わが子が「問題児」と呼ばれたら。問題行動を起こす子どもたちの特徴と背景、対処法

今の学校現場には、リーゼントヘアーに鉄パイプを持った「不良」など、分かりやすい非行が見当たりません。そのせいか、子どもたちと先生の世界は、外部から見ると穏やかに見えるかもしれません。

しかし、文部科学省の情報によると、例えば小学生の暴力行為は、このところ右肩上がりで増えていると分かります。もしも、わが子がそうした問題行動を起こす側になったとしたら、どうすればいいのでしょうか。今回は各種の公的な資料を基に、問題行動と問題行動を起こす子どもたちについてまとめてみました。

「問題行動を起こす児童生徒」と呼ばれてしまう子どもたち

問題行動を起こす児童生徒を、世の中には「問題児」と呼ぶ表現があります。辞書を調べると、「彼は会社の問題児だ」などと比喩(ひゆ)的な意味で大人にも使われる言葉だと分かりますが、本来の意味は子どもを表現する言葉です。

<教育上、特別の配慮を要する児童。特に、性格や行動の面で問題をもつ児童をいう>(小学館『大辞泉』より引用)

関連する言葉として、「特異児童」という表現もあります。ただ「問題児」という表現は、子どもの人格に問題があるように聞こえる、注意が必要な言葉であるため、さまざまな現場では「問題行動を起こす児童生徒」と配慮された表現が使われています。

問題行動を起こす児童生徒の特徴とは?

具体的に問題行動を起こす児童生徒とは、どういった子どもたちなのでしょうか。少し古い情報ですが、2000年(平成12年)に発行された「低年齢少年の価値観等に関する調査」の中には、ヒントになる情報があります。

同調査の第3章には、結果の分析を専門家が述べた「小中学生の問題行動・逸脱規範の特徴とその関連要因」という項目があります。問題行動が「逸脱経験」と表現され、子どもに見られる問題行動は、以下のような分類が可能だとされています。

・非行・犯罪・堕落と見なされる行為(万引き、シンナー、援助交際など)
・迷惑行為・妨害行為(ごみを道に捨てる、授業中おしゃべりを続けるなど)
・自己責任の範囲にとどまると見なされがちな行為(いねむり、髪の毛を染めるなど)
・状況依存的な道徳行為(親にうそをつく、友達にうそをつく、列に割り込むなど)
・反抗的行為(親にさからう、教師にさからうなど)

言い換えると、以上のような行為が目立つ子ども=「問題児」と定義できそうですね。

問題行動を起こす子ども、その特徴とは?

問題行動を起こす子どもの定義が分かりました。こうした子どもたちには、何か共通点や傾向など、特徴はあるのでしょうか?

まず年齢的な面で言えば、文部科学省「平成30年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について」が参考になります。

同調査では、暴力行為の加害者になった子どもたちの数を、小学校1年生から高校3年生まで年齢別に調べています。結果は中学校1年生がワースト1位。その次に中学校2年生、3年生、次いで小学校6年生といった並びです。

この結果を考えると、問題行動を子どもが起こしやすい年齢は、中学校の在学中だと分かります。その土台となる小学校時代を含めて、親としては長期的に子どもを見守ってあげたいところです。

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問題行動を起こす子の原因は何か?

こうした問題行動が出やすい子どもたちには、どういった背景や原因が考えられるのでしょうか。

親や保護者に愛されていない、大事にされていない

参考になる資料が、福岡県高等学校人権・同和教育研究協議会の「県高同教通信」になります。同通信のある号には、生徒指導に関する情報が掲載されていて、問題行動を起こす児童生徒の背景がまとめられています。

「県高同教通信」によれば、まず「人間への基本的な信頼の欠如」が問題行動を引き起こす引き金になるとされ、親や保護者に大事に守られなかった、愛されなかった、かわいがられなかった子どもは、他者を警戒し、防衛的になり、心を閉ざす傾向があると言います。その他者への信頼の欠如が、結果として問題行動を引き起こす引き金になると考えられるのですね。

構ってもらっていない

仕事が忙しすぎるなどで、結果として子どもを構ってあげられない家庭もあるはずです。意図的にネグレクトをしているわけではないけれど、結果として親子で一緒に過ごす時間が減ってしまう、そのような状態が続くと、子どもの心のエネルギーは枯れてしまうと言います。

「もっと私を気にしてほしい」「もっと手をかけてほしい」という気持ちの裏返しから、手のかかる行動に走る子どもも少なくないと言います。この点はよく耳にする話ですよね。家に帰っても寂しい、満たされないという状況が続くと、友達と夜遅くまで遊んで帰宅が遅くなるといった問題行動の温床にもつながっていきます。

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問題行動を起こす子の予防や対応として、親ができることは?

ただ、ほとんどのパパ・ママが意図して、子どもとのかかわりを放棄しているわけではないはずです。忙しすぎる毎日の中で、あるいは暮らしを維持しようと懸命になる中で、結果として子どもの心を枯渇させてしまったり、人に対する信頼を欠如させてしまったりする場合も、多々あるはずです。

子どもが問題を起こすようになってから、慌てて血相を変えて叱っても、「今さら親みたいなつらをするな!」と子どもに言われるケースも考えられます。気がつけばかなり深刻な状態まで事態がすすんでしまっているという話は、テレビや映画だけでなく、現実の世界でも多く見る光景ですよね。

親として子どもの問題行動を防ぎ、深刻な親子関係に至らないようにするためには、どうすればいいのでしょうか?

子どもに何も起きていない段階から、かかわりを持つ

先ほども紹介した通り、子どもの暴力行為は中学校1年生をピークに増え続けていきます。他の問題行動も、思春期を迎える中学生の時期に増えると考えれば、わが子が就学する前から、できる範囲で手をかけ、観察し、かかわりを持ちたいところです。

先ほどの福岡県高等学校人権・同和教育研究協議会の「県高同教通信」にも書かれている通り、子どもは愛される、大事にされる、構ってもらえる状況の中で、心を満たしていきます。

仕事があり、あるいは離婚や死別などの状況があり、物理的にも時間的にも子どもを構えない人も中にはいるはずです。それでも、少なくとも子どもには「大事にしている」「愛している」というメッセージを、個々のケースに応じた範囲で、可能な限り送り続ける工夫をしたほうがいいのですね。

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変化をとらえる

子どもに問題行動が起きる場合、その予兆があると言われています。例えば、学校の成績が急に悪くなった、言葉遣いが変わった、友達が変わった、態度や行動が変わった、体調不良が増えた、子どもの書いた作文や絵画・造形物に何か気になる変化が表れたなどなど。どれも、子どもの心が何かを訴えているサインかもしれません。

変化に敏感になるためには、やはり子どもとのかかわりを増やす必要があります。何か気になる変化が表れた場合、その原因は何なのか、パパ・ママ、保護者として、真剣に考えを巡らせたいところです。

先生や友達の保護者と仲良くなる

子どもの変化に気づいた時、学校や習い事の先生、子どもの友達の保護者と情報交換できる関係があれば、とても助かるはずです。気軽に話せる日ごろからの人間関係が、子どもに関する重大な情報をもたらしてくれる可能性もあります。

教員は子どもを立派に育て上げるためのパートナーです。お互いに構えるような関係ではなく、日ごろから親しい関係が築けるように、さまざまな機会を利用して距離を縮めたいですね。

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問題行動が起きた時の親の上手な対処法

問題行動の予兆に気づく大切さが分かりましたが、一方ですでに問題行動を引き起こす段階に入ってしまったら、親としてはどうすればいいのでしょうか?

そのヒントは、岡山県が作成した「しつけ・子どもの非行」というパンフレットに分かりやすくまとめられています。

・相談される親になる
・上手な叱り方を学ぶ

相談される親とは、子どもが相談したいと思う親と同義です。子どもが相談したいと思う親になるためには、

・子どもの話をじっくり聞く
・同じ目の高さで考える
・子どもに深い関心を払う

といった姿勢を親が見せ続ける必要があると、「しつけ・子どもの非行」には書かれています。親子の関係ではなく、一般社会でも大切とされているコミュニケーションの基礎ですよね。

この一貫した行動を通じて、子どもは親に愛されている、分かってもらっているという気持ちになるといいます。結果として何かを親に相談しようという気持ちが育まれやすくなります。

この大前提のコミュニケーションがあり、信頼関係が結ばれていれば、親の言葉は子どもに届くはずです。土台となる信頼関係ができていないのに、単にイライラやストレスを前面に出して、子どもの心や体を傷つけるようなしかり方は、効果がありません。

山田暁生著『子どもを変えた教師の一言』(学事出版)という書籍にも、普段から子どもに愛をもって接し、子どもを理解したい、子どもに寄り添いたいと行動している先生の言葉こそが、子どもに深く刺さると書かれています。

親子の関係でも一緒ですよね。まずは子どもの言い分を聞いて理解した上で、今度は親の言い分を理解してもらう、子どもを正しい方向に導いてあげるといった姿勢が求められます。

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もしもわが子が問題行動を起こしてしまったら

わが子が学校内で問題行動を起こした場合、学校内には被害者が出ている可能性もあります。逆にわが子が被害者になったり、重大な問題行動の目撃者になったりする場合も考えられます。それぞれのケースにおいて、親としてはどうすればいいのえしょうか?

学校でのわが子の問題行動は教員とタッグを組んで解決する

2007年(平成19年)と少し古い資料ですが、山口県教育委員会が作成した「問題行動等対応マニュアル~児童生徒・保護者との信頼関係の一層の構築をめざして~」には、子どもが問題行動を起こした際の学校側の対処法が、事細かに記されています。

最新の状況は変わっていると考えらえますが、いずれにせよその内容を見ると、学校を始め関係各所が全力で問題行動の予防・阻止に力を入れていると分かります。言い方を変えれば、学校は問題行動を起こした子どもを、正しい方向に導こうと全力になってくれています。ならば、学校は敵ではなく、味方だと考えられますよね。

先ほど紹介した福岡県高等学校人権・同和教育研究協議会の「県高同教通信」では、問題行動の予防方法として、教員や友達の保護者とのコミュニケーションの大切さが語られていました。

同じように問題行動が実際に起きてしまった後も、教員、友達の保護者との密な連携は不可欠です。学校側の対処にパパ・ママが反応的、防衛的になるのではなく、協力してトラブルにあたる姿勢が大事になってくると考えられます。

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わが子が被害者・目撃者になった場合は、変わらぬ愛で落ち着いて接して

逆に、わが子が問題行動の被害者になったり、重大な問題行動の目撃者になったりした場合は、どうすればいいのでしょうか。命にかかわるような問題行動の場合は、子どもも心身ともにかなり深い傷を負っている危険性があります。

その場合の対処法としても、先ほども紹介した山口県教育委員会「問題行動等対応マニュアル~児童生徒・保護者との信頼関係の一層の構築をめざして~」があらためて役立ちます。

この中には、子どもたちが学校内外で人の命にかかわるような問題行動に直面してしまった際の保護者の心構えが書かれています。

・親や保護者自身も本当の気持ちを隠さない
・本人が話したい時は、とことん話を聞いてあげる
・子どもが保護者のそばにいたがっている時は、そばにいさせてあげる
・かける言葉が見つからない時は、手を握ったり、さすったりするだけでもいい
・学校のお知らせ、教員からの情報を基に事実のみを伝える
・肉体的に傷ついた時はすぐに医療機関に出かける
・日常生活のリズムを維持するように心がける

わが子が何か大きな被害に巻き込まれた時は、ショックを受けた子どもの心身の回復を、そばで見守ってあげる必要があります。その間、上述のような点を意識して、子どもをサポートしてあげればいいのですね。

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わが子を問題行動のある児童生徒にしないためのポイントまとめ

以上、問題児の定義から始まって、問題行動を起こす子どもの背景、予防法などをまとめましたが、いかがでしたでしょうか。実際にわが子が問題を起こしてしまったときの心構えなども紹介しました。加害者のみならず、被害者になった時の対処法についても情報をまとめました。

どのような場面でも、パパ・ママ、保護者が子どもの気持ちに寄り添い、かかわり続ける姿勢が一貫して重要だとどの資料を見ても書かれています。あらためてパパやママ、保護者が子どもに与える影響の大きさが分かる話だとも言えるかもしれません。親である自分が、それだけわが子に絶大な影響力を持った存在であると、あらためて考えてみるだけでも、状況は変わっていくかもしれませんね。

文・坂本正敬 写真・繁延あづさ

【参考】

低年齢少年の価値観等に関する調査 第3章 子どもの問題行動の発達的特徴とその背景にある諸要因
―親の養育態度に注目して―

県高同教通信

児童生徒の問題行動等に関する調査研究協力者会議(第1回) 議事録 – 文部科学省

問題行動に対する対応(上記以外。懲戒・出席停止等) – 文部科学省

平成30年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について – 文部科学省

問題行動等対応マニュアル~児童生徒・保護者との信頼関係の一層の構築をめざして~ -  山口県教育委員会

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