そもそも小学校の「かけっこ」とは?
もうすぐ運動会。一番の関心事は「かけっこ」で何位になれるかな? ということかもしれませんね。
筆者は、小学校教員として15年間勤め、1500人以上のお子さんの成長を支えてきた経歴を持ちます。
特に、低学年のお子さんをたくさん受け持っていました。
この記事では、子どももパパママも気になる「かけっこ」を深掘りしていきます。
かけっこ、徒競走、短距離走の違い
小学校の運動会に限って言うと、「かけっこ」「徒競走」「短距離走」の違いはほぼありません。
厳密にいうと、「徒競走」は走る速さを競う、「短距離走」は自分のベストを尽くして短距離を走る、などの意味があります。
しかし、小学校の運動会ではそこまでの使い分けはされていません。
1年生に「徒競走」をいう言葉を使ってもイメージがわきにくいため、低学年だけ「かけっこ」と表現している学校もあります。
走る距離やコース
子どもたちの発達・運動能力・体力に合わせて、走る距離やコースを変えています。
低学年は50メートル、中学年80メートル、高学年100メートルなど、学年が上がるごとに走る距離が長くなる学校がほとんどです。
校庭のサイズに合わせて、走るコースが決まります。校庭が広ければ100メートルの直線コースを走ることができますし、校庭が小さければトラックを走るカーブコースになります。
1年生は、直線コースを走ることが多いです。それは、「一生懸命走ること」と「コースを意識しながらカーブを走ること」の2つを同時に行うのが難しい発達段階だからです。1年生ではまず、ゴールを目指してまっすぐ走ることを目標にしています。
かけっこの走る順はどうやって決めている?
「うちの子は1位になれるかしら・・・。でもあの子と一緒に走るのか、強敵だなあ」
これはかけっこを見守る親の正直な気持ちですよね。
実は学校では、毎年の運動会で順位に偏りが出ないよう、走順を決めています。気になるかけっこの走順のヒミツをご紹介します。
走力が同じくらいの人同士を組み合わせる
最もメジャーな方法が、50メートル走のタイムをもとに組み合わせる方法です。
だいたい同じくらいのタイムのお子さん同士を組み合わせるようにします。そうすると、走る前から結果が見えることを防ぎ、子どもたちが「このメンバーの中なら勝てるかも!がんばるぞ!」という気持ちで走れます。
この方法で工夫されていることがいくつかあります。
まず、一緒に走る組み合わせを作った後、順番はランダムにしていることです。「走る順が1番のグループは一番遅い人たち」というような印象をつけさせないためです。また、3・4年生以降は男女の体格差・体力差が出てくるので、男女別にしている学校が多いです。
身長順で決める
身長順でかけっこの走順を決める場合もあります。特に、1年生・春の運動会の場合です。
低学年では高学年よりも、身長・足の長さが走力に影響を与える傾向がある。ただ体が大きいから足が速いのではありません。体の大きい子は、運動量・食事の量がしっかりとれている子が多いからです。
また、走る順を新たに覚える必要がないのもメリットです。1年生にとっては、名前順・身長順をやっと覚えたころに、かけっこの走順まで覚えるのは大変です!
しかも運動会は全員体育着ですし、他のクラスの子なんてまだ知らない子ばかりで、至難の業なのです。
1年ごとに決め方を変える学校も
走順の決め方をあえて1年ごとに変えている学校もあります。
実は50メートル走のタイムをもとに決める方法では、公平性もありますが、困るお子さんもいるのです。
クラスのリレーの選手になれるくらい速いのに、かけっこになるとどうしても学年1位の子に勝てない、というようなお子さんです。
一般的には走るのが速いのに、かけっこで勝てないのは切ないですよね。そこで、今年は身長順、来年はタイム順…と工夫して、いろいろな子が1位になれるチャンスを作っているのです。
少数派ですが、名前順・くじ引きで決めたり、高学年になると自分たちで走順を決めたりする学校もありますよ。
かけっこで速く走るコツ
小学校で体育の指導をしていると、「あとこれができたらもっと速くなるのに…」と感じることがたくさんありました。
ただ、運動会本番までに練習の時間が十分にとれないことで、指導してもなかなかお子さんに伝わらなかったことがあります。
かけっこでいい結果を出すには、やはり練習が大切です。ここでは、ご家庭での練習のポイントを3つご紹介します。
スタートの瞬発力
練習の成果がもっとも出しやすいのが、スタートダッシュです。スタートの瞬発力は、脳の処理速度に関係しています。
「パン!」の音が聞こえる→「スタートだ!」と脳が判断する→足や腕を動かす信号を脳から送り出す→走り出す
という一連の流れの速さです。とても個人差が大きいので、運動会前だけではなく、日ごろから鍛えておくと良いです。
スタートの合図をよく聞き、「パン!」と聞こえた瞬間にスタートできるように練習できるといいですね。
また、練習の時は笛の合図でも、運動会本番は雷管(スタート用意のピストル)を使うのが一般的です。
本番でピストル音を始めて聞き、びっくりしてスタートが遅れる子もいます。スタートの合図が変わることをお子さんに知らせておきましょう。
カーブは体を傾ける
カーブコースを走る場合には、そのための練習をしておくと良いでしょう。
カーブに走り慣れていない子は、カーブで体が外側にふれてしまってスピードが落ちてしまうことがあります。体を内側に傾けて走ることを練習しておくと良いです。
子ども用スニーカーの「瞬足」など、学校のトラックを走ることに対応して作られているアイテムもあります。
6年生など身長が高い子にとっては、カーブがきつすぎてインコースが走りづらい場合もあります。
同じメンバー内であれば、走るコースを変更してもらえることもありますよ。
また、カーブを走っていると、コースが分からなくなってしまう子もいます。他のお子さんのコースを走ってしまうと、「進路妨害」として最下位になる場合もあるので、気をつけたいものです。
ゴールの先まで走り抜ける
かけっこでどよめきが起こるのが、ゴール手前で順位が入れ替わる場面です。
筆者は教員時代に、順位を判定する審判役を何度も担当していた経験がありますが、実はゴール付近でスピードを落としてしまうお子さんがとても多いのです。
「もうすぐゴールだー!」と思って気を抜いてしまうとスピードが落ちるので、ゴールの先まで全力で走ることを意識するのがコツです。
実際に低学年で50メートル走のタイムを計測するときには、ゴールの先にカラーコーンを置いておき、そこまで全力で走るように指導していました。
運動会では、「ゴールの先の〇〇にタッチするまで思い切り走るんだよ」と声をかけておくと、低学年のお子さんでもイメージしやすいですね。
運動会ではお子さんの頑張りを認めて
今回は、小学校の運動会「かけっこ」の裏側をご紹介しました。春の運動会ではそろそろ練習が本格化してくるころです。かけっこをがんばりたいお子さんには、ぜひ練習ポイントを活用してみてください。
大人は、お子さんの順位だけに一喜一憂せず、一生懸命頑張ったこと自体を認めるようにしたいですね。たとえ希望の順位になれなくても頑張りを認めてもらえたお子さん、「頑張ってよかった」と感じられるお子さんは、次のチャンスも意欲的に取り組むことができます。
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文・構成/yurinako