生物学的に使うときは「卵」。料理名に使われるときは「玉子」
国語辞典で表記欄に「卵」しか示していないものは、「卵」という漢字が「常用漢字」なので、それに従っているからなのです。
ではここで、「たまご」という語の歴史をひもといてみましょう。
そもそも「たまご」という語が使われるようになったのは、室町時代以降ではないかと考えられています。ではそれ以前は何と言っていたのかというと、「かいご」らしいのです。「かいご」は「殻(かい)の子)」という意味のようです。「殻」はたまごや貝のからのことです。
「かいご」に代わって「たまご」が優勢になっていくのは中世になってからです。実は、「蚕」も「かいご」と呼ばれていたため、同音語になるのを避けようとして「たまご」と言われるようになったようです。
江戸時代に広まったとされる「玉子」という表記
江戸時代に入ると、「たまご」が急速に広まるだけでなく、音による当て字として「玉子」という表記も生まれます。
この「玉子」という表記は、特に江戸時代の料理関係の文献に多く見られます。現在でも「卵」と書くときは、「ニワトリが卵を産む」などのように生物学的な観点の場合が多く、「玉子」は「玉子焼き」「玉子丼」などのように料理で使われることが多いのはそのためだと思われます。
記事執筆
辞書編集者、エッセイスト。元小学館辞書編集部編集長。長年、辞典編集に携わり、辞書に関する著作、「日本語」「言葉の使い方」などの講演も多い。文化審議会国語分科会委員。著書に『悩ましい国語辞典』(時事通信社/角川ソフィア文庫)『さらに悩ましい国語辞典』(時事通信社)、『微妙におかしな日本語』『辞書編集、三十七年』(いずれも草思社)、『一生ものの語彙力』(ナツメ社)、『辞典編集者が選ぶ 美しい日本語101』(時事通信社)。監修に『こどもたちと楽しむ 知れば知るほどお相撲ことば』(ベースボール・マガジン社)。NHKの人気番組『チコちゃんに叱られる』にも、日本語のエキスパートとして登場。新刊の『やっぱり悩ましい国語辞典』(時事通信社)が好評発売中。