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「怖い」絵本を読書アドバイザーの児玉ひろ美さんがセレクト
夏を先取りして、暑さも吹き飛ぶ(!?)怖い絵本のおすすめ6冊を、読書アドバイザーの児玉ひろ美さんに選んでいただきました。パパやママの記憶の隅にある懐かしい1冊や、気になりながらも読まないままの1冊も登場するかも?怖い絵本を子供に読み聞かせてあげるときのポイントとともにご紹介します。
怖い思いは嫌いなくせに、子供は何度も「読んで」と言います
勤務している図書館で児童担当をしていたとき、子どもたちに、「なにか読んでほしい本(絵本)ある?」と問いかけると、大きい子も、小さい子も必ず、「怖い本!」と言いました。ときには「怖い」の意味さえ知らないような乳幼児さんまで「コワイィノ!」。そんなおもしろさを綴ったものですが、今読み返してもなかなか的を射ていると、自画自賛です。
本当に、子どもたちは怖いお話が大好きで、誰かが「この本、コワイよ」といえば、みなが競うようにその絵本を手にします。
せなけいこさんのおばけ絵本は子供たちに大人気!
そんな子どもたちに大人気な作家といえば、『ねないこ だれだ』(福音館書店/1969年)で、みなさんもよくご存じのせなけいこさん。せなさんの作品は、民話や伝説、落語をモチーフに、怖さとユーモアが程よいバランスで描かれています。
「ホントだ。怖いね」
「ぜ〜んぜん!」
「うん、怖いけど怖くないよ」
子供たちと私がした、上の会話のときに子どもたちが手にしていたのは『ばけものづかい』。「怖いけど怖くない」とは、本当に言い得て妙な評価だと思います。そんな幼い子どもたちの心に寄り添い、せなさんは、今なお現役で作品を作り続けていらっしゃいます。
2008年には1986年刊の『ドラキュラ―だぞ』に続く『ドラキュラーってこわいの?』を出版。親子2代にわたって「怖いけど怖くない本」が読み継がれています。
『ばけものづかい』
せな けいこ/作 童心社 1000円+税
ママパパの口コミ
『ドラキュラーってこわいの?』
せな けいこ/作 小峰書店 1100円+税
『おばけなんてないさ』
せなけいこ/作 ポプラ社 880円 +税
ママパパの口コミ
なぜ、子供は怖い絵本の読み聞かせをしてほしがるの?
学生がレポートの中で怖い絵本についての思い出を、こんなふうに綴っていました。
「母によると、私は怖い絵本を好んで読んでほしがったくせに、そのたび怖がって泣き、本を放り出していたそうです。でも、なぜか図書館や本屋さんで同じ絵本を見つけると、うれしそうに『読んで〜』。怖がるくせに、怖い絵本を読んでもらうことは大好きだったようです」
「(怖い絵本を)何回も自分からねだって母に読ませたくせに、夜は『さっきの絵本が怖い』と母の布団に潜り込んでいました。最近、母とその話をしたところ『あなたは3人姉妹のおねえちゃん(長女)でしっかり者だったから、そんなふうにしてしか甘えることができなかったのねぇ』といわれ、自分の気づかなかった気持ちにビックリしました」
温かい声と、安心して逃げ込める場所があるから
「怖い絵本」は読んでくれる温かい声と、安心して逃げ込める場所が保障されているからこそ、幼い子たちは大好きで、何回でもくり返し読んでほしいと思うのですね。
一方、少し大きくなった子どもたちは、怖いお話を積極的に楽しむようになります。それまでの、「怖い!」と叫んでしがみつける存在のほか、怖さに対して、子どもなりに納得のいく因果関係や、教えや知恵、適切なタイミングの救いの手など、物語のなかに怖さの解決方法を見いだします。
成長すれば、子供なりに「怖い」に結論をみつける
35年以上前から子どもたちにくり返し読まれ続けている『さんまいのおふだ』では、便所の神様が小僧さんに3枚のお札を授け、最後には和尚さんが機転を利かしておばばを退治します。物語(=世の中)にも自分を怖さから救ってくれるものがいる!
この発見はどんなにか子どもたちを励ますことでしょう。こうして子どもたちは何回も怖さを乗り越えてゆくのでしょうか。
怖い絵本の名作『さんまいのおふだ』と『三まいのおふだ』の違い
『さんまいのおふだ』
水沢謙一/再話 梶山俊夫/画 福音館書店 800円+税
「何回読んでも怖いけど、おばばが食べられると、やった!って、思うから好き」
と、いいながら本を返しに来たN君。「怖いけど怖くないの」の名評価を、本人は覚えていないのでしょうね。
この『さんまいのおふだ』は長い間読み継がれていますが、絵の繊細さゆえに、集団での読み聞かせ向きとはいえませんでした。そんな折、出版されたのが、かないだえつこさんの美しい版画による『三まいのおふだ』です。
5歳児さんに読み聞かせたところ、山姥が小僧さんを追いかけるシーンの息をのむ怖さより、便所の扉のユーモラスさのほうが印象深かったようで、絶大な支持を得ました。
『日本昔ばなし 三まいのおふだ』
おざわとしお/再話 かないだえつこ/絵 くもん出版 1600 円+税
「子どもは怖い思いを楽しみたいのであって、怖い思いをしたいわけではないのよ」
と、うたうように教えてくださったのは、長年幼児教育に携わっていらした藤田浩子さん。
この数年の過剰に怖い絵本のブームについて雑談をしている際にサラリとおっしゃいました。なんだかモヤモヤしていた思いが一気に晴れたような、目の覚める思いです。次にご紹介したせなさんの作品や、次に紹介する『がたごと がたごと』のように、日常生活のすぐ横に、いつの間にかある、不思議の世界を子どもたちが楽しむのも、そんなゆえんなのでしょう。
『がたごと がたごと』
内田麟太郎/文 西村繁男/絵 童心社 1300円+税
近ごろは「怖さ」を感じられない子供たちの姿も?
「何を読む?」に「怖い本」と子どもたちが答えるのは、安心して飛び込める安全地帯や協力者がある証拠と喜ぶ半面、近ごろ読み聞かせをしていて気になることのひとつに、闇の怖さや先の見えない不安を感じていないように見える子どもがいることがあります。
怖さや恐れを感じてほしい場面でもキョトンとしていたり、それらを克服した場面でも喜びを感じられないような表情が気になります。闇への怖さは自然に対する畏敬の念。それを感じられないことに何か不安を覚えるのは私だけでしょうか?
大人でもあまりにも怖い!妖怪の絵本
とはいえ、現在はどこもかしこも明るくて…「私も闇の怖さはわからない」という大人のために『夜の神社の森のなか』をご紹介しましょう。黒(=闇)の深さが美しくも怖い絵本です。あまりにも怖すぎて、園児さんにはおすすめできません。念のため。
『夜の神社の森のなか ようかいろく(妖怪録)』
大野隆介/作 ロクリン社 1500円+税
ママパパの口コミ
記事監修
JPIC読書アドバイザー 台東区立中央図書館非常勤司書。日本全国を飛び回って、絵本や読み聞かせのすばらしさと上手な読み聞かせのアドバイスを、保育者はじめ親子に広めている。鎌倉女子大学短期大学部非常勤講師など、幅広く活躍。近著に『0~5歳 子どもを育てる「読み聞かせ」実践ガイド』(小学館)。
出典/『新 幼児と保育』 再構成/HugKum編集部
この記事は保育者向けに著者が執筆した記事を、保護者向けに再構成したものです。