松丸亮吾さんによる対談連載、第2回のゲストは探究学舎の宝槻泰伸塾長。前編では「世の中はハッキング可能」と、勉強の入り口はひとつではないことを語っていただきました。中編では現在の日本の教育と未来の教育のあるべき形について、激論を交わしていただきます。
前編はこちら
目次
結果主義ではなく、ワクワクする学びのプロセスを(宝槻)
―お二人の現在の取り組みについて、教えてください。
松丸 宝槻さんは「子どもの好奇心に火をつける」というテーマで、探究学舎を運営されていますよね。僕は「考えることが楽しくなれば人生は無敵になる」というキーワードで、ナゾトキを広めています。どちらも、子どもが自発的に取り組むようになることは共通してますよね。
宝槻 そうですね。子どもの勉強に関して言うと、日本は「結果主義」の社会なんですよ。親も子どもも「結果が出る方法」という感じで、受験のための勉強を迫られている。でも、探究学舎の場合は、結果にはあまりコミットしていないと思っているんですよ。探究学舎に通って、本当に思考力が上がるんですか?好奇心に火がつくんですか?と聞かれても、わからない(笑)。だけど、僕らが提供しているプロセスは本当におもしろいという自信がある。だから、うちの教室に来たときに、結果を保証はできないけれど、この授業は楽しかったという体験は与えられます、というスタンスなんです。
松丸 わかります。ナゾトキも同じで、たくさんやったら、すぐに学校の成績が伸びるかといえば、無理なんですよね。でも、そもそも僕はそこを目指していなくて。ナゾトキを通して、頭を使って考えることは楽しい、アイデアを閃くことは難しいことじゃないということを伝えたいんです。
宝槻 そうですね。結果主義じゃなくて、「ワクワクする学びのプロセス」をクリエイトしているのが、探究学舎と松丸さんの共通点だと思います。そういうところがほかにももっと出てくると良いと思うんですよ。だって、探究学舎だってナゾトキだって、絶対じゃないんだから。学びのメニューが豊富になって、子どもの選択肢が増えて、自分に合う学び方を選べるようになるといいですね。その時に「楽しいプロセスで、かつ結果が出る」という学びのスタイルが認められるようになるんじゃないかと思います。
「頭を使って攻略する」楽しさが、脳を鍛える(宝槻)
松丸 例えば、新しい企画の打ち合わせをしている時に、アイデア出すことが苦手な人に共通するのは、過去に自分で頭を使って何かをやったという成功体験が少ないことじゃないかと感じます。自分のアイデアにも「これっておもしろいのかな、いや僕なんかが言ってもな……」みたいになってしまって、人に話すことへの抵抗感が強いんですよね。だから僕は、ナゾトキを通して頭を使う楽しさや成功体験をもっと提供してあげれば、何か変えられるんじゃないかなと思っています。
宝槻 頭を使って攻略することが楽しくなるという効果は、静かに起こるじゃないですか。だから劇的にテストの点数が上がるというわけじゃない。でも、そういう状態になると、例えばトランプゲームの大富豪をする時でも、ボードゲームをする時でも、どうやったら勝てるのかを考えながら遊ぶようになる。そうすることで脳を鍛えられるし、それが将来、勉強をする時でも、何かを作り出す時でも、底支えしてくれる力になると思います。だから、将棋も囲碁もトランプもナゾトキも、頭を使って攻略することが楽しいという原体験を得るアイテムとして、すごく優秀ですよね。
学歴だけでは中身が無い。何か夢を持たないと腐ってしまう(松丸)
松丸 ゲームで勝つために考えるということは、戦略性も養われると思います。戦略的な人には2パターンあると思うんですよ。
宝槻 それはどんなパターン?
松丸 ビジネス書を読み漁って無理して戦略的に振る舞っている人と、楽しくてやっている人の2パターンです。無理している人は、目が死んでます(笑)。後者の場合は、これをああしたらこういう効果が出るかもしれない、実験してみようっていう思考のプロセスを楽しんでいるから、めちゃくちゃ目が輝いてるんですよね。そういう子に育てるための手段として、学びのプロセスを磨いてほしいと思いますね。
宝槻 確かに。結果主義で一生懸命勉強して、東大や京大に入っても、東大生、京大生というブランドだけで食っていけるような時代ではないですから。松丸さんが東大という学歴と自分のビジョン・特技を組み合わせて道を切り拓いているのは、時代性だと思いますね。自分だけの何かを見つけないといけない。
松丸 高校生の時は東大合格を目標にして、東大に入るための勉強をするじゃないですか。それで合格した時に、兄のDaiGo(メンタリスト)から「入学おめでとう。でもお前が手に入れたのは学歴だけで、お前はまだたいした人間じゃない」ってLINEが入ったんですよ。DaiGOは東大を受験したけど受からなかったので、その時は正直「ひがんでんだろう、ほんと性格悪いわ」と思っていたんです。でも、大学に通い始めて半月もしたら、学内で東大生というアイデンティティには意味がない。今まで東大に入るために勉強してきたけど、いかに自分に中身がないかということを実感したんですよね。
宝槻 僕も京大に入ってすぐはそうだったな。
松丸 その時に、東大生という肩書だけで終わらないためには、何か夢を持たなきゃいけないし、その夢に向かって取り組み続けなきゃいけない、なにか明確なビジョンを持たないと自分は腐ってしまう、という危機感を持ちました。自分には何があるだろうと考えたときに、子どもの頃から大好きで、唯一兄3人に勝つことができたのは、ナゾトキだ、と気がついて、ナゾトキのサークル(AnotherVision)に入ったんです。
苦行でしかなかった勉強を、どんどんエンタメにしたい(松丸)
宝槻 従来の学校の勉強って、やりたくない課題ばかりじゃないですか? だいたい「勉強」って言葉そのものが、なんか、良くない言葉ですよね。
松丸 勉めることを強いる(笑)。
宝槻 そうそう。僕の仮説だと、近代の「勉強」は、忍耐力を鍛えることを目的として設計されているんですよ。それはこれまでの世の中は、楽しくないけど必要なことが溢れていて、それに立ち向かっていく人材が大量にいないと成立しない社会構造だったから。だから、楽しくないけど必要なことをやり続けるトレーニングとして勉強がある。でも、これからは「やりたいことを実現する」という方向に、大きく流れが変わっていくと思っているんですよ。
松丸 同感です。これまでの教育って、やれと言われた苦行をそのままこなせる人材かどうかを判定するための装置だったと思います。でも時代が変わって、マニュアルで済むようなことは、人工知能やプログラムにすべて置き換えられていく世界が迫りつつありますよね。そうして従来の教育が通用しなくなった時に、宝槻さんが言うように、自分の好きなこと、自分の人生を賭けてクリエイトしたいことを見つけて、それに熱中できる人間を育てる教育が必要になります。そのためには、今まで苦行でしかなかった勉強を、どんどんエンタメにしなければいけないと思います。
宝槻 その通り。だから、今、僕の一番の野心は、これまでのつまらない勉強をすべて、子どもたちがやりたくて仕方がない勉強に変えてしまうことなんです。探究学舎とナゾトキは、相性がよさそうですよね。
松丸 いいですね。一緒にやりましょう!
プロフィール
強烈な父親の教育から、高校中退~大検取得~京都大学進学という特異な経歴を持つ。その後、2人の弟も同じ勉強法を駆使して高校中退~大検取得~京大入学を果たす。大学卒業後、私立高校や職業訓練校での指導経験を経て、2012年に東京都三鷹市で「子どもの好奇心に火をつける」学習をテーマにした探究学舎を開校。5児の父。その活動は「情熱大陸」(毎日放送)をはじめさまざまなメディアで取り上げられている。
プロフィール
東京大学に入学後、謎解きサークルの代表として団体を急成長させ、イベント・放送・ゲーム・書籍・教育など、様々な分野で一大ブームを巻き起こしている”謎解き”の仕掛け人。現在は東大発の謎解きクリエイター集団RIDDLER(株)を立ち上げ、仲間とともに様々なメディアに謎解きを仕掛けている。監修書籍に、『東大ナゾトレ』シリーズ(扶桑社)、『東大松丸式ナゾトキスクール』『東大松丸式 名探偵コナンナゾトキ探偵団』(小学館)『頭をつかう新習慣! ナゾときタイム』(NHK出版)、など多数の謎解き本を手がける。
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▼第1回 高濱正伸先生との対談はこちら
取材・文/川内イオ