目標13「気候変動に具体的な対策を」
SDGs(持続可能な開発目標)は、2015年の国連サミットで採択された国際目標です。「誰一人取り残さない」を原則に、国際社会が2030年までに達成すべきことを17の目標と169のターゲットで示しています。目標13が掲げられた背景や世界の現状を理解しましょう。
地球を襲う温暖化の危機
現在、地球は温暖化の危機に晒されています。目標13は、気候変動やその影響を軽減するために「緊急対策」を講じる重要性を示しています。国際社会が一丸となって早急に対策を講じなければ、地球上のあらゆる生命の存続が脅かされる恐れがあるのです。
・気温上昇による水不足や砂漠化
・氷河の融解よる海面上昇
・干ばつの深刻化
・異常気象や災害の多発
・絶滅危惧種の増加
例えば、温暖化の影響で干ばつが続けば、十分な農作物が収穫できなくなります。発展途上国では食糧不足や水不足が深刻化し、飢餓や貧困に苦しむ人が増加するでしょう。
SDGsでは「飢餓をゼロに」を目標2に掲げていますが、気候変動問題を解決しなければ、その目標も達成できない可能性があります。
参考:JAPAN SDGs Action Platform | 外務省
主な原因は「温室効果ガス」
温暖化の主な原因に、人類の活動によって発生する「温室効果ガス」が挙げられます。温室効果ガスが排出されると大気中のガスの濃度が高くなり、地表面の温度が上昇してしまうのです。
温室効果ガスの中で、地球に最も多く影響を及ぼしているのが「二酸化炭素」です。石炭や石油などの化石燃料の燃焼で発生するため、工業化が進む先進国の責任は重いといえるでしょう。
全国地球温暖化防止活動推進センターが公表する「2018年の世界の二酸化炭素排出量」によると、日本は中国・アメリカ・インド・ロシアに次いで二酸化炭素の排出量が多い国です。
参考:データで見る温室効果ガス排出量(世界) | JCCCA 全国地球温暖化防止活動推進センター
気温が2度上昇した地球の姿は?
世界の平均気温が産業革命以前より2度上昇すれば、地球に甚大な影響が及ぶといわれています。環境省によると、「気候変動政府間パネル(IPCC)」の予測は以下の通りです。
・サンゴ礁の99%以上が消失
・昆虫の18%、植物の16%、脊椎動物の8%が生息域の半分以上を失う
・洪水の影響を受ける人口が170%増加(1976〜2005年を基準)
・干ばつの影響を受ける都市人口が41.07±21.35千万人になる(1986〜2005年を基準)
ほとんどの地域では極端に気温が高い日が増加するため、夏の暑さによる死亡リスクが高まります。中緯度の陸域および湿潤な熱帯域では降水量が大幅に増え、水害が多発するでしょう。
参考:
「おしえて!地球温暖化」 – 環境省
IPCC「1.5℃特別報告書」の概要
国際社会の取り組み「パリ協定」
SDGsの採択とほぼ同時期に、国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)では「パリ協定」が締結されました。2020年以降の「温室効果ガス排出削減」に向けた国際社会の新たな枠組みで、京都議定書の後継にあたります。
パリ協定では、「平均気温上昇を産業革命以前に比べて2度より低く保ち、1.5度に抑える努力をする」という目標を掲げました。気温が2度上昇すればサンゴ礁の99%が消失しますが、1.5度に抑えられれば消失を70~90%に留めることが可能です。洪水の影響を受ける都市人口も170%増から100%増に抑制できる可能性があります。
目標を達成するには、二酸化炭素の排出量を抑制すると同時に、排出量と吸収量(森林など)のバランスを取る必要があります。
温暖化を防ぐ鍵は「脱炭素化」
二酸化炭素の排出を防ぐことを目的に、化石燃料からの脱却を目指す取り組みは「脱炭素化」と呼ばれます。日本を含めた世界中でエネルギーの見直しが始まっており、化石燃料に頼らない「脱炭素技術」が注目されているのです。
再生可能エネルギーへの移行
地球に優しいエネルギーとして近年注目されているのが、「再生可能エネルギー」です。再生可能エネルギーとは、発電時や熱利用時に二酸化炭素をほとんど排出しないエネルギーを指します。
代表的なものには、太陽光・風力・水力・地熱・太陽熱・雪氷熱・バイオマスなどがあり、どのエネルギーも枯渇せず繰り返し使えるのが特徴です。
日本は、依然として化石燃料への依存度が高い傾向にあります。加えて国内のエネルギー資源が極端に乏しいため、自国でまかなえる再生可能エネルギーを開発していくことが今後の課題となるでしょう。
参考:2020—日本が抱えているエネルギー問題(前編)|スペシャルコンテンツ|資源エネルギー庁
省エネルギー対策の徹底
日本のようなエネルギー自給率が少ない国にとって、「省エネ」には「エネルギーの安定的な確保」と「地球温暖化対策」の二つの目的があります。
世界では脱炭素化に向けて省エネを義務化する動きがあります。日本では、事業者向けに「エネルギーの使用の合理化等に関する法律(省エネ法)」を制定し、工場・事業・輸送の分野においてエネルギー使用者への規制を行っているのです。
省エネ設備への入れ替えや導入に支援金を出すなど、「支援補助金」による省エネルギー投資促進に力を入れている点にも注目してみましょう。
参考:省エネ法の概要 | 事業者向け省エネ関連情報 | 省エネポータルサイト|資源エネルギー庁
森林吸収源対策の実施
二酸化炭素の排出量を抑えると同時に、二酸化炭素を吸収する「吸収源」を増やすことも重要です。
森林は光合成で大気中の二酸化炭素を吸収し、酸素を発生させます。特に、間伐をして森林整備をした森林は、間伐しない森林よりも二酸化炭素の吸収量が多いことが分かっています。
そのため林野庁では、吸収源対策としての「森林整備事業」に力を入れているのです。森林整備事業では、植付け・下刈り・間伐の作業を申請して実施した場合、都道府県から補助金が交付されます。
参考:森林整備事業:林野庁
目標13に関する企業の取り組み事例
目標13の達成に向け、多くの企業では「脱炭素化」を掲げたさまざまな取り組みを行っています。その取り組みの一例を紹介しましょう。
日本航空株式会社「バイオジェット燃料」
航空機は石油から作られる「ジェット燃料」を原動力としており、飛行時に排出する二酸化炭素の量が非常に多いことが指摘されています。
日本航空株式会社では、二酸化炭素の排出量が少ない「バイオジェット燃料」の国産化に成功しました。通常のジェット燃料にバイオジェット燃料を加えることで、飛行時の二酸化炭素排出量が削減されることが実証されています。
また、ゴミになるはずの「衣類」から作られたバイオジェット燃料は、製造過程での二酸化炭素排出量も少なく、環境負荷が軽減できるのが特徴です。今後は「クリーンなフライト」が当たり前になるかもしれません。
参考:日本初、衣料品の綿から製造した国産バイオジェット燃料を搭載したフライトを実施|JAL企業サイト
旭化成株式会社「グリーン水素」
近年は化石燃料に代わる新たなエネルギー源として、「水素エネルギー」が注目されています。旭化成株式会社は、アルカリ水を電気分解して水素を作る「アルカリ水電解システム」および「グリーン水素」の開発に成功しました。
石炭や天然ガスを由来とする水素は、製造過程で二酸化炭素が生じるのが一般的です。しかしアルカリ水電解システムでは、再生エネルギーを活用してアルカリ水から水素を作るため、二酸化炭素が発生しません。
「資源が枯渇する心配がない」「環境に優しい」という点において、グリーン水素は脱炭素化の救世主になる可能性があるでしょう。
参考:ヨーロッパにおける「グリーン水素」実証プロジェクト本格始動 | プレスリリース | 旭化成株式会社
個人が日常生活でできる取り組みは?
二酸化炭素は、私たちの日々の生活によっても排出されています。一人一人が省エネを心がければ、その結果はいずれ地球規模で表れるでしょう。日常生活で簡単にできる地球温暖化防止への取り組みを紹介します。
家庭でのエネルギー消費量を減らす
エアコンや電気ストーブ、洗濯機などの家電は、電気がなければ動きません。原子力や自然エネルギーによる発電もありますが、家庭用電気の大半は化石燃料による「火力発電」です。火力発電は二酸化炭素を発生させるため、家庭でのエネルギー消費量を減少させれば温暖化の防止につながります。
エネルギー消費の多い家電は、空調機器・冷蔵庫・洗濯機・照明器具などです。クールビズでエアコンの使用量を控えたり、電気をこまめに消すなどして、家庭でのエネルギー消費量を抑える努力をしましょう。
「3R」で物を大切に使う
家庭ゴミの多くは、焼却処分されます。廃棄物が多くなればなるほど、焼却に伴う二酸化炭素の発生量が多くなるため、ゴミの削減は温暖化の抑制につながります。地球上の貴重な資源を枯渇させないためにも、普段の暮らしに「3R」を取り入れましょう。
・Reduce(ゴミを減らす):エコバッグ・マイボトルを利用する
・Reuse(繰り返し使う):化粧品やシャンプーの容器を繰り返し使う・買い替えずに修理に出す
・Recycle(再利用する):古着やぼろ切れは資源ゴミやリサイクルボックスに出す
手遅れになる前に行動を
地球温暖化は年々深刻さを増しています。気温が2度上昇した場合、自然災害リスクが増大したり、絶滅危機に瀕する動植物が増えるなど、豊かで美しい地球を次世代に引き継ぐことができなくなるでしょう。
SDGsの目標13は、他の目標とも密接な関連があります。2030年までに全ての目標を達成するためにも、世界が協力して気候変動に具体的な対策を講じる必要があるのです。
文・構成/HugKum編集部