男性育休に関する勤務先の制度を7割が「知らない」
育児・介護休業法の改正に伴い、2022年(令和4年)10月1日から「産後パパ育休」が新たにスタートします。この制度のポイントは、子どもが生まれてから8週以内に、4週間までの休みを2回に分けて男性が細かく取得できる制度です。
出産直後の妻が最も大変な時期に休み、里帰りを経て家に戻ってくる妻をサポートするためにまた休むなど、休み方の柔軟性が高まるのですね。
その実施に先立ち、江崎グリコ株式会社から『男性育休に関する意識調査』が発表されました。
育休の経験者および予定者の男女400人に聞いたその調査結果に寄れば、この「産後パパ育休」の制度に関して詳細まで知っている人は、(男女合わせて)30.5%しか存在しません。
さらに「産後パパ育休」の利用を含む男性の制度を勤務先が整えているか、詳しく知っていると答えた人は25.3%にとどまりました。
言い換えれば、男性育休の取得に関する勤務先の現状について、詳しく知っている人のほうが圧倒的に少ないのですね。
一方で、「産後パパ育休」に関する勤務先の支援制度を詳しく知っている人の場合、男性の育休(産後パパ育休)を積極的に活用したい(させたい)と考えている様子も調査結果から分かります。
その意味で、企業の側が社員に対し、さらなる積極的な情報発信を求められていると調査では結論付けられていました。
【調査概要】
調査名:育休経験者及び育休取得予定者の育休意識調査
調査主体:江崎グリコ株式会社
調査対象者:現在妊娠中もしくは0歳~2歳までの末子を持ち、本人またはパートナーが男性育休取得済み・または取得予定の男女
調査期間・方法:2022/08/01~2022/08/03、インターネット調査
サンプル数:事前調査4,316名 本調査男女200名 計400名
男性(パパ)の育休が話題になる現実
これまでHugKumでも、さまざまなパパ育休の形を紹介してきました。
社内初で管理職の立場ながら育休を取得した男性の体験談や、男性育休100%企業の男性管理職が考える育休論、1年という長期の育休を取得した男性同士の対談、さらには、新聞社など激務が予想される会社で育休を取得した男性の話などなど。
育休を取得したパパにきちんと会って(あるいはオンラインで対面して)話を聞いていると、取材者としては、育休を取得する男性がなんだか世の中のスタンダードになってきたように錯覚してしまいます。
しかし、女性(ママ)の育休が記事にならないのに、男性(パパ)の育休が記事になってしまう時点で、まだまだ育児休業制度を利用する男性が圧倒的に少ない、珍しい、という現実が証明されてしまっているようにも感じます。
現に、男性の育児休業制度利用者は、まだまだ1割ちょっと。その1割の男性たちも半数は、2週間未満という短期の休みにとどまっています。
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「育休を取ろうという発想も最初はなかった」
この現状を変えるヒントが、先ほどの江崎グリコの調査であらためて分かったのかもしれません。
男性育休を大々的に会社側がプッシュしていないと「育休を取ろうという発想も最初はなかった」と取材で答えたパパ育休経験者の言葉が思い出されます。
反対に、男性育休を全社的にプッシュしている幾つかの職場では、育休の取得男性=当たり前というカルチャーが、かなりのレベルで浸透しているとも過去の取材で知りました。
もちろん、男性育休を大々的にプッシュすれば、その制度に当てはまらない社員との間で不公平感が生まれる、といった会社側の懸念もあるようです。何かを後押しする制度をつくれば、制度に漏れる人がどこかに必ず出てくるという話ですね。
しかし、女性にとっては当たり前の育休制度の利用者が、男性の場合は全体の1割ちょっとにとどまっている、そんな現状はやはり、いびつな状況のはずです。
少し不公平に見える部分があっても、「社会の公器」とも言われる企業は、あくまでも状況が許す範囲で、男性の育休制度の利用を男性社員に後押しすべきなのかもしれませんね。
広い視野を持った「社会人」は会社でも戦力に
ちなみに、江崎グリコ株式会社の調査にコメントを寄せる大妻女子大学の准教授・田中俊之さんによると、育休制度の利用を通じて家庭や地域など他の社会領域の価値を、男女に限らず理解できるようになると言います。
誕生からの1年は、愛情に基づいた親子関係の形成に重要な期間だとされています。ですから、本来、「父親になる」のであれば、男性も育休を取るのが当たり前であるべきだと言えます。
育休を取得した男性とそのパートナーの満足度はともに約6割と高い数字が出ています。夫として、そして、父親としてケアを担うことが、家族の幸せにつながることがよく分かるデータです。育休の取得は単に個々の家族にとって貴重な時間になるだけではありません。日本では社会人というと企業で働く会社員とほぼ同義ですが、育休を通じてケアの重要性に気づいた男性は、家庭や地域といった他の社会領域の価値を理解できるようになるはずです。
上記のコメントのように、広い視野を持った社員の存在が、結果として会社の成長を引っ張ってくれる可能性もあるはず。また、男性育休の全面的な後押しは、ニュースバリューがまだある現時点では、企業のPR活動にもプラスに働くと感じます。
各企業の担当者は、新制度を含む男性の育休について、社員への認知徹底をいま一度考えてみるべきではないでしょうか。
ユニチャーム✕Glicoの育休への取り組み例はこちら≪
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文/坂本正敬
【参考】
※ 江崎グリコ株式会社の『「男性育休」に関する意識調査』
※ 育児・介護休業法 改正ポイントのご案内 令和4年4月1日から3段階で施行 – 厚生労働省