曲の“さわり”とは、「サビ」を指しています
曲の「さわり」だと思われている部分は、人によって違いがあるようです。「曲の最初の部分」を歌ってみせる方は多いと思うのですが、みなさんはどうですか? でもそれは、「さわり」の本来の意味ではないのです。
では、どこが本来の意味かというと、曲の「サビ」のところです。
「さわり」とは、元来は浄瑠璃(じょうるり)の流派の一つ義太夫節(ぎだゆうぶし)で、義太夫節以外の曲節を採り入れた部分のことをいいました。他流の節(ふし)に触(さわ)るという意味から生まれた語のようです。
それが後に、一曲の中でいちばんの聞かせどころ、あるいは、聞きどころとされている個所のことをいうようになったのです。これが転じて、一般に、曲や話などの最も情感に富み感動的な部分をいうように なりました。ですから、歌謡曲だったら「サビ」になるわけです。
曲の冒頭は、通常は「さわり」ではありません。
「サビ」の語源は複数
ちなみに、音楽でいう「サビ」の語源は何かというと、すしのメシとネタにはさまれているワサビに例えた語だという説、「サビのある声」と同語源という説などがあります。
記事執筆
辞書編集者、エッセイスト。元小学館辞書編集部編集長。長年、辞典編集に携わり、辞書に関する著作、「日本語」「言葉の使い方」などの講演も多い。文化審議会国語分科会委員。著書に『悩ましい国語辞典』(時事通信社/角川ソフィア文庫)『さらに悩ましい国語辞典』(時事通信社)、『微妙におかしな日本語』『辞書編集、三十七年』(いずれも草思社)、『一生ものの語彙力』(ナツメ社)、『辞典編集者が選ぶ 美しい日本語101』(時事通信社)。監修に『こどもたちと楽しむ 知れば知るほどお相撲ことば』(ベースボール・マガジン社)。NHKの人気番組『チコちゃんに叱られる』にも、日本語のエキスパートとして登場。新刊の『やっぱり悩ましい国語辞典』(時事通信社)が好評発売中。