Life is Tech(ライフイズテック)の讃井康智さんによる連載「アフターコロナ時代の教育クエスト」。第5回の新時代教育のキーマンは、サイエンス教育をリードするリバネスCTOの井上浄さんです。リバネスが取り組むサイエンス教育とはいったいどういうものなのでしょうか?未来を生き抜く子どもたちにサイエンス教育がなぜ必要なのか、たっぷりとお話を伺いました!
「世界一面白い研究所を作る!」
リバネスを立ち上げたきっかけは?
讃井 井上さんは、今やサイエンス教育をリードしている会社であるリバネスを、2002年に立ち上げました。リバネスを立ち上げたきっかけを教えてください。
井上 リバネスの理念は「科学技術の発展と地球貢献を実現する」です。日本には科学技術に関わる様々な課題があります。子どもたちの理科離れや、大学院で博士号を取った研究者が活躍できる場の少なさ、アカデミアの研究成果が社会実装されるまでの時間の長さ、アントレプレナーの不足……リバネスは、そんな課題感を共有した仲間と立ち上げました。「子どもたちの理科離れ」というと次世代の教育が目的だと映りますよね。それも事実ですが、でも僕自身は、本当は将来一緒に研究する仲間を増やしたいと思って始めたんです。
讃井 リバネスが小中高生向けに「出前実験教室」をずっと続けているのも「未来の仲間になる研究者を増やしたい」というのがモチベーションなんですか。
井上 はい。「出前実験教室」は、学校や教育現場、ときには企業のラボなどで、子どもたち向けに僕たちの取り組んでいる最先端の研究の面白さを伝えています。
リバネスを立ち上げた頃、僕は大学院生で、免疫やアレルギーの研究に夢中になっていました。当然、お金もないし研究の成果も出ていなかったのですが「世界一おもしろい研究所を作る!」という熱い想いがありました。10年後には研究の成果が出ているかもしれないし、そのときに一緒に研究をしている仲間がいるかもしれない。そう想像すると、10年後に23~25歳で一緒に研究をしている仲間は、今の小学生や中学生、高校生だ!と。
僕たちの最先端の研究を子どもたちに面白くわかりやすく伝えたら、仲間となる未来の研究者を増やせるかもしれない。そう思って、中学や高校へ行って、研究の面白さを伝えに行こうと。
讃井 スタートから発想がぶっ飛んでいて面白いです(笑)
井上 彼らに最先端の研究をわかりやすく伝えていくことで、将来、一緒に世界初を作って、それを社会実装して、より地球を良いものにしていきたい!これが今も僕の大きなモチベーションです。人生100年と思えば、やれることはたくさんあるので、この活動はまだまだやめられないですね。
子どもの課題発見力はすごい!
子どもたちの研究発表会に参加して
讃井 リバネスの行っている小・中学生のための研究所NEST(ネスト)の発表会に参加したのですが、子どもたちの発表だからと軽い気持ちで見に来たことを反省するほど、それぞれの研究のレベルが高く衝撃を受けました。
井上 子どもの視点は本当にすごいです。例えば「ゴキブリは右利きか左利きか」という研究をする子がいました。こんなの考えたことあります?
讃井 ないです!考えつかなすぎて、よく思いつくなと思いますね(笑)
井上 そうなんですよ。僕は大学でも教えていて、現役研究者として先端研究もしているけれど、実は身の回りのことでわかっていないことは本当に多いんですよ。そこに子どもたちなりの視点で切り込んで研究しているというのが非常に面白いですね。
讃井 研究テーマもさまざまでしたね。「川の中の微生物が発電するか」という研究をする子もいたし、自然が好きでキャンプを楽しみたいからという理由から「川の汚染を解決するための検証」をする子もいました。上履きの匂いが気になった子が「足の裏の匂いをどうにかできないか」という研究をしているのもいい視点だと思いました。
井上 子どもにとって身近なカブトムシの研究も目の付け所が面白かった。「カブトムシを飼っていると少しだけ土に硬いところが出来てくるけど、あれなんなの?」って。
讃井 カブトムシといえば、散々研究されていて、コレクターもたくさんいる。それでもわかっていないことが沢山あることが驚きでした。そんな「まだわかっていないこと」に子どもたちが独自の視点で切り込む姿を見ると、年齢関係なく、一人前の研究者としてあの場に立っているなと感じました。
井上 子どもたちは、みんなが研究者としての可能性を持っているんですよ。
讃井 私もそう思います。既存の知識を学ばせる環境の中で育っているから、なかなか研究する機会がないだけなのかもしれないですね。
私が以前、面白い研究テーマだなと思ったのが、「落ち葉は表向きと裏向きどちらが多いか」(注3)。まずこのテーマに着目することがおもしろい。研究の中身も、落葉した後の風の影響を考慮に入れて、落ちる瞬間の表裏と、風が吹いた後の表裏で統計を取って比較。腐食のしやすさにも注目して研究していました。
我々大人は落ち葉が落ちていることなんて、毎日見ているけどまったく目を止めていないですよね。子どもたちの課題発見の力にはかないません。
(注3)「なぜ落ち葉は裏向きが多いのか」研究 本村さんが文部科学大臣賞(長崎新聞社より)>>
研究には作法がある
讃井 NESTでは、子どもたちの可能性が最大限に引き出されているなと感じました。その仕組みはどう作っているのですか。
井上 うーん、まずは子どもをめちゃくちゃエンカレッジします。「え、それ世界で誰も知らないの?」「すげーじゃん!」と(笑)。というか、普通に驚きますよ、それマジか?って(笑)。それから、子どもたちはどう研究していいか最初はわからないので、研究のお作法はきちんと教えます。
讃井 研究にはメンターがつくのですか。
井上 そうですね。メンターは研究のサポートを担います。研究は、わからないことを明らかにすることです。例えば、どういう条件をセットしたら変化を調べることができるのか。「1個だけやって変わったー!って言っても誰にも信じてもらえない。変わらないものと比べるんだ」と伝えたりします。
讃井 大学院で学ぶようなことですね。子どもたちの研究とメンターの専門分野は違うこともありますか。
井上 メンターの専門分野と子供の研究テーマが必ずしも一致しないこともありますが、基本的に研究のお作法は一緒です。子どもが興味を持ったテーマでどういう部分を明らかにしたいのか、それを引き出しながら、もっと面白い情報を加えたり、新結合が起こるようなアイディアを投げ込んだりするのがメンターの役割です。
明らかにしたい目標はひとつだけど、そこに向かうアプローチはひとつじゃないのも研究の面白さです。僕らは、そのプロセスとロジックをサポートします。「君が見つけた新たな発見が何かを生むかもしれない!」そんなワクワクをどうやって作っていくかというのが僕らの使命ですね。
中編に続く
リバネススクールNESTラボは全国から受講できます!
株式会社リバネスの運営するスクールNEST LAB.(ネストラボ)は、小中学生のための研究所です。自分の好きなものや興味のあることを追求し、社会の課題と結びつけて、チームで研究活動を実践します。「好きを究めて知を生み出す」ことのできる子どもたちが形にはまらず、挑戦し続けられる基礎力を養います。
プロフィール
プロフィール
東京大学教育学部卒業後、東京大学教育学研究科にて研究者として博士課程まで在籍。専門は教育政策・学習科学。2010年にライフイズテックを創業。ITキャンプ・スクールには累計4万6千人以上が参加し、中高生向けIT教育サービスでは世界2位まで成長。ディズニーとコラボした「テクノロジア魔法学校」や学校向け教材「ライフイズテックレッスン」などオンライン教材も提供。現在は各地の教育委員会の専門委員やNewsPicksのプロピッカー(教育領域)も務める。
撮影/田中麻以(小学館)
文・構成/HugKum編集部