ナメクジはカタツムリの進化系
「ナメクジに殻(から)を付けるとカタツムリになる」と考える人もいますが、順番的には「カタツムリから殻を取るとナメクジになる」が正解です。カタツムリとナメクジ、それぞれの概要や生態を確認しましょう。
軟体動物の「腹足綱」に分類
ナメクジは、軟体動物の総称である「腹足綱(ふくそくこう)」に分類されます。文字通り、腹面全体を足にして這(は)い回る生物を指し、アワビやサザエ、カタツムリも同類です。
腹足綱は、生息地によって、陸産・淡水産・海産があり、ナメクジは陸産に該当します。
カタツムリと同様に、肺で呼吸する「有肺亜綱(ゆうはいあこう)」に属しますが、カタツムリは「カタツムリ科」、ナメクジは「ナメクジ科」で別の科です。
一般にナメクジは、カタツムリの殻が退化した種だといわれています。陸上では、殻の材料となるカルシウムを摂取するのが容易でありません。ナメクジは殻をなくすることで、陸上でより暮らしやすく進化したのです。
夜行性で湿った場所を好む
ナメクジは、湿気を好む生物で、多湿な場所に多く見られます。活動域は数メートル程度で、さほど広くはありません。基本的には、夜に活発に活動し、日が昇ると薄暗い場所に戻ります。
薄暗い場所にじっとしているときのナメクジは、丸々しているのが特徴です。普段のイメージとはほど遠く、見つけると驚くかもしれません。活動を始めると、細長い形状に戻り、頭が入るところなら、どこにでも入り込みます。
また、ナメクジは雌雄の区別がなく、2匹いれば産卵できます。秋頃に産卵するケースが多く、1回に産む卵は20~60個で、数回に分けて産卵します。ナメクジの寿命は約1年といわれ、生涯で200~300個の卵を産みますが、産卵後に死にます。
カタツムリとナメクジの違いは?
進化前・後のカタツムリとナメクジは、同じ科目に分類されます。殻くらいしか違いがあるようには見えませんが、何が違うのでしょうか? 両者の違いを見ていきましょう。
カタツムリは石灰質を摂取する
カタツムリは、殻を維持するためのカルシウムの摂取が必要なため、昆虫の死骸やコンクリートを食べることがあります。これは、ナメクジとは大きく異なる点です。
ぶよぶよしたカタツムリを見ていると、「どうやって固いものを食べるの?」という疑問がわくかもしれません。
実は、カタツムリの口内には、1万本以上の歯が付いた「歯舌(しぜつ)」があります。咀嚼力(そしゃくりょく)は強く、固いものも食べられます。海外には、肉食のカタツムリもいるほどです。
カタツムリの内臓は殻の中
ナメクジとカタツムリを分ける殻は、カタツムリの体の一部です。ヤドカリのように殻を替えられませんし、殻を取ったからといって、ナメクジになるわけでもありません。
カタツムリの殻は、内臓を保護するために必要なものなのです。殻が大きく破損したり無理矢理剝(は)がされたりすると、内臓がダメージを受けます。ほとんどのカタツムリは、そのまま死んでしまうでしょう。
一方、ナメクジは体内に内臓を持ちます。
ナメクジは乾燥や外敵に弱い
カタツムリは、殻に入れば、乾燥や敵から身を守りやすくなります。しかし、ナメクジには殻がありません。乾燥が激しかったり、敵に襲われたりすると、非常に不利な状態です。
ナメクジには、「殻がないからこそ身軽」というメリットがあります。
乾燥が激しいときは、湿気の多い場所に隠れればよく、敵が来たら、素早く逃げることも可能です。ナメクジ、カタツムリとも一長一短で、どちらが優れているとはいえません。
また、ナメクジは敵に襲われたとき、粘液を大量に出すのも特徴です。粘液はカタツムリよりも遙(はる)かにネバネバしていて、この点もカタツムリとは大きく異なるといえるでしょう。
駆除方法と注意点
ナメクジもカタツムリも、植物の葉を食べるため、ガーデニングの天敵です。大量発生する前に、適切に駆除しましょう。駆除方法と注意点を紹介します。
駆除には薬剤や熱湯を使おう
カタツムリやナメクジが大量発生したら、駆除剤を使うのが効率的です。カタツムリ類用の駆除剤を選んで散布しましょう。スプレータイプ・粒材など、さまざまな種類があるので、植物や散布範囲に合わせて選ぶのがおすすめです。
農薬を使いたくない場合は、熱湯をかけて駆除する方法があります。ナメクジ、カタツムリに熱湯をかけると、タンパク質が固まって即死します。
ただし、熱湯が直接植物にかからないよう、ナメクジ、カタツムリを地面に落としてから駆除しましょう。
また、卵を発見したときは、早急に取り除くことも必要です。卵は塊になっているので、割り箸(わりばし)などでつまんで駆除します。
「塩をかける」は効果が薄い
ナメクジ駆除でよくいわれる「塩をかける」は、現実的な駆除方法ではありません。
1匹を駆除するのに多量の塩が必要なうえ、時間もかかります。塩をまけば、塩害の恐れもあるため、植物のそばで塩を使うのは避けましょう。
ナメクジが塩をかけると小さくなるのは、体の成分のおよそ90%が水分でできているためです。
ナメクジの体を覆う膜は水分を通しやすく、塩をかけると浸透圧の影響で水分が体外に出てしまいます。体が小さく縮んで、そのまま死んでしまうように見えるのです。
ただし、ナメクジに塩をかけても、溶けてなくなるわけではありません。水分を吸収すれば元に戻ることもあり、確実に駆除したいときには不向きです。
死に至る寄生虫に要注意
カタツムリやナメクジには、「広東住血線虫(カントンじゅうけっせんちゅう)」が寄生しているケースがあります。これはネズミなどの肺動脈内に寄生する線虫です。
寄生された人は、潜伏期間1~3週間の後、頭痛や倦怠感(けんたいかん)・吐き気・全身の痛み・発熱などの症状が現れます。
症状が重い場合は、麻痺(まひ)や失明といった後遺症が残ったり、死亡したりする可能性もあります。
自分はもちろん、子どもがカタツムリやナメクジに触れないよう、よく注意することが必要です。万が一触れてしまったら、石けんでしっかりと手を洗いましょう。
同じ祖先から進化した仲間同士
カタツムリとナメクジは、どちらも巻き貝の一種で、生物学的には同じ種類に分類されます。カタツムリから進化したのがナメクジだと覚えておきましょう。
両者は性質もよく似ていて、乾燥を嫌い、湿度のある場所を好みます。ただし、カタツムリは殻を維持する必要性から、カルシウムの摂取が必要です。
ガーデニングの天敵であるカタツムリやナメクジも、それ以外は無害に見えますが、これらに付いている寄生虫が原因で、深刻な感染症を引き起こすことがあります。
子どもには、カタツムリやナメクジに触れないこと、万が一触れてしまったら、しっかり手を洗うことを教えておきましょう。
構成・文/HugKum編集部