デジタルディバイドって?
現代社会では、デジタル環境の充実度が生活の質に大きな影響を与えるようになりました。これにより「デジタルディバイドの問題が顕在化した」といわれています。
「デジタルディバイド」とは何を意味するのでしょうか? デジタルディバイドの概要について紹介します。
デジタル化社会での情報格差
デジタルディバイドとは、インターネットやデジタルデバイスを使える人と使えない人の間に生じる情報格差のことです。
あらゆるものがデジタル化されている現代社会において、ICT(情報通信技術)やデジタルデバイスなしでは必要なサービスや情報にアクセスできません。
デジタル化に対応できない人は「情報弱者」となり、教育・社会・経済などあらゆる面で不利益を被ることとなるのです。
また、得られる情報の質は、ITスキルやデジタルデバイスの性能・IT環境の質の高さに比例します。デジタル環境にある人同士で生じる「利用できるデバイスの格差」「情報の質の格差」も、「デジタルディバイド」の一部です。
デジタルディバイドの種類
デジタルディバイドと呼ばれる情報格差は、世界中で発生しています。どのような種類があるのか、主なものを見ていきましょう。
先進国と途上国で起こる格差
先進国と途上国で起こる格差は、「国家間デジタルディバイド」と呼ばれます。先進国と途上国でのデジタルディバイドは、主に経済的な理由が原因です。
社会全体をデジタル化するためには、ITインフラの整備や人々へのIT教育等が不可欠です。国は多くの資金を投じる必要がありますが、経済的に不安定では対応できません。
デジタル技術に大金をつぎ込む先進国とアナログ社会を維持する途上国との差はますます広がり、今や国際的な問題の一つとして認知されています。
都市部と地方部で起こる格差
都市部と地方部の間の情報格差は、「地域間デジタルディバイド」と呼ばれます。
例えば、過疎化が進む日本では、ICTやデジタルデバイスを使いこなす人が都市部に集中してしまうことが、その原因です。
ITインフラの整備や質向上は必然的に都市部優先となり、地方が取り残されるケースが少なくありません。都市部に住む人と地方に住む人の間の情報格差は顕著で、その差は開く一方なのです。
個人間や集団間で起こる格差
個人や集団の年齢・学歴・所得などによって起こる情報格差は、「個人間・集団間デジタルディバイド」と呼ばれます。
経済的に困窮している家庭では、デジタルデバイスの購入やインターネット環境を整えることが困難です。裕福な家庭よりも、使えるデバイス・サービスの質が劣ってしまいます。
また、学歴の高い人や若い人ほどITリテラシーが高く、必要な情報やサービスへのアクセスがスムーズです。IT知識のない人やインターネットと縁遠い人と比較して、優位に立つ場面が多くなるでしょう。
デジタルディバイドの問題点
デジタル化に対応できている人とできていない人では、社会での暮らしやすさが大きく異なります。デジタルディバイドによってどのような問題が生じるのか、具体的に見ていきましょう。
あらゆる格差がますます広がる
デジタル化が進む現代社会では、インターネットにアクセスできなかったり、ITリテラシーが低かったりする人が少なからず発生してしまいます。その場合、教育や就職、人とのコミュニケーションなどで不利益を被りがちです。
例えば、近年は家庭でのオンライン授業を導入する学校が増えています。IT環境が整っている家庭と整っていない家庭では、教育の格差が発生しやすくなるでしょう。
また、SNS・メッセージアプリがコミュニケーションの主流となっており、スマホを持たない人は孤立しがちです。SNSで無数のユーザーとつながる人がいる一方で、誰とも関わりを持てない人も生まれています。
緊急時の対応が遅れる
デジタルデバイスを活用できれば、災害や緊急時にも必要な情報にアクセスしやすくなります。現状把握や次に取るべき行動が分かりやすく、適切な行動が容易です。
それに対し、インターネットを使えない人は、テレビやラジオしか頼れる手段がありません。情報のタイムラグが発生しやすく、緊急時の対応が遅れがちです。
高齢者が取り残される
一般に、高齢になるほどデジタルツールとの親和性が低くなるといわれます。社会のデジタル化を急ぐ日本では、高齢者が取り残されるおそれがあると懸念する声も少なくありません。
とりわけ地方部に住む高齢者は、スマホさえ所持していない人もいます。公共の手続きやサービスをデジタル化した場合、対応できない高齢者は多いでしょう。
超高齢社会といわれる日本では、高齢者へのIT支援が非常に重要な問題となっているのです。
デジタルディバイドの原因
現代社会において、ICTを活用できる人とできない人の差は顕著です。情報格差が生まれる原因には、どのようなものがあるのでしょうか。
デジタルディバイドの原因といわれるものの一部を紹介します。
所得や教育水準が低く機器が使えない
家庭の貧困は、デジタルディバイドを引き起こす原因の一つです。経済的に苦しい家庭では、インターネット回線を利用したり、デジタルデバイスをそろえたりするのが困難なことが多いためです。
子どもに十分な教育のチャンスを与えられず、ITスキルやリテラシーが低いまま成人した場合、いざ就職しようと思っても給与の高い職に就きにくく、経済的に苦しい状況が連鎖してしまう可能性もあります。
一方で裕福な家庭は、インターネット環境が整っており、子どもにも十分な教育を与えることが可能です。
子どもはITスキルやリテラシーを適切に身に付けやすく、就職にも有利なためよい企業に就職し、経済的な不自由を感じずに生活できるでしょう。
ITインフラやIT人材が不足
国や地域間のデジタルディバイドは、ITインフラやIT人材の不足が主な原因です。
一般的に企業は、採算性の高い地域からITインフラの整備を進めるため、離島や山間部のITインフラは必然的に後回しにされやすく、デジタルディバイドが発生してしまいます。
また、国そのものに経済力がない場合は、全社会的にITインフラを構築することがほぼ不可能です。ほとんどの人はインターネットにアクセスできず、ITスキルを身に付けられる人はほんの一握りとなります。
IT人材の不足が常態化し、先進国との情報格差は拡大する一方となるのです。
ICTを使いこなせない
高齢者や障害者の中には、身体的な理由からICTを使いこなせないケースがあります。ICTを自由に使える人との格差は生じやすくなるでしょう。
特に高齢者の場合は、デジタルツールの複雑な操作方法や小さ過ぎる文字、横文字の説明に抵抗を覚える人が多いようです。
さらに、社会のデジタル化が始まったときにすでに高齢だった人は、ITリテラシーを学ぶ機会が得られていません。
インターネットの利便性に興味を持つより、トラブルを懸念する人が多いことも、デジタルディバイドが発生する理由の一つでしょう。
デジタルディバイドの対策
デジタルディバイドの問題が顕在化している昨今、国や自治体・企業などが積極的にデジタルディバイド解消に取り組んでいます。具体的な例を見ていきましょう。
無料で利用できる機器を設置
自治体によっては、無料で利用できるパソコンや通信機器を備えているところが少なくありません。
経済的な理由からデジタルツールを使えない人も、必要な情報にアクセスでき、デジタル社会から置き去りにされにくくなります。
プログラミング教育やオンライン授業の導入に伴い、無償で子どもにデジタルデバイスを貸し出す学校も増えています。経済的な困窮が情報格差に直結している現在、非常に有益な施策といえるでしょう。
ICT教育を広めてIT技術者を育成
慢性的なIT技術者不足といわれる日本では、ICT教育を導入し将来のIT技術者を育成する取り組みが始まっています。
2020年度には小学校におけるプログラミング教育が必修化され、子どもは学校でパソコンやタブレットの動かし方、ITリテラシーを学ぶようになりました。子どもが等しくデジタル教育を受けることは、将来的なIT技術者の育成や情報格差の縮小に有益です。
また近年は、生産性向上や業務効率化を図るため、ITシステムを導入する企業が増えています。職場間でのデジタルディバイド発生を防止するため、IT研修を導入する企業が増加中です。
高齢者や障害者のICT利用をサポート
総務省は「誰ひとり取り残さない、人に優しいデジタル化」を掲げ、国を挙げてのデジタル活用支援を行っています。
2021年6月には、全国およそ1800カ所で、主に高齢者を対象としたデジタル講習会が開催されました。これは2025年まで継続される予定で、1000万人の参加を目標としています。高齢者のICT利用をサポートする動きは高まっているといえるでしょう。
一方で障害者も、高齢者と同様に「デジタル活用支援員推進事業」の対象です。全国のさまざまな自治体で「障害者ITサポートセンターの運営」「パソコンボランティア養成・派遣」などが実施されています。
参考:デジタル活用支援令和3年度事業実施計画 等|総務省
参考:令和2年版 障害者白書|内閣府
デジタルディバイドの課題に目を向けよう
デジタル化によって社会が便利になっていく一方で、経済的に困窮している人や高齢者、障害者は置き去りにされがちです。デジタル化によるよい面ばかりを見ずに、デジタルディバイドという格差問題が発生していることも理解しておきましょう。
特に、超高齢社会といわれる日本では、デジタル技術を使えない高齢者への支援は必須です。近所の高齢者や自分の両親がスマホの操作に苦労しているところを見掛けたら、積極的に声をかけてあげましょう。
一人一人のわずかな配慮が、デジタルディバイドの解消につながっていくかもしれません。
文・構成/HugKum編集部