歌人・俵万智の「子育てはたんぽぽの日々」ぴったりと抱いてやるなり寝入りばな

子どもと向き合う時間は、一喜一憂のとまどいの連続。子育てに行き詰まることも日常です。歌人・俵万智さんが詠み続けた「子育ての日々」は、子どもと過ごす時間が、かけがえのないものであることを気づかせてくれます。「この頃、心が少しヒリヒリしている」と感じていたら、味わってほしい。お気に入りの一首をみつけたら、それは、きっとあなたの子育てのお守りになるでしょう。

たんぽぽのうた1 ぴったりと抱いてやるなり寝入りばな

ぴったりと抱いてやるなり寝入りばなジグソーパズルのピースのように

子どもの背中を抱きしめるようにして眠りに落ちるのを待つとき

 

寝る前の儀式、我が家の場合は、まず本を一冊読み、あかりを暗くして、まだお話が足りないときには「おかあさんぶっく」をする。これは息子の命名で、お話の題を息子が考えて、私が即興で(というか適当に)お話を考えるという遊びだ。(中略)そしてお話のあとは、まるまった子どもの背中を、背後から抱きしめるようにして、眠りに落ちるのを待つ。お互いが、なんとなくしっくりくる位置というのがあって、ぴたっと決まると、パズルがはまったような気持ちになる。

 

たんぽぽのうた2 抱っことは抱きあうことか

抱っことは抱きあうことか子の肩に顔うずめ匂いかぐとき

 

 

抱っこや、頬ずりは期間限定の楽しみ

抱っこをしたり、頬ずりをしたり、というスキンシップは、赤ちゃん時代特有の、コミュニケーションだと思っていた。これは期間限定の楽しみで、話ができるようになれば、だんだん言葉によるコミュニケーションのほうに移っていくのだろう。いつまでもベタベタしてはいられない、と漠然と考えていた。(中略)あるとき抱っこをしていて「あれ、息子の足がこのまま伸びて地面についたら、抱きあっているって感じかも」とふと思った。こちらが一方的に抱いてやっているつもりだったが、実は抱きあっているというのが、本当のところかもしれない。

 

俵万智『子育て歌集 たんぽぽの日々』より構成

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短歌・文/俵万智(たわら・まち)

歌人。1962年生まれ。1987年に第一歌集『サラダ記念日』を出版。新しい感覚が共感を呼び大ベストセラーとなる。主な歌集に『かぜのてのひら』『チョコレート革命』『オレがマリオ』など。『プーさんの鼻』で第11回若山牧水賞受賞。エッセイに『俵万智の子育て歌集 たんぽぽの日々』『旅の人、島の人』『子育て短歌ダイアリー ありがとうのかんづめ』がある。2019年評伝『牧水の恋』で第29回宮日出版大賞特別大賞を受賞。9月末に最新歌集『未来のサイズ』刊行予定。https://twitter.com/tawara_machi

写真/繁延あづさ(しげのぶ・あづさ)

写真家。1977年生まれ。 長崎を拠点に雑誌や書籍の撮影・ 執筆のほか、出産や食、農、猟に関わるライフワーク撮影をおこなう。夫、中3の⻑男、中1の次男、小1の娘との5人暮らし。著書に『うまれるものがたり』(マイナビ出版)など。最新刊『山と獣と肉と皮』(亜紀書房)が9月25日発売予定。

ブログ: http://adublog.exblog.jp/

タイトルイラスト/本田亮

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