9歳は「感情力」を育てる大切な分岐点。発達心理学に聞いた、この時期に親ができることとは?

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感情を表現することの大切さ

「感情の世界というのは、学校でも教えてくれないし、案外大人も大人になり切れていない部分もあるのではないでしょうか。9歳、10歳の頃に自分の気持ちが説明できて、親が共感してあげることができれば、中学生になったときに起こり得る色々な問題を未然に防ぐことができます。

9歳から12歳になっていくにつれて、男子も女子も友だちには話しても、家族には気持ちを表さなくなっていきます。特に男子は、表現しなくなる傾向が強いですね。理由は単純ではないのですが、親が『男の子なんだから、自分で解決しなさい』と突き放してしまうところも影響しているかもしれません。小学校低学年までは干渉しすぎなくらいの親も、『もう9歳だから』と見なくなってしまうところがあるんですよね。

しかし、その態度はかもしれません。心理面を考えると、9歳以降は特に様子を見てあげたほうがいいでしょう。干渉する必要があると言っているのではなく、困ったことがあったら、飛んできてあげるいつだって味方だよと態度で、言葉で、伝えてあげる時期なんです。そして、親はいつでも話を聞ける状態にしておくこと。子どもが何気なく話したことの背景には、複雑な感情が絡んでいることもあります。

何より考えていることが面白いんですよ! こんな話がありました。運動会の日に、まるで第三者のように遠くに離れてじーっと考え事をしている小学校高学年の男子がいたんです。『何を考えているの?』と聞いたら、『トロフィーは税金で購入したと思いますか?』と聞かれて、大人は意表を突かれたことがありました。

友達同士の遊び方も性差が見られます。休み時間になると、男子はボール遊びをしたりして外へ出ていくけど、女子はかたまっておしゃべりをしていたりしますよね。男子は、嫌なことを一緒にスポーツとかの活動で吹き飛ばしているところがありますが、女子は女子同士でお互いの嫌だった体験をおしゃべりすることが多いです。「今日、すっごい嫌だった」「えー私も」といったネガティブな感情を共感し合うのです。共感し合うのはいいことでもありますが、毎日お互いがネガティブな話を反芻していると、すごく重たいゴミ箱のようなものを抱えることになってしまいます。鬱の問題につながりやすくもありますので、女の子はそういうところを注意して見てあげたいですね」

――自分のことは自分でできるようになってくる9歳ともなると、「ようやく手が離れた」と親は思い、放って置きがちになりますが、感情の変化については今まで以上に見てあげる必要のあることが渡辺先生のお話でわかります。また、男女で気をつけるポイントも変わってきますね。

自分の気持ちを「名付ける」ことができれば、何かあっても立ち直れる力となる

9歳は入り混じった感情も出てきますし、理解をすることもできます。『主人公はどんな気持ちですか?』と国語の授業で聞かれたとしたら、例えばもう悲しいだけではないんです。『悲しいけど、ほっとしたところもあると思う』というように気持ちが混在しています。物語でもドラマでも、気持ちに焦点を当ててみると感情がわかるようになるので、『他の気持ちもあると思う?』というように問いかけてあげるといいですよ。そうすると他の気持ちも考えられるようになり、感情の理解が進みます。

大学生でも不登校になる子はいます。その時の気持ちを言葉で誰かに説明できる子は復活する可能性が高まりますが、『糸が切れました』としか言えないと復活もままなりません。ですから、感情を素直に表現できることは、大切なことです。

感情に関する言葉を挙げてみると、マイナスの感情を表す言葉って多いですよね。ということは、人間はマイナスの感情を持つことが多いということ。ネガティブな感情はないほうがいいと思われるかもしれませんが、マイナスの感情があるからこそ人間は進化の中で生き残れているんです。何か事が起こったときに、威嚇しなきゃいけないこともあるし、逃げる必要もある。ネガティブな感情があるからこそ、他人を思いやれる境地も学びます。人として深いこともできるんです」

「例えば学芸会で、活発な女の子が『主役になりたい』とおとなしいお友だちに話をしたとします。そして、おとなしいお友だちは、『あなたならできるよ』と応援します。しかし、先生はいつもおとなしいからと気遣い、おとなしい子を主役に抜擢しました。」

その結果、主役をしたかった女の子は、主役になった子に裏切られたと感じて絶交してしまうかもしれません。こんな場合、人間は相手が悪いからということを起点に考えてしまいがちです。でも、相手にそう言わせる空気を作った自分が悪いかもしれない。一方的に主役をやりたいと言っていたのは自己中心的だったかもしれない。

9歳以降は、こうした深いことを理解することができます。ネガティブな感情を言語化できるようになると、より深い友情も理解できてくるんです。あるきっかけで絶交しても、「あの時はごめんね」「私も悪かった」という気持ちの表現ができることで、友情がさらに深まることにも気付く力を持ち始めます。そうした意味でも、感情を表現したり、言語化することは大切ですよ」

――もやもやとした気持ちを言葉にできるからこそ、自分の気持ちを癒すことができます。また、相手を思いやる気持ちにもつながっていくのですね。

9歳のこころのじてん』おすすめの活用法 ~ボキャブラリーは親の影響を受ける

――韓国の児童書の翻訳版9歳のこころのじてん』は、韓国の教科書に取り上げられるなど話題となり、韓国ではすでに20万部を突破しています。日本の他にも、中国、インドネシア、台湾、ベトナムでの出版も決定。オール4色の感情を表す語彙辞典で、かわいいイラストを使った例文が子どもにもわかりやすい本になっています。

――話題の『9歳のこころじてん』をどう活用したらいいかを渡辺先生にうかがいました。

「ママはヤバイしか言わないし、パパはうざいしか言わないとなると、ヤバイうざいの世界になってしまいますよね。親の感性やボキャブラリーに、子どもは必ず影響されます。ですから、『9歳のこころじてん』はまず大人が読んで、こんなボキャブラリーもあったんだと大人に発見してもらいたいですね。今日の風はすがすがしいわねと言ったら、一つ世界が広がるんですよ。今までは一色の世界だったけど、2色の世界になり、さらに多色の世界になる、そう豊かな気持ちになるんです。
感情表現の豊かな家族の中で育つ子どもは、自分や相手の気持ちの理解も進み、表現も広がるのです。言葉は思考の世界を豊かにしてくれるんですよ。

この本は、イラストと例文で具体的に感情を説明してくれているので、こういう時の気持ちなんだと共感しながら味わうことができます。お子さんが、作文を書くときにボキャブラリーが広がるような言葉も載っていますね。

日本で使われている国語の教科書は、漢字を教えてくれるけど、気持ちのことまでは触れられていません。感情がわかるような教科書を考えてほしいと思っていたので、今日本における教育で、とても必要な本だと思います」

9歳のこころじてん』を渡辺先生はそんなふうにおすすめしてくださいました。
「くやしい」というページ1つをとってみても、この時の気持ちはくやしいだけではなくて、ほっとした気持ちもあるんじゃない?などというように、親子の会話を広げることができそうですね。

「笑顔を見せていても、それは氷山の一角で、心の中にはネガティブな気持ちがある時もあります。そんな時、心の底にあったのはみじめな気持ちだったんだとか、あのことが引っかかっていたんだとか、感情が言語化され、見える化すると、問題の解決につながることもありますよ」と渡辺先生。

9歳は複雑な感情を意識し始める時期ですが、その感情を上手に伝える術はまだなかったりします。そんな時、複雑な思いを言語化することができれば、子ども自身が自分の感情をマネジメントすることにも役立てることができるのではないでしょうか。

「子どもの心の翻訳書」として

9歳というのは、目には見えない感情が大きく飛躍する時期だということがわかりました。そして、自己肯定感をはぐくむという意味でも、親の関わり方は重要になります。
9歳のこころじてん』は子どもが主体となって読む本ではありますが、親が子どもの感情を理解する大きな手引きにもなると思います。「子どもの心の翻訳書」として、子どもを理解する大きな手がかりとしてお使いいただけるでしょう。また、日々の良好な親子関係にも役に立つと思いますよ。

私たち大人の『こころのじてん』も欲しいくらいですね。

 

文/パク・ソンウ 絵/キム・ヒョウン 訳/清水知佐子|小学館|本体1300円+税

韓国で出版され、アジア各国でも翻訳された20万部を超えるベストセラー。
9歳という感受性豊かな成長期に必要な「気持ち」「感情」をあらわす74の表現をイラストと例文で紹介しています。「楽しい」「悲しい」という基本的なことばから、「もどかしい」「うらめしい」というちょっと複雑な気持ちを表すことばまで、さまざまな気持ちが入り混ざった感情を表現するための絵ことば辞典です。

お話をうかがったのは・・・

法政大学文学部心理学科教授 教育学博士

渡辺 弥生

大阪生まれ。筑波大学大学院博士課程で学び、筑波大学、静岡大学、途中、ハーバード大学教育学研究科、カリフォルニア大学サンタバーバラ校で客員研究員を経て、現職に至る。『子どもの10歳の壁とは何か?乗り越えられる発達心理学』(光文社)、『感情の正体 発達心理学で気持ちをマネジメントする』(筑摩書房)、『まんがでわかる発達心理学』(講談社)など著書多数。

取材・文/末原美裕(京都メディアライン)

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