わが子には、こうなってほしいと、親としてはさまざまな願いがあると思います。その願いの中には「行儀のいい子」「礼儀作法に優れた子ども」も含まれているはず。そこで今回は「行儀」という言葉の意味から、「行儀のいい子ども」の育て方を考えてみました。
「行儀」とは?
そもそも「行儀のいい子ども」の「行儀」とは、何なのでしょうか? 「行儀が悪い!」などと何気なくしかっているパパ・ママも少なくないと思いますが、この場合の「行儀」とは何なのでしょう?
「行儀」の語源
行儀とは辞書を調べると、以下のような説明が書かれています。
<礼儀の面からみた立ち居振る舞い。また、その作法・規則>(小学館『大辞泉』より引用)
つまり、「行儀」とは、立ち居振る舞いの一種なのですね。立ち居振る舞いが礼儀の面から見て優れている状態を「行儀がいい」と言うと分かります。
「行儀」という言葉をじっと眺めていると、「儀」を「行う」とも読み取れます。「行う」はいいとして、「儀」とはどういう意味の漢字なのでしょうか。漢字辞典で調べると、解説には「手本とすべき規準」と説明されています。
「人」偏に「羊」+「我」で「儀」。『漢字源』(学研)によれば、「羊」はおいしくて、よい生き物の代表。ヒツジのように整っていて、手本になる人を「儀」と表現し、その手本となる人の立ち居振る舞いを「行う」言葉として、「行儀」があるのですね。
「行儀」を使った言葉には何がある?
「行儀」は、他との組み合わせで、さまざまな関連用語もつくっています。例えば、岩波書店『広辞苑』で「行儀」を調べると、
- 行儀霰(あられ)
- 行儀作法
- 行儀強し
といった関連用語が掲載されています。他の辞書には、
- 他人行儀
- 行儀見習い
などが掲載されています。前者の3つは次のような意味。
- 行儀霰(あられ)・・・「規則正しく並んでいる文様」
- 行儀作法・・・「立ち居振る舞いについての作法」
- 行儀強し・・・「行儀正しい」
後者の2つは次のような意味になります。
- 他人行儀・・・「他人に対するように、うちとけないこと。また、そのさま」(小学館『大辞泉』より)
- 行儀見習い・・・「農家の子どもを、都市の富裕層の家に奉公させ,作法を身に付けさせる」(平凡社『世界大百科事典』より)
いずれにせよ、どの言葉の中でも「行儀」=「規則正しく整って、人の手本になるような立ち居振る舞い」を意味していると分かります。
英語で「行儀」はなんて言う?
一方で、海外では「行儀」を何というのでしょう? 『使い方の分かる 類語例解事典 新装版』(小学館)では、「行儀」の類義語として、「礼儀、エチケット、マナー、作法」が紹介されています。恐らくここに記された、「マナー」、「エチケット」は外来語のはず。
英英辞典『Macmillan English Dictionary』で調べると、「エチケット」(etiquette)は「a set of rules for behaving correctly in social situations」と書かれています。日本語にすると「社会の中で正しく振る舞うための諸規則」といった感じ。
「マナー」(manner)は複数形のmannersで、「traditionally accepted ways of behaving that show a polite respect for other people」と書かれています。「伝統的に認められた振る舞いの様式で、他人に対する礼節を示した行い」といった日本語になります。
あくまでもetiquetteは「ルールそのもの」を意味し、mannersは「社会的に規範とされる立ち居振る舞い」を言うので、人について「行儀がいい、悪い」と表現する場合の英単語は、mannersだと分かります。
「行儀」と「礼儀」の言葉の違い
先ほど、『使い方の分かる 類語例解事典 新装版』(小学館)には、「行儀」の類義語として「礼儀、エチケット、マナー、作法」が書かれていると紹介しました。この中に出てくる「礼儀」だとか「作法」だとかは、「行儀」と何が違うのでしょうか?
「礼儀」の言葉の意味とは
「礼儀」の意味については、『使い方の分かる 類語例解事典 新装版』(小学館)にも解説が載っています。同書によれば「礼儀」は、
<社会習慣として決まっている、人と接するときの正しい態度>(『使い方の分かる 類語例解事典 新装版』より引用)
とあります。さらに「礼儀」を小学館『大辞泉』で調べると、
<敬意を表す作法>(『大辞泉』より引用)
とも書かれています。「行儀」が立ち居振る舞い、行動の面を強調した言葉なら、「礼儀」はより心のあり方を含めた言葉なのだと分かります。
「作法」の言葉の意味とは
では、「作法」とは何なのでしょうか? 再び『使い方の分かる 類語例解事典 新装版』(小学館)を読むと、「作法」は、
<儀式などのときの定型化したふるまいの方法をいうこともある>(『使い方の分かる 類語例解事典 新装版』より引用)
とあります。同書によれば、カタカナの「マナー」にも近い言葉とされています。
「行儀」が広く社会の中で求められる広い意味での正しい立ち居振る舞いだとすれば、「作法」とカタカナの「マナー」は、もう少し狭い場面で求められるルール化された立ち居振る舞いを意味すると分かります。
「行儀が悪い」ってどういうこと?
「行儀」と「礼儀」、「作法」とカタカナの「マナー」の意味の違いが分かってきました。では、具体的に「行儀が悪い」とはどういった状態、どういった立ち居振る舞いを言うのでしょうか。
目上の人にあいさつができない、お礼ができない
「行儀」が広く社会の中で正しいと認められる、ヒツジのように公正な立ち居振る舞いだとすれば、例えばあいさつができない人は、「行儀が悪い」と考えられます。
その理由は、江戸時代以降、日本は朱子学(儒教を体系化した学問)の考えが根強く、年長者を敬って礼儀を尽くさなければいけない風潮が、広く社会の中で認められているからです。日本の社会の中で、目上の人にあいさつができない、お礼ができない子どもは「行儀が悪い」とみなされます。
公共の場で、決まった約束を守れない
公共の場所で、決まった約束を守れない子どもも「行儀が悪い」と考えられる可能性が高いです。
例えば公共の場である病院や駅舎などの待合室は、文字通り複数の人間が何かを待ち合う場所です。外食先の食堂はご飯を食べる場所ですし、まちにある公園は、公衆のために設けられた庭園や遊園地です。
複数の見知らぬ人が、何かを待つ場所で、じっと座っていられない、騒ぐとなれば、社会の中で広く正しいと認められているルールとは異なる立ち居振る舞いになるため、「行儀が悪い」と見なされるはずです。
食事をする部屋(食堂)で走り回っている子どもが居れば、社会的に広く正しいと認められるルールとは異なる立ち居振る舞いをしているため、「行儀が悪い」と考えられます。
公園は皆のための庭園や遊園地です。例えばわが子が遊具を独り占めして、他の子どもたちに使わせないような立ち居振る舞いをしていれば、当然「行儀が悪い」と言われます。
用途や目的が社会の中で広く認められている場所で、その約束事を破るような子どもは「行儀が悪い」と一般的に評価されるのですね。
「行儀よい子」の印象をつくるポイント
社会で広く「正しい」と思われている約束事に反する立ち居振る舞いをする子どもが、「行儀の悪い子ども」と見なされると分かりました。ならば、わが子を「行儀の良い」子どもにするためには、まず親自身が社会の規範やルールに敏感になり、子どもを従わせる必要があります。
押さえておきたい行儀「あいさつ」
先ほど、日本は江戸時代に、中国から輸入した朱子学を重んじたと紹介しました。朱子学とは儒教の教えを整理・体系化した学問で、年功序列を大切に考えます。その思想は子どもから大人に至るまで、さまざまな組織で、今の日本にも息づいていますよね。
中学校の部活ですら、先輩後輩の上下関係がやかましく言われます。芸能界も、テレビで見る限りでも、先輩後輩の関係に強く縛られていると分かります。
地域のコミュニティにおいても、年長者は無条件に大切にされる存在だとされています。そうした価値観が社会の中にある中で、わが子を「行儀のいい」子どもに育てたいのであれば、小さいころからあいさつについては、教え込む必要があります。
HugKumの過去記事によれば、あいさつは子どもが1歳のころから、パパやママなど保護者が率先して模範を見せてあげると、自然に覚えると言います。子どもがある程度大きくなってしまっていても、保護者がさまざまな場所であいさつをする姿を見せ続ければ、子どもにも伝わるはず。わが子はあいさつが苦手という印象があるのなら、早速、今日から取り組みたいですね。
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押さえておきたい行儀とマナー「食事の場面での振る舞い」
食事も「行儀の良さ、悪さ」が出る場面です。例えば外食のためにレストランに行ったとします。レストランは辞書で語源を調べると、「疲労を回復させる場所」という意味が書かれています。レストランは本来、ゆっくりと腰掛け、飲み食いをして、体力を養うために人が集まる場所だと分かります。
そのレストランで、わが子が走り回ったり、騒いだり、何も飲み食いせずに話し込んでいたりしたら、「行儀が悪い」と見なされても仕方がありません。
さらに食事の場面では、はしやナイフの使い方、スープの飲み方、ナプキンの広げ方など、定型化した振る舞いとして、マナーや作法も求められます。
親としては、むやみに立ち上がらない、走らないなど、まずは子どもに「行儀」を覚えさせ、その上で奇麗な食べ方など「マナー」や「作法」を教えればいいのですね。
「行儀」ではなく「マナー」(作法)については関連記事にも詳しいです。「行儀」のしつけが終わった段階で、参考にしてみてください。
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押さえておきたい行儀「公共の場所での立ち居振る舞い」
世の中には「公共の場所」と言われる場所がたくさんあります。便所、公園、広場、公共交通、学校、その他いろいろです。
行儀とは、社会の中で正しいと認められている、手本とすべき立ち居振る舞いを意味します。公共の場所にはそれぞれに目的があり、それぞれに正しいと広く認められる振る舞いがあります。
例えば、公園は公衆の庭園や遊園地ですから、遊具は独占しないといった「行儀」が考えられます。
学校は学ぶ場所ですから、授業中は立ち上がらずに、きちんと座って話を聞くという立ち居振る舞いが、社会的に求められています。
公共交通は多くの人を行き来させる場所と交通手段ですから、他の人の行き通いをさまたげない立ち居振る舞いが、「行儀の良さ」として求められるはずです。
わが子を「行儀のいい子ども」と周囲からも印象付けさせるためには、公共の場所が持つ本来の役割を考え、その役割から見て手本となるような立ち居振る舞いをわが子ができるように、しつけていきたいですね。
「行儀」を辞書で引いてみるだけでも意外に子育ての参考になる
以上、「行儀」について情報をまとめましたが、いかがでしたでしょうか? 「行儀」だとか「礼儀」だとか「マナー」だとか「作法」だとか、似たような言葉がたくさんありますが、立ち止まって一度辞書を調べてみると、言葉の本来の意味が分かり、子育ての参考になる場合も少なくありません。
わが子を「行儀のいい子どもにしたい」と思ったら、今回の記事のように「行儀」とは本来どんな意味の言葉なのか調べてみてはどうでしょうか。わが子のしつけの方向性が思わぬ角度から見えてくるかもしれませんよ。
文/坂本正敬 写真/繁延あづさ