできることがわかったり、「仲間っていいな」と思えたりするわけです。

ですが、そうした経験が不足することで、ささいなことで心が折れてしまったり、感情のコントロールができなかったりする子が増えているように感じます。

学校と子ども、どちらが原因というわけではなく、両方の構造的な問題が一気に噴出し、不登校の爆発的な増加につながっているのだと思います。

不登校の子どもに必要なのは「居場所作り」と「基礎学力の維持」

ーー確かに、昔に比べると子どもを叱りにくい風潮があるように感じます。

高濱先生:僕はいつも、幼児期には「愛情としつけ」が大事だと言っています。人間が生きる上で無条件の愛情が必要なことはいうまでもありませんが、世の中には我慢しなければならないことや、相手に譲らなければいけないこともあります。そうした環境の中で折り合いをつけて生きていくためには、子どもの頃に親が毅然とした態度でダメなことはダメとしつけていかなくてはいけないのです。

ーー子どもが「学校に行きたくない」と言ったら、親はどう対応するのがよいのでしょうか?

高濱先生:いちばん大切なのは、その子の状態を個別によく観察し、見立てることです。「そんなこと言わずに、学校に行きなさい!」と言っても大丈夫な子もいれば、しばらく休ませた方がいい場合もあります。ですから、「行きたくないなら休んでいいよ」と受け入れるだけではなく、まずは、なぜ行きたくないのか、その背景に何があるのかをじっくりと探る必要があるでしょう。

カウンセラーさんやお医者さんに相談される方も多いと思いますが、それだけではなく学校の先生に普段の様子を聞いたり、教育の視点からのアドバイスも聞いたりして判断していくのがよいと思います。その上で、学校に行かない選択をする場合に、気をつけるべきポイントが2つあります。

時には毅然とした態度で子どもに接することも大切

家に閉じこもらせず、外にも居場所を作る

高濱先生:不登校の子どもたちをたくさん見てきましたが、ずっと家だけにいる状態が続く、というのはいちばん避けたいことです。

子どもは社会とのつながりを失うほど、不安や恐怖が大きくなっていきます。水泳でも習字でも塾でも、本人が「ここなら行ける」と思える場所を一つでも作ってあげることが、その後の回復に大きく影響します。

ある不登校の子どもは、近所に住む従兄弟のお兄ちゃんの家が居場所になって、一緒にゲームをする中で社会とのつながりを取り戻していきました。不登校でもラグビーだけは続けていたという子もいましたね。家以外に安らげる居場所があるというのはすごく大切なんです。

基礎学力を維持しておく

高濱先生:子どもが元気を取り戻し、「やっぱり学校に戻りたい」と思ったとき、勉強の遅れが大きな壁になることが非常に多いです。難しい応用問題はやらなくても構いません。漢字と計算だけでも押さえておけば、本人が学校に戻りたいと思ったタイミングでスムーズに復帰しやすくなります。家庭教師などを利用するのもよいと思いますよ。

夏休みは外出のチャンス! 家族で自然体験をするのがおすすめ

ーー夏休みに入りました。不登校の子どもと過ごす上で、何か気をつけることはありますか?

高濱先生:普段は人目を気にして外出しづらい子も、夏休みは堂々と外に出るチャンスです。ぜひ空気を変えて、新しい喜びを知る体験をさせてあげてほしいです。

とくにおすすめなのが自然体験です。ぜひ家族で川や森に行ってみてください。

自然の中では、子どもたちは自ら遊びを見つけ始めます。木の枝で秘密基地を作ったり、石を集めてダムを作ったり…。そうした活動に夢中になる中で、子どもたちは驚くほど生き生きとした表情を取り戻していきます。

川に行くなら、ぜひ釣りもやってみてください。魚を1匹釣るのにも段取りや技術、想像力が必要ですし、釣れたときには生命の躍動を感じられます。きっと忘れられない体験ができると思いますよ。

夏休みだからこそ、家族で自然体験を

また、夏休みの間に空手でもピアノでも、何か新しい習い事を体験させてあげるのもよいです。習い事の先生は、子どもを楽しませるプロです。様々な体験を通して、本人が夢中になれる居場所が見つかるかもしれません。ぜひ親御さんには、子どもの小さな体験をたくさん後押ししてあげてほしいです。

今後、学びの形はさらに変化していく?

ーーこれからの「学びの形」はどのように変化していくと思われますか?

高濱先生:今後、学びの形はさらに多様化していくでしょう。その中で、最初に述べたような「吹きこぼれ」にあたる子どもたちや、発達に特性のある子どもたちの得意なことを伸ばす、多様な個性が輝ける新しい学びの環境が全国にできることが理想だと考えています。

様々な学びの場があるものの、地域によっては選択肢が少ないという問題も

皆に偏りがあることで、お互いを認め合うことができますし、とがった才能を持つ子も現れると思います。一部のお金持ちや東京に住んでいる人以外でも入れるよう、ぜひ公立でそういったクラスが作れるようになってほしいですね。

ーー花まる学習会でもフリースクールを運営されていらっしゃいますが、どのような特徴があるのでしょうか?

高濱先生:「放課後等デイサービスFlos」と「花まるエレメンタリースクール」の2つがあります。

放課後等デイサービスFlos

高濱先生:「どんな子も受け入れる」という意志を持って運営してきたのがFlosです。専門家の力も借りながら、まずは子どもの心を解きほぐし、学校に復帰することをめざす場所というような位置づけです。これまで多くの子どもたちを学校復帰に導いてきた実績があります。

花まるエレメンタリースクール

“混ざり合い・話し合い”で子どもを育てることを理念とする「花まるエレメンタリースクール」

高濱先生:2022年に東京・吉祥寺に開校した花まるエレメンタリースクールは、僕の中では「未来の学校」の一つだと思っています。根底にあるのは、先生から子どもへの深い愛情と、守るべきことは守るという厳しさです。基礎学力と基礎体力の部分も大切にしながら、自ら考え自ら行動に移せるような子どもたちを育てるのが目標です。

花まるエレメンタリースクールの公式インスタグラムは>>こちら

親が安心できるつながり作りも大切に

ーー最後に、今、お子さんの不登校で悩んでいる親御さんへメッセージをお願いします。

高濱先生:不登校に限らず言えることですが、わが子だけみんなと違うと感じるとき、親ってすごく不安になりますよね。両親や友達にも相談できないということもあると思います。

親の安心が子どもにも伝わる

ですから、専門家でも、同じ悩みを持つ先輩ママ・パパでもよいので心から安心して話せる「つながり」を見つけてください。そうやってまず親御さんが安心することは、子どもたちにとっても影響があるんです。嫌なことがあっても、親がニコニコしていると、大丈夫かなと思える。親が楽しそうに仕事をしていると、「仕事っていいな」と思える。親の力は偉大ですよ。

そして今は、フリースクールやオンラインでの学びなど、たくさんの選択肢があり、成功事例もたくさん出ています。そのような情報を集め、「これだったらできそうかな?」というものを見つけてみてください。

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今回、高濱先生のお話を伺って、子どもの不登校に対して親ができることというのもたくさんあるのだということがわかりました。また、「愛情としつけが大切」という高濱先生のメッセージにはハッとさせられるものがありました。子どもとの関わり方に悩まれている方もぜひ参考にしてみてください。

お話を伺ったのは…

高濱正伸先生 花まる学習会代表

1959年熊本県生まれ。県立熊本高校卒業後、東京大学に入学。1990年同大学院修士課程修了後、1993年に「作文」「読書」「思考力」「野外体験」を重視した、小学校低学年向けの学習塾「花まる学習会」を設立。『小3までに育てたい算数脳』(エッセンシャル出版社)、『あんしんえほん はじめての「よのなかルールブック」』(日本図書センター)、『わが子を「メシが食える大人」に育てる』(廣済堂出版)など著書多数。

取材・文/平丸真梨子

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