脳科学者 中野信子さんに聞く、集団の中で異質な人が「嫌い」な理由。そのバイアスはコロナ禍で強くなる

『ヒトはいじめをやめられない』『キレる!』など、世の中に多くのベストセラーを生み出している脳科学者の中野信子さん。新刊のテーマは人間なら誰もがもっている「嫌い」という感情について。この感情をしっかり理解して、戦略的に利用することに目を向ければ、同性、異性を問わず、他人との日々の付き合いが楽に、かつ有効なものになると中野さんは言います。第二回目は集団の中で異質な人を「嫌う」ことや、コロナ禍で加速するその傾向について語っていただきます。

異質な人が嫌い

コロナ禍で、「世代間の断絶」「差別意識」が起きているという意見があります。しかし、「世代間の断絶」や「差別意識」は今に限った問題ではありません。

異質なものを排除したいという感情は、人間社会においては常に起こっている圧力なのです。

この圧力が「集団バイアス」です。人は集団になると必ず集団バイアスが生じます。

そして自分の所属する集団に対しては、自分の所属していない集団よりも好意的に行動する行動のことを「内集団バイアス」と呼びます。

また、自分と異なるグループの人間はみんな同じに見え、ひとくくりにしてしまうのが「外集団同質性バイアス」です。

例えば、新型コロナウイルスの感染拡大防止策を巡り、若者全般の行動を非難し、自制するよう求める声が上がりました。

若い人にも慎重に行動している人もいます。

にもかかわらず、すべてひとくくりにして「若者がウイルスをまき散らしている」などと、科学的根拠もなく、若年層にその攻撃の矛先を向ける人も多く見受けられました。これが「外集団同質性バイアス」です。

集団バイアスがもたらすデメリットは、前述した「ずるい人」に対する反応のように、自分たちと違う人、異質な人を嫌悪し、自分が属す集団内において「制裁」「排除」の論理が働くようになることです。

そして、自分が属さない集団に対する敵対心も生じやすくなります。集団の中で共通の敵対心をもつことによって、集団の結束力がより強くなるからです。

さらにコロナ禍のように、人々の不安が大きくなればなるほど、心の安定を保とうとするため、排除・制裁への意識も高まります。それは新型コロナウイルスの感染原因やその後の対応についての激しい米中対立がよい例でしょう。

戦うべき相手、憎むべき相手は、自分と違う集団ではなく、ウイルスなのです。

一人ひとりが互いに協力し合い、つながり合うことでしか、乗り越えられない大きな課題に直面しているにもかかわらず、世代間が非難し合う、国同士が「悪いのはおまえだ」と原因をなすりつけ、排除しようとする点……。

社会的不安が増大することで起こる集団バイアスの危うさ、また、この集団バイアスが利用されたときの恐ろしさを感じずにはいられません。

【脳科学者 中野信子さん】「嫌いっ!」という人間誰もがもつ感情をうまく運用するには
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アメリカで行われた実験の結果

アメリカで行われた「青シャツと黄シャツ」と俗に呼ばれる実験があります。

6~9歳の白人の子供を集め、無作為に青いシャツを着るグループと黄色いシャツを着るグループに分けました。

そして、毎日それぞれの子供たちに、どちらかのグループに属していることを意識させるようにしたのです。例えば、名前を呼ぶときに「青シャツグループのロバート君」と呼びかけたり、二つのグループに同じテストを受けさせ、それぞれのグループの平均点を知らせたりしたのです。1か月経つと、興味深い反応が確認されました。「黄色いシャツのグループと青いシャツのグループで競争すると、どちらが勝つか」と質問すると、67%の子供が「自分のグループが勝つ」と答えたのです。

また、グループ替えをするなら、どちらのグループに入ってみたいかという質問をすると、8割以上の子供が「今のグループがよい」と答えました。

こうした身びいきも「内集団バイアス」です。つまり、見た目や世代や国籍に違いがなくとも、きっかけがあれば容易にバイアスが生じ、嫌悪や差別が起こるものなのです。

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コロナ禍で強くなる集団バイアス

集団バイアスの恐ろしいところは、根拠なく、「自分たちのほうが他の集団よりも優秀だ」と思うようになることです。

集団に所属すると、同じ集団の仲間は、他の集団の人よりもよい人であり、他のグループの人は自分たちよりも劣等な人たちであるという内集団バイアスをもってしまうのです。

しかも、自己評価が低いときほど、こうしたバイアスが強くなります。自己評価の低さを、自分が所属する集団の評価を高めることで解消しようとしてしまうのです。

自己評価は本来、心理的な尺度ですが、それが数値で表れる尺度としてわかりやすいのは、所得が低くなるときです。

不況などで社会全体の所得が下がると、自分自身の責任でないにもかかわらず自信がなくなり、自己評価も低くなります。

下がった自己評価を埋め合わせるために「自分の属している集団は優秀に違いない」と、根拠なく下駄を履かせようとするのです。

コロナ禍にも、過去の大不況と同様の状況が起こりやすい

歴史を振り返ってみても、不況で国民の集団バイアスが強くなったとき、その圧力が政治的に利用され、他国との戦争が引き起こされたということが繰り返されています。

ですから、経済が落ち込み、集団バイアスが強くなるときは、非常に危ない状況なのです。

コロナ禍のような、世界的な感染症が拡大したときにも、同じような現象が起こりやすくなります。不況と同様、コロナ禍も感染症が原因であり、決して自分たちの努力の足りなさが原因ではないため、自信を失う必要はないはずなのに、実際の問題として所得が減ってしまい、自己肯定感が下がり、大きな不安を抱えている人も多いでしょう。こうした心理的なネガティブ要因により、世の中がおかしな動きになっていかないでほしいと祈るような気持ちになります。

不況や疫病で社会不安が広がり、集団バイアスが強くなってきたときには、「あいつらが嫌いだ」「あいつらのせいだ」と、嫌いの感情を誰かに向けるのではなく、「自分が嫌いなのはお金のない状態なのだ」「その原因は他人ではなく、ウイルスなのだ」と嫌いの骨格をしっかり見定めることが大切です。

また自分以外の集団を非難したくなった場合には、こういう状況下では、こうしたネガティブな感情が生じやすいのだという冷静な視点が求められるのです。

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著者:中野信子(なかの・のぶこ)

1975年、東京都生まれ。脳科学者、医学博士、認知科学者。東京大学工学部応用化学科卒業。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。フランス国立研究所ニューロスピンに博士研究員として勤務後、帰国。脳や心理学をテーマに研究や執筆の活動を精力的に行う。科学の視点から人間社会で起こりうる現象及び人物を読み解く語り口に定評がある。現在、東日本国際大学教授。著書に『心がホッとするCDブック』(アスコム)、『サイコパス』(文藝春秋)、『脳内麻薬』(幻冬舎)『ヒトは「いじめ」をやめられない』(小学館)など多数。また、テレビコメンテーターとしても活躍中。

中野信子小学館金額780円+税

「嫌い」という感情を生かして生きる!
人間誰しも、他人に対して部分的あるいは全体的に「好き嫌い」という感情を抱きがちです。「”嫌い”という感情を抑えられれば、もっと良好な人間関係を築けるのに・・・」とも考えますが、そもそも好悪の感情は、人間として生きていくうえで必ずついて回るもの。ならば、「嫌い」という感情をしっかり理解して、戦略的に利用することに目を向ければ、同性、異性を問わず、他人との日々の付き合いが楽に、かつ有効なものになります。そこで本書では、“嫌い”の正体を脳科学的に分析しつつ”嫌い”という感情を活用して、上手に生きていく方法を具体的に探っていきます。

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