松丸亮吾さんによる対談連載、第2回のゲストは探究学舎の宝槻泰伸塾長。前編では、勉強の入り口の選択肢はひとつではないこと、中編ではワクワクする学びのプロセスの大切さについて、語っていただきました。話すほどに意気投合して、議論は最高潮。最終回となる後編では、松丸さんも興奮する宝槻さんの野望と、子どもを伸ばすための親の関わり方について語り合いました。
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目次
親のマインドが変われば、子どもも変わる(宝槻)
―おふたりが考えるこれからの「子育て」や「勉強法」について、教えてください。
松丸 僕はイベントなどで子どもたちの親御さんと話をする機会が多いんですが、一番やめた方がいいと思うのは、「うちの子はそんなに地頭が良くないんですよ」と言うこと。これは今すぐやめてほしい。
宝槻 そういう親御さん、いますね。
松丸 その考え方ひとつで、子どもの可能性の天井が決められちゃうじゃないですか。でも、そういう人って、僕が何を言っても「いやいや、それはあなたが元から頭が良いからですよ」「育ちがいいからですよ」って言っちゃうんです。このマインドをどうすれば変えられるのか、宝槻さんに聞きたいです。
宝槻 子どもの教育に主体的に携わっていることが多いのは圧倒的にお母さんだから、お母さんの価値観のシフトはすごく重要な意味を持っていますよね。でも、一発のスイッチで実現することは難しくて、グラデュアリーなプロセスが必要だと思っています。
松丸 ちょっとずつちょっとずつ、ですね。
宝槻 はい。お母さんが「うちの子ってやる気あるし、ポテンシャル高いかも!」と思うようになって、そういうコミュニケーションが日常のなかで当たり前に出てくることが到達点だとしますよね。その最初の一歩は、まず、そのお母さんのなかに眠っている、わが子への期待を確認することだと思います。つまり、自分が口にしていることと、期待していることにギャップがあることに気づいてもらうところからです。
松丸 そこは大きなギャップがありそうですね。
お母さんが子どもの可能性を信じることに貢献したい(松丸)
宝槻 どんなお母さんも心の中では、頭のいい子になってほしいと思っているはず。なのに口では「うちの子は……」と言っちゃってる場合がほとんどだと思うんですよ。だから、まずは自分の気持ちのギャップを確認する。その次のステップは、家族のなかでポジティブなコミュニケーションを心がける。「うちの子はやる気ある、ポテンシャル高い」っていう。そうして、家庭でそういう会話ができるって心地いいことだと知るのが大事。それに慣れたら、今度は家族以外の人の前でも言ってみる。そうやって少しずつステップアップしていくことで、お母さんのマインドのシフトが進むと思います。
松丸 僕がイベントでお母さんから聞いたなかで、一番嬉しかったのは、「うちの子って賢いかもしれない」という言葉ですね。ナゾトキは学校で教えられた解法に従って解くわけじゃないし、学校の成績とも関係ない。でもだからこそ、お母さんに子どもの可能性を感じてもらって、子どもに自分の可能性を信じてもらうという点でも貢献できると思っています。
宝槻 ナゾトキって、ひらめきですもんね。
松丸 僕自身がそうでしたけど、誰かに教えられたわけでもなく、自力で答えまでたどり着くと、すごい自己肯定感があるんですよ。俺ってすごいんだ、賢いのかもしれないって。それを見た親も「えっ、うちの子、誰にも教わってないのにナゾトキできてるじゃない」とか「え、私よりも先に問題解いちゃったわ」と驚いて、「もしかして、うちの子、天才じゃないかしら」と思うようになる(笑)。ナゾトキを通して、お母さんたちの「うちの子はぜんぜん勉強できない」という、学校の勉強だけを指標にする価値観を変えられたら、いちばん素敵だなと思っています。
好奇心に火がつけば、子どもは勝手に伸びていく(宝槻)
松丸 僕は宝槻さんの授業を観て、これは理想の学習だ! と思いましたよ。
宝槻 僕の授業も、結局は子ども時代に原点があるんですよ。僕は子どもの頃から漫画やドラマ、映画を通して「ストーリーに触れる」ことが大好きだった。高校1年で中退して暇になってからは、本や映画の世界にどっぷり浸っていました。多分その影響で、僕の中には「ストーリー化する技術」はあるんですよ。物事の素敵なストーリーを解説するということに喜びを得るし、手応えを感じる。その技術をひたすら磨いて、職人技になったという自信はあります。
松丸 宝槻さんも、自分の「好き」とか「得意」を活かして今があるんですね。
宝槻 そうですね。例えば、数学の「確率」なんて難しそうに感じるものでも、学びたくなる気持ちに持っていくための物語化はできる。確率というものが日常のどこにつながるのかとか、数学者がその概念に到達するまでの過程なんかを、すべて物語化して、確率ってすごい、おもしろい、って学びたくなる気持ちを高める自信があります。これが「好奇心に火をつける」技術ですよね。
松丸 前回対談させていただいた花まる学習会の高濱先生は、子どもは何かに没頭している時にいちばん伸びるとおっしゃってました。宝槻さんが著書で書いてらした「フロー状態」というのも同じことですね。
宝槻 そう。子どもの変化は劇的で、火がつくと勝手に突き抜けていくんですよ。僕の「元素」の授業を受けて元素にはまった子は、4カ月ぐらいかけて自分で元素カルタを作っていて、今は商品化に向けて動いています。「宇宙」の授業を受けたら親子で一緒に火がついて、JAXAの種子島宇宙センターに行っている家族もいますね。
松丸 それ、すごいですね。
宝槻 ストーリー化が得意な僕の野心として、将来は『ゼルダの伝説』のようなゲーム型の学習教材を開発したいと思っているんですよ。タイトルは『探究の伝説』っていうんですけど(笑)。ゲームの世界に入ると、数学者の館とか音楽家の館とかがあって、そこに入るとニュートンとガリレオとかベートーベンがいて、そこからクエストが始まるんです。それで、数学者が数学の方程式を生み出す時とか、ベートーベンが第九を作曲する時に、主人公が手助けをしながら、歴史を再現する。そういうゲームがあったら、学ぶことがもっと楽しくなるんじゃないかなと思って。
松丸 『ゼルダの伝説』は僕も大好きでした! その教材、いいですね! 一緒にやりたいです。
親は「リアクション芸人」になるべし(宝槻)
―最後に、読者である親御さんに、アドバイスをお願いします。
宝槻 どんな親にもすぐにできて、かつ決定的な影響力を持つ関わりは、子どもの話を聞くことだと思うんです。子どもが自分の好きなことの話をしている時に、興味を持って聞いてあげて、いちばんのファンになる。そうしてくれたら子どもはハッピーになるし、モチベーションも上がるじゃないですか。父親でも母親でもいいんです。子どもの話を聞いた時に、「すごい!」「それでそれで?(パアァ…)」みたいに、リアクション芸人になるぐらいの感覚でいいと思います。
松丸 僕は、子どもがやっていることを悪いことだと決めつけるのを、やめてほしいですね。先入観にとらわれている人が多いと思うんです。「子どもは自分のためになることなんて自分からはやらない、だから私がどうにかしなきゃ」みたいな。そうじゃなくて、子どもは自ら好きなことをやってるわけで、そこには必ずなにかしらのプラスとマイナスがあるので、そこをちゃんと見極めてあげてほしい。宝槻さんの「話を聞く」というのは大賛成で、子どもがやっていることを止める前に、何に魅力を感じているのかを聞いてあげてほしいし、そこからどんな学びを得られるのかを考えてほしいですね。
宝槻 結局、親子の関係でも大切なのはコミュニケーションなんですよね。
松丸 本当にそう思います。僕らのやっていることも、そのきっかけ作りになってくれるといいですね。
プロフィール
強烈な父親の教育から、高校中退~大検取得~京都大学進学という特異な経歴を持つ。その後、2人の弟も同じ勉強法を駆使して高校中退~大検取得~京大入学を果たす。大学卒業後、私立高校や職業訓練校での指導経験を経て、2012年に東京都三鷹市で「子どもの好奇心に火をつける」学習をテーマにした探究学舎を開校。5児の父。その活動は「情熱大陸」(毎日放送)をはじめさまざまなメディアで取り上げられている。
プロフィール
東京大学に入学後、謎解きサークルの代表として団体を急成長させ、イベント・放送・ゲーム・書籍・教育など、様々な分野で一大ブームを巻き起こしている”謎解き”の仕掛け人。現在は東大発の謎解きクリエイター集団RIDDLER(株)を立ち上げ、仲間とともに様々なメディアに謎解きを仕掛けている。監修書籍に、『東大ナゾトレ』シリーズ(扶桑社)、『東大松丸式ナゾトキスクール』『東大松丸式 名探偵コナンナゾトキ探偵団』(小学館)『頭をつかう新習慣! ナゾときタイム』(NHK出版)、など多数の謎解き本を手がける。
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▼第1回 高濱正伸先生との対談はこちら
取材・文/川内イオ