脱炭素化とは?
地球温暖化が進みつつある現在、国際社会の中でも重要なテーマとされている「脱炭素化」について解説します。
温室効果ガス排出を実質ゼロにすること
電気を利用するにはエネルギーが必要です。石油や石炭を利用する火力発電はエネルギーを作るポピュラーな方式ですが、化石燃料を燃焼させることで大量の二酸化炭素(CO2)が発生してしまいます。
CO2は、温暖化の原因となる温室効果ガスの一種です。
世界規模で温暖化が進んでいる現在、各国で温室効果ガスの排出削減が叫ばれており、日本国内でも環境省は2050年を目標に、温室効果ガスを実質ゼロにする「カーボンニュートラル(脱炭素)」を促進しています。
カーボンニュートラルとは、経済活動や生活の中で排出される温室効果ガスと森林が吸収するガスの釣り合いがとれた状態のことです。このバランスがとれていれば、ガスの排出量は実質ゼロと考えられています。
参考:脱炭素ポータル|環境省
目的は地球温暖化ストップ
産業革命以降、経済活動が活発になるとともに温室効果ガスの排出量も増加しました。
CO2濃度の変化によって、世界全体の平均気温は約1.2度上昇したといわれています。このままのペースが続くと、21世紀末には2000年と比較して4.8度の気温上昇が起こる可能性があるといわれているのです。
1997年に日本で行われたCOP3では、90年代と比較して先進国全体で約5%の温室効果ガス削減を掲げる「京都議定書」が締結されました。
そして、2015年のCOP21で新たに締結されたのが「パリ協定」です。ここでは世界の平均気温上昇を2度までに設定し、1.5度より低く抑えるための努力を追求することが目標とされています。
参考:
2020年以降の枠組み:パリ協定|外務省
「IPCC 1.5℃ 特別報告書」ハンドブック
脱炭素社会を実現できないとどうなる?
地球温暖化による深刻な問題が起こっている今、もし脱炭素化を実現できなかった場合に起こり得るリスクの一部を紹介します。
海面が上昇・台風や干ばつの増加
近年では異常気象による災害も珍しくなく、台風や山火事などの自然災害と温暖化には関連があるといわれています。なぜ温暖化が進むと異常気象が頻発するのでしょうか。
気温が上昇すると陸や海から蒸発する水の量が増加することで土地が乾燥し、干ばつや山火事につながります。さらに、水分の蒸発により空気中に含まれる水蒸気が増加することは、強力な台風の原因になるのです。
地球温暖化によって、現在進行形で起こっている問題の一つが「海面上昇」です。
氷河の融解と海水の膨張によって海抜の低い島国が水没するといわれていますが、将来的には島国の多いアジアだけでなく、ヨーロッパの一部にも影響が出ると予測されています。
多くの種が絶滅・生態系に影響が出る
地球に存在する生物も、温暖化の影響を受けざるを得ません。
既に2008年には世界に存在するサンゴ礁の19%が失われ、今なお15%が危険な状態に置かれているといわれています。栄養を失ったサンゴが白く変色する白化現象を引き起こす主な原因は、温暖化による水温上昇です。
動物や植物にはそれぞれ生育に適した環境がありますが、水温や気温が高くなると適切な環境が奪われてしまいます。氷の上で狩りをするホッキョクグマやオーストラリアの森に生息するコアラなど、温暖化によって絶滅の危険に瀕している動物は少なくありません。
参考:国際サンゴ礁年2018
作物の収穫減・食糧が不足
雨が頻繁に降るようになったり、逆に雨が極端に少なくなったりすると、それぞれの地域で行われている農業にも影響が出てきます。作物が安定して収穫できない場合、食糧不足が起こりかねません。
平均気温が上がることで、従来その土地で育てられていた作物が生育に適さなくなる可能性もあります。米や小麦、トウモロコシといった主要な農作物の収穫量が減少すれば、多くの人々が飢餓で苦しむことになるのです。
海面が上昇し海流が変化すると、漁獲量にも大きな影響が起こり得ます。食糧不足による飢餓や価格の高騰は、食糧の大半を輸入に頼っている日本にとっても重要な問題です。
世界中で脱炭素化への取り組みが加速
脱炭素社会を実現するために、各国で実施されている取り組みについてチェックしていきましょう。
再生可能エネルギーの普及
2020年のEUにおいて再生可能エネルギーによる発電量が初めて化石燃料を上回りました。
再生可能エネルギーとは、風力や太陽光などの自然エネルギーを使った発電ですが、日本国内の電力に占める再生可能エネルギーの比率は17年時点で16%と、未だ低いのが現状です。
従来は火力発電や原子力発電が中心だった中国でも、再生可能エネルギー発電へのシフトが進んでいます。中国のエネルギー政策が方向転換したのは「50年を目標に再生可能エネルギーを全電力の8割に拡大する」という習近平政権の発言も理由の一つです。
参考:再生可能エネルギーの導入は進んでいますか? | |資源エネルギー庁
ガソリン車の撤廃を目指す
CO2を含む自動車の排気ガスも、温室効果ガス増加の原因です。
自動車メーカーでも環境を意識してガソリンと電力を動力源とするハイブリッド車を開発していましたが、EUでは、ハイブリッド車・ガソリン車共に2035年以降の新車発売が禁止されました。
各国のメーカーは盛んに電気自動車(EV)の開発に取り組んでおり、日本でも日産「リーフ」などのモデルが販売中です。
参考:電気自動車(EV)は次世代のエネルギー構造を変える?!|資源エネルギー庁
CO2排出に課税する「炭素税」の導入
一部の国では、CO2の排出量に応じて課税を行う「炭素税」を導入しています。
炭素税は環境負荷の軽減を目的とした環境税の一つであり、経済的な負担を加えることで温室効果ガスの排出を減らそうとするものです。化石燃料を燃やすと多額の炭素税がかかるため、より環境にやさしい発電方式への転換が期待できます。
海外では高い税率を設定している場合もありますが、炭素税の導入によって経済成長が阻害された例はほぼありません。CO2の排出削減が見込める上に、税収を社会保障費やインフラ整備にあてられるのが炭素税のメリットです。
参考:炭素税ってなんだろう?
日本の脱炭素化への動き
海外では脱炭素化のためにさまざまな取り組みが実施されていますが、日本ではどのような対策が取られているのでしょうか。
「2050年カーボンニュートラル宣言」
2020年10月、菅首相は所信表明演説において2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを宣言しました。諸外国が積極的な対策に取り組む一方、これまで現実的な数値を目標に掲げてきた日本が大胆な目標を打ち出したのです。
「50年カーボンニュートラル」を実現するため、新たなエネルギー政策としてエネルギー基本計画が発表されました。
この計画では、温室効果ガスが発生しない再生可能エネルギー発電の比率を36~38%まで引き上げることを目標にしています。安全性の高い方法で、安定した電力を供給するのがエネルギー計画の大きな課題です。
参考:2050年カーボンニュートラル・全国フォーラム|内閣官房ホームページ
化石燃料依存からの脱却が課題
2018年のデータでは、日本の総エネルギーのおよそ8割が化石燃料によって賄われています。再生可能エネルギーを利用する海外と比べ、化石燃料への依存度が高いといえます。
日本の再生可能エネルギー比率が低い理由としては、地理的な条件も考えられます。日本は森林面積が多いため、大規模な太陽光発電を行う場所を確保するのが難しく、風力発電に適した平地が少ないのも大きな問題です。
化石燃料依存から抜け出すためには、風土に適した発電方式を見つけなくてはなりません。エネルギーシフトを目指して、悪条件を克服する技術開発が急がれています。
参考:2020—日本が抱えているエネルギー問題|資源エネルギー庁
日本が進めている取り組みの例
新たな取り組みの一つが、本格的な「炭素税の導入」です。
2012年には既に炭素税の一種を導入していましたが、その税率はヨーロッパなどと比較すると低いものでした。さらなる効果を見込んで、段階的な税率の引き上げが検討されています。
また、自治体による取り組みも活発です。50年までにCO2排出量を実質ゼロにすると表明した都道府県および市町村は「ゼロカーボンシティ」と呼ばれ、電力の自給などで国からの支援が受けられます。
費用の補助などが受けられるため、再生可能エネルギー発電を導入しやすくなるのがメリットです。
脱炭素化のために私たちができること
では、日頃の生活の中で、私たちが脱炭素化のためにできることには、どんなことがあるのでしょうか? 気軽に実践できる三つの対策を紹介します。
公共交通機関を使う
自動車の排気ガスにもCO2が含まれているように、輸送や移動も環境と密接に関わっています。エコな暮らしを意識するなら、出かけるときの移動手段に気を付けてみましょう。
近場なら排気ガスが発生しない徒歩や自転車で、遠くに行くなら公共交通機関を利用するのがおすすめです。
個人の意思でモノの輸送方法を変えることは難しいですが、自分が移動する方法であればすぐにでも変えられます。自動車に乗る回数をなるべく減らして、電車やバスなどの交通手段を積極的に活用してみましょう。
ごみを減らす方法を考える
排出されたごみの多くは、ごみ処理場に運ばれ焼却されます。ごみを燃やす際にはCO2が発生し、埋め立て地や処理場の自然環境が悪化するなど、ごみが環境に及ぼす影響は深刻なものです。
ごみを減らすためには、消費者である私たちが意識を変えていかなくてはなりません。そこで、近年注目を集めているのが「エシカル消費」です。「倫理的な消費」を意味するこの考え方は、人や環境、地域に配慮した消費を推奨しています。
リサイクル素材で作られた製品や分解可能プラスチックを使ったものを選べば、ごみは削減可能です。資源を大切にするために、不要なものを購入しないことも重要な行動の一つでしょう。
電気の契約会社を変える
私たちは発電や送電を行っている電力会社に月々の電気代を払っていますが、自分が契約している会社についてよく知らないという人も多いのではないでしょうか。
再生可能エネルギー発電を積極的に導入している会社やCO2排出量の少ない会社など、それぞれの電力会社は異なる特徴を持っています。
各社が公表している情報を見て、再生可能エネルギーによる発電の割合が高い会社があれば、電力会社の乗り換えも検討してみましょう。契約に関する申し込み手続きは、インターネットからも気軽に行えます。
未来を守るには脱炭素化が不可欠
地球温暖化が進み、世界的な異常気象の多発や生物の絶滅などの変化が起こっている今、温暖化対策は極めて重要な課題です。温暖化の原因である温室効果ガスを削減するために、各国では脱炭素社会に向けた動きが本格的に始まっています。
政府や企業の取り組みはもちろんですが、私たちの日常生活の中でも小さなことから脱炭素化が実践可能です。移動手段を変えたり、ごみ削減のために工夫をしたり、できることは多数あります。
何気ない日常の行動から環境について意識して、自分にもできる温暖化対策に取り組んでいきましょう。
文・構成/HugKum編集部